【Lab】リサーチを深めていく ~プレゼンに向けて~

8月20日にスタートしたAPAF Labは、8名のメンバーがそれぞれ関心をもつ研究テーマについてリサーチを深めていき、9月17日に関係者向けの“中間プレゼンテーション”を、10月23~25日に一般公開の“最終プレゼンテーション”を実施します。

Labの大きな目的のひとつは、バックグラウンドの異なるメンバー同士がそれぞれの活動や価値観を共有し、新たに世界観を広げながらリサーチを深めることで、新たな価値観を養うことにあります。

しかし、プレゼンテーションで発表するというミッションがあることで、自身のリサーチを深めるだけでなく、「どう見せるのか?」「どう伝えるのか?」も意識せざるをえません。

画面からそれぞれの期待や緊張が感じられるなか、週に一度のオンライン活動“Living Room Gathering”にてリサーチの進捗報告&ディスカッションを重ねていきます。

ファシリテータープレゼンテーション

各自のリサーチの報告に入る前に、まず『チェックイン』にてその日の体調や気分を報告した後、Labファシリテーターのプレゼンテーション(20分)が行われました。メンバーがファシリテーターについて知る機会というだけでなく、リサーチを進めるにあたってアイデアのヒントを得てもらったり、プレゼンテーションの方法の参考にしてもらうためです。また、ファシリテーターもメンバーと同じく、同時代を生きるパフォーミングアーツ関係者として目線を共有できればという狙いもあります。

武田力とアルシタ・イスワルダニは、自分の活動を紹介。武田は、東日本大震災をきっかけに演出をおこなうようになったことや、フィリピンの演劇祭での作品発表、現在滞在中の熊本県八女での取り組みを紹介しました。アルシタは、集団のなかでの在り方について「ヒエラルキーがなく、全員で協力して制作する」ことの重要さについて実感を語ります。

「たこ焼き」を素材に、第二次世界大戦での記憶を未来へとつなげる作品

なかでもインパクトが強かったのが、フィリピン在住のJKアニコチェのプレゼンテーションでした。

「今考えていることについて話します」と話はじめました。コロナにより変化したこと。オンラインでの交流に疲れを感じてきたこと。フィリピンではパフォーマンスは政治的なテーマが多く、5年前のJKは「パフォーマンスは革命の可能性をリハーサルする場だ」と言っていたけれど、今はもうリハーサルではなく『パフォーマンスが革命そのものになること』を目指していること。

そして自分の髪の毛を掴み、ハサミを当てました。

「私が今からすることはリハーサルではありません」
「みなさんがリサーチの発表をしている間に、髪を剃ります」

メンバー達が驚くなか、JKは髪をバッサリと切り落としました。

髪の毛にハサミを入れるJKアニコチェ(中央下段&最下段)と驚くメンバー達

その後バリカンで頭を剃ろうとしますが「充電が切れちゃった!」と照れ笑い。場は和みましたが、これ以降は、髪を剃りながらLabは実施されていきます。この「パフォーマンスで見せる」というプレゼンテーションは、持ち時間20分を越えても余韻を残し続けました。

その後、参加メンバーによる簡単なアイスブレイクをおこない、互いが発言しやすく積極的な空気感ができたところで、いよいよリサーチの進捗報告に入ります。

リサーチのアイデア発表(150分/休憩含む)

すでに前回(Lab2回目の8月27日)、それぞれが取り組みたいリサーチについてのアイデアはシェアしています。【→各自のリサーチテーマと問題意識】 これがLab活動の重要なベースとなっています。

それ以降、メンバーはおのおのリサーチを深め、“Living Room Gathering”でひとり15分の発表と、それに対する15分のディスカッションがおこなわれます。

前回はまだアイデア段階だったものが、どのように進んでいるなのか。単なるスライドによる発表ではなく、数名は、その発表方法にも工夫を凝らしていました。

たとえば、フィリピンから参加していているネス。「実験してみたいことがあります」と、全員にZoom画面から離れて構わないので好きな場所に横になるように指示し、アプリを使ってマニラの雑踏の音を流します。離れた国から参加したメンバー達がオンラインを通して、音によって距離を超える体感を生み出そうと試みました。

ネスの発表にて、好きなところで寝ているので画面から消えてしまったメンバー達

ほかのメンバーも、“自分のアイデアをシェアする手法”はさまざま。

制作してきた動画を流す間に自分は眠るというパフォーマンス的な発表をしたり、複数のアーティストにインタビューをした音声をシェアしたり、自身のダンス作品を映像で紹介したり……

発表を視聴しているメンバーからは、その内容だけでなく発表方法にも刺激を受け、「自分はどうしよう?」と意識しているのが感じられました。

シンガポール在住ショーンの発表では、スライドに各自がコメントを書き込んでいく
マレーシア在住ジュンイーは、リサーチアイデアを伝えるために動画を作成

ディスカッションも活発で、発表者が「みなさんの地域ではどうですか?」と問いかけるほか、「最近こんなことがあったんだけど」と踏み込んで具体的なエピソードを話す人もいます。

インスタグラムの話題が出たときには「コロナによってSNSがどう変化したか」と地域ごとの情報をシェアしたり、フェミニズムの話題について、各国のフェミニズム運動について紹介し合ったりしました。また、「あなたが暮らしている文化背景がわかりません。もう少し詳しく教えてくれませんか?」と、異なる文化圏について理解を深めようと質問しあうやりとりが多くありました。

なかにはまだ取り組みたいリサーチがアイデア段階でしかなく、「自分のやろうとしていることが漠然としている」と言っていた人もいます。しかし相手の発表を見て、ディスカッションを重ねてしているなかで「私の視点はこうだったんだと気づいた!」と目を見開く場面もありました。

また、こんなこともありました。

インドネシアに住むニアが話す時に、近くのモスクから祈りの声が賑やかな歌のように聞こえてくるのです。メンバー達が思わず笑顔になり、「問題ないよ」とジェスチャーを返します。ニアが話す間は、平たいパソコンの画面空間に、遠くの地域から声を乗せた風が吹いているよう。遠く離れた土地の空気を感じながらの会話は、まるでその現地に集まってディスカッションを交わしているようで、また確実にリアルタイムで繋がっていると実感できる出来事でした。オンラインでしか実現できないアートキャンプならではの、地域や国境を越えた体験です。

このように、全員の発表とそれに対するディスカッションが2週にわたっておこなわれました。

最後、バリカンの充電ができて坊主になったJK。みんなから拍手が起きた

どう見せるのか? どう伝えるのか?

ここまで、まだアイデアを膨らませている最中の人もいれば、もっと具体的なリサーチテーマに向けて突き詰めていこうとして人も、逆に視野を広げようとしている人もいます。「プレゼンテーションでは経過を見せるべき?」「ただ解説するだけじゃないプレゼンテーションの見せ方がしたい」など、どのように自分のリサーチを届けるかと思案する声がいくつかあがりました。

自身の内にあるものをどう見せるのか、少し緊張を見せるメンバー達に、ファシリテーターのアルシタがエールを送ります。

「道に迷った時は、出発点に立ち返ります。そうすると、今ある問いをし続けるべきか、それとも変えるべきかを考え、より深い問いにたどり着ける」

今はまだ、Labの実施にあたって撒かれたアイデアの種に、様子を見ながら水をあげているところ。中間プレゼンテーションを経てそのアイデアが人目に触れる時、どんな芽を出すのか。そして、Lab後半ではさまざまな分野の講師によるレクチャーも実施予定です。多くのインプットと、お互いからの刺激を受けながら、最終プレゼンテーション(一般公開:10月23~25日)を目指しています。

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Asian Performing Arts Farm (APAF:エーパフ) 2020
APAF_tokyo

東京芸術祭における舞台芸術の育成プログラムです。OpenFarmでは【会期:10/20~25】に向けプロセスを公開していきます/APAF is a Tokyo Festival program supporting the development of young artists. https://apaf.tokyo