【Lab】8/27 各メンバーのリサーチテーマと問題意識

Labでは、メンバー個人の興味に基づいてリサーチやフィールドワークをおこない、メンバー同士も意見を交換し合います。そのきっかけとして、新たな視点や行動を誘発するための4つの「trigger(トリガー)」を設けています。

APAF Lab Triggers(トリガー)

「Isolation(s)」「R/Evolution」「Prayer: Unseen」「Nature/Object」

4つのいずれもAPAF2020のテーマである“Anti-Body Experiment(抗体実験)”から派生しています。抽象的で、記号的だからこそ、思考を膨らませ、自身のリサーチを深めるヒントになるだろうという狙いです。

メンバーはLabに応募する段階で、すでに興味を惹かれるトリガーをひとつ選択しています。

この日は、それぞれのアイデアやコンセプトを発表。どんなことが気になっていて、なぜこのトリガーを選んだのか、Labで深めていきたいことはどんなことかなどを、1人12分で話します。

この発表により、今アジアで活動する若いLabメンバー達の問題意識、コロナやオンラインにおけるまなざしが浮かび上がってきました。

トリガー『Isolation(s)』 (Isolation:隔離、孤立)

●山口惠子(日本)

「東日本大震災を忘れかけているということが、コロナにおいても起きるのではないか」と不安があると言います。コロナ禍で「何かを変えられる」とモチベーションを高くしている人もいるけれど、その感覚はすぐに忘れてしまうのではないか。少しずつ普通の生活に戻っているなか、「コロナ禍で感じたIsolation(孤立)をもまた忘れてしまわないために、今の経験や記憶をどう保っていけるのか。記録に残し、表現したい」と語ります。

この“忘れる”ことについては、「コロナ禍は夢のような感覚」と、今の現実感のなさを語る山口さん。これに何人もが大きく頷き、コロナに対する感覚を共有しました。

●ショーン・チュア(シンガポール)

おなじく東日本大震災を振り返り、「人々の孤立が苦しみをうんでいると感じた」というショーン。彼は2年前から防災に関するリサーチを行っており、シンガポールのテロ対策アプリ『SG SECURE』などを紹介しました。

なかでも防災訓練に焦点をあて、「災害のシミュレーションを行う防災訓練は、大規模な『現実代替ゲーム』のようなものではないか」という考えのもと、「災害に備えるとは?そしてパンデミックに備えるとはどういうことか?」と疑問を投げかけました。さらに、この防災訓練を災害対策としてだけでなく、未来のシミュレーションのために転用したいとも考えています。

他のメンバーからは自国の防災プログラムなどの情報があげられ、ショーンもまた「Labのリサーチが孤立したものでなく、参加者間でどう影響し合えるかかにも興味がある」と今後の活動に期待を寄せました。

トリガー『Prayer: Unseen』
(Prayer:祈り・祈る人、Unseen見えない)

●ジュンイー・マー(マレーシア)

建築家としての経験があるジュンイーは、空間が人に与える影響に関心があります。

まずトリガーについて分析し、「“ : ”という記号はその前と後が関連づいていることを示している。祈りは見えないのか?見えないものは存在しないのか?」という視点で、祈りと目に見える行為について着目します。

祈りの前に手を洗って清めることはコロナウイルスのために手を洗うしぐさと似ていたり、大きな力に願いを託す宝くじを買うことは祈りと関係するのかもしれない、と考えます。今後は、そういった儀式的な行動についてリサーチを深めていきたいと語りました。

●アレクシス・カン(中国)

アレクシスもまたトリガーに注目。Prayerの“pray(祈る)”、Unseenの“see(見る)”に焦点をあて、見えないものに祈ることについて思考しています。

コロナ禍においてオンラインでのやりとりが増えたことを前提に、インターネットの世界では、自分のアクセスしたい情報だけを見た結果『エコーチェンバー現象』が起こり、それが新たな孤立化(隔離)を生んでいると考えています。ダンサーとして身体を通して世界と関わるからこそ“ライブ”に着目し、「ライブとはなにか?パフォーマンスとはなにか?」と、コロナ禍のオンラインにおけるパフォーミングアーツについてLabを通して深めていこうとしています。

●ボルム・カン(韓国)

「個人の問題と社会問題の繋がりを見出したい」と言うボルムは、韓国の宗教コミュニティでコロナの集団感染が起きたことに着目しています。なぜなら、母親がその『新天地イエス協会』に入信し、それにより疎遠になっているからです。

「パンデミックが拡大してから、カルト宗教を信じる人が多くなりました。それらはとても排他的なコミュニティーですが、インターネットの情報拡散によって信者が増え、政治にも介入し、社会的な影響力が増しています」。

韓国社会はどうやってこの強力なコミュニティの代わりになる「心の拠りどころ」を見つけられるかという社会的なテーマと同時に、母親のことを理解したいという個人的な問題意識もあり、リサーチは姉妹にも手伝ってもらおうと計画しています。

トリガー『R/Evolution』
(Revolution:革命、Evolution:進化)

●ネス・ロケ(フィリピン)

現在は日本の大学院に留学中ですが、オンライン上でフィリピンの家族や友人と関わることが多く、2つの国に同時に存在していると感じているそうです。インターネットの広大さについて、今読んでいる『帝国』(著者:A・ネグリ、M・ハート)の映像資料を紹介。この本を参考に、いまやオンライン空間やテクノロジーが国家とは別に現実社会に影響を与えている現状をふまえ、そこで作用している「アルゴリズム」へ興味があると語ります。今後の具体的なリサーチとしては、アーティストへ「コロナ禍で、現実とバーチャルでどんな体験をしているのか」というインタビューを計画しています。

●ニア・アグスティーナ(インドネシア)

コロナの禍における困難な状況下でどのように進化(evolution)していけるかを考えたいと言います。

リサーチの軸となるのは“インスタグラムストーリー”。2015年から若手振付家の活動に携わるなかで、若い振付家やダンサーが活発にインスタグラムで活動や政府批判や悩みをシェアしてることが気になっていました。

「人はどうやってインスタストーリーを通して記憶を残すのか」に注目し、Labではさまざまな人にリサーチに協力してもらう計画です。インドネシアの若い振付家やダンサーを集めて小規模の「ラボ」を開く予定で、「アレクシス、ショーン、惠子さんなどのパフォーマーや、ファシリテーターの方々にも参加してほしい」と希望します。

●スナヤナ・プレムチャンデル(インド)

劇作家アリス・バーチや、ラディカルフェミニストのシュラミス・ファイアストーンら女性の言葉を引用しながら、以前より「フェミニストユートピアはどんなものか?」をテーマに社会のあり方を問い直す活動をしていたと、自身のバックグラウンドを説明します。

しかしコロナが拡大し、今は、舞台芸術のあり方について問い直さなければいけなくなったと言います。舞台芸術に触れようとしても時間・言語・収入などの問題があったり、演劇ジャンルごとでも分断が起きています。その現状はコロナでより加速しているという現状を踏まえ、Labリサーチでは、都市のサブカルチャーを書きだすためのインタビューを実施しようと計画しています。

話したいことは尽きずに最後は駆け足となりましたが、それぞれが自分のリサーチテーマに関係がありそうな人に興味を持ち、質問や意見が飛び交いました。また住んでいる国の状況や、持っている知識が異なるため、「こんな情報もあるよ」とアイデアのシェアが幅広くおこなわれました。バックグラウンドが異なるからこそ、互いへの好奇心が募ります。

ただ、Zoomで集まるのは今回でまだ2回目。オンライン上で何人もが意見を交換するための共通マナーは、まだ手探りなところがあります。発言の合図や、音声ミュートのタイミングなど、回を重ねるうえでルールを設けていく必要もありそうです。

ちなみに休憩中はそれぞれが自由に過ごしています。ビデオオフにして離席したり、食事をとったりしてリフレッシュ。一瞬、同時間にオンライン稽古をしていたExhibitionメンバー達(画像右下)が合流して「そっちはどう!?」「会いたいよ!」と盛り上がる場面も。別々のプロジェクトとして動いていても、同じAPAFのプロジェクトとして互いを気にかけながら、それぞれの活動に取り組んでいます。

次週のLabからは、1日につき4人ずつ、さらに詳しくアイデアやコンセプトを掘り下げていきます。ファシリテーターからは「週に1度の集まり以外でも研究のプロセスを記録していこう」との提案で、情報を共有できる『Lab Open Board (Field Notes)』が設置されました。動画、音声、リンクなどを自由にシェアすることができるようになります。

Labメンバー達に共通しているのは、コロナ禍と、オンラインでのコミュニケーションという2020年に世界中が直面している問題に強い関心を持っているということ。人によっては、2か月のLab期間を超えて、今の時代を生きるアーティストとして取り組み続けていくだろう広いリサーチテーマに取り組もうとしている人もいます。

一般公開の最終プレゼンテーション(10月23~25日)まで約2か月。メンバー達は、自身の興味を掘り下げ、リサーチを深め、その過程を共有していきます。アジア各地から集まった同世代が集まることで、それぞれの価値観や世界観がどう刺激され、影響しあうのか、楽しみです。

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Asian Performing Arts Farm (APAF:エーパフ) 2020
APAF_tokyo

東京芸術祭における舞台芸術の育成プログラムです。OpenFarmでは【会期:10/20~25】に向けプロセスを公開していきます/APAF is a Tokyo Festival program supporting the development of young artists. https://apaf.tokyo