Art Interaction というアプローチ : Art Interaction (5)

Taishi Kamiya
Art Interaction
Published in
7 min readDec 31, 2018

前回の記事では、Post Design Thinkingとして、既存のDesign Thinkingの課題を解決するための様々なアプローチを紹介しました。

その中で、視点をずらすアプローチとして、いま現在の状況ではなく、ありうる未来の状況を想定しデザイン行為を行うSpeculative Designであったり、人間中心からあえて離れプロダクト同士のコミュニケーションを中心に設計するThing-Centered Design、課題解決ではなく問題提起によって既存の枠組みを超えた発想を促すArt Thinkingや、筆者がまとめているArt Interaction Desingなどを紹介しました。

この記事では、Art Interaction Designで目指す、アートの視点の導入(=Art Interaction)について、概要を説明したいと思います。

新しい価値軸をつくる

上で紹介した「視点をずらす方法」は、一体何のために行うのでしょうか?

基本的には、過去の記事で述べたように、Design Thinkingによる課題解決のアプローチで発見しにくい、課題解決に基づかない価値、または未知の価値を発見するためのアプローチだと捉えることができます。

既存の価値軸と新しい価値軸を説明する例として、楽器をとりあげます。

楽器と聞いて多くの人が想像するものは、ギターやドラムやピアノといった、バンドやオーケストラなどで「弾く」ための楽器であると思われます。(楽器=)弾くための楽器という既存の価値軸の上では、楽器は「弾け」る必要があるため、既存の文脈で解釈できないものは生み出すことが難しく、長い間、大きなビジネス構造の革新はありませんでした。

一方で、現在、世界で最も普及している楽器は、少し前であればコンピュータ、現在はiPhoneであると言われており、(いわゆる何かを演奏するために)「弾く」ではない楽器という価値軸の上で、Appや機器を通じた様々な新たな価値が生みだされ、今や市場を覆している現状があります。

一般的なDesign Thinkingでは課題を発見し、課題を解決することでユーザーの体験価値を向上するソリューションを導き出しますが、その課題を定義するためには既存の価値軸(文脈)が必要となるため、必然的にそのソリューションもその軸上にプロットされます。

一方で、新規事業開発においては、既存のビジネスモデルやエコシステムをも刷新するような未知の価値が必要となるケースがあり、そういった価値は既存の価値軸の延長線上にはありませんので、課題解決のアプローチでは生み出すことが難しいと考えられます。

そのため、新しい価値軸を作り、その新たな価値軸の上で顧客に提供しうる新しい体験価値を探索する必要があります。そこで、新しい価値軸を探索し、発見するためのアプローチとして、アーティストの作品制作のプロセスが参考になるのではないかと考えました。

デザイナーとアーティストの制作プロセスの違い

このセクションの内容は、2017年秋に筆者がArt Interaction Designのプロセスを設計するにあたり、Copenhagen Institute of Interaction Design在籍中に実施した調査の結果の一部になっています。

デザインプロセスにアーティストの制作プロセスにおける視点を導入するにあたり、実際に彼らがどのようなプロセスで作品を制作しているかを把握することを調査の目的とし、計17名のDesigner, ArtistにDepth Interviewという形でインタビューを実施しました。インタビューは、半構造化インタビューの形式をとり、計2時間のうち前半1時間において対象者のプロファイルを確認、後半1時間で制作のプロセスを確認するという内容で実施しました。

以下の図は、調査結果を踏まえて、デザイナーの視点とアーティストの視点の違いを簡潔に表現したものです。

調査結果から得られたデザイナーとアーティストの視点の違い

図の左半分がデザイナーの視点、右半分がアーティストの視点を模式化したもので、図中のProductは制作対象、右側のひし形は制作物が与える影響の対象で、社会への直接的なインパクトであったり、制作者自身へのインパクトがこれに相当します。また、目のマークと、手のマークは、デザイナーとアーティストそれぞれの視点と作業の対象を現しています。

結果を一言で説明すると、デザイナーは、デザインする対象にフォーカスする傾向があり、アーティストは、制作する作品自体よりも、作品を制作することにより自分を含むまわりにどのような影響を与えるか、という点にフォーカスする傾向がありました。

デザイナーとアーティストの視点の違いは、制作手法自体というよりは、制作に対する初期視点の設定の仕方に大きな違いがあると言うことができるかと思います。

デザイナー、アーティストのいずれの場合も、程度の差はあれど、制作の前にリサーチを行うことが多いが、両者で異なる点はリサーチの内容ではなく、リサーチ結果の解釈の仕方にあります。

デザイナーの場合は、(そもそもクライアントワークでデザインする対象が予め決まっている場合が多いという産業構造上の位置づけに起因していると考えられますが、)デザイナーの視点は常にデザインする対象や文脈にあります。その上で、リサーチを実施し、リサーチ結果を客観的事実として解釈し制作対象の方向性の裏付けとする傾向があります。

一方、アーティストの場合は、リサーチした結果から、客観的な事実ではなく、主観的な信念によってその人なりの問いを導き出し、その問いに向かって手探りで具体化していくことで作品を制作する傾向がありました。

このアプローチの場合、どうしてもトライアル&エラーになるため、一般に、デザイナーよりアーティストのほうが最終的な作品にたどり着くまでの時間が長くなってしまうものの、ここで発見した「主観的な信念」という切り口は、新しい価値軸を生み出すために、デザインプロセスを発展させる観点として有効であると考えられる。

以上の調査を通じて、デザイナーとアーティストの視点の違いについての結論を得ました。以前の記事でも書いた通り筆者はデザイナーとアーティストの本質的な違いはないと考えているが、産業構造上のデザイナーとアーティストの位置づけに起因した両者の態度の違いのようなものは確実に存在しており、それが今回の結果に繋がっている可能性もありますが、それについては議論の領域が広すぎるため、この結果はあくまでも本調査から導き出した結果として理解していただけたらと思います。

次回は、この調査結果を踏まえて、デザインプロセスにアートの視点を導入(=Art Interaction)したArt Interaction Designのアプローチを紹介する予定です。

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Taishi Kamiya
Art Interaction

Concept Designer / Art Interaction Designer / Sound Artist / 某メーカーでデザイン思考の取組みを導入する活動やアーティストとしての活動を通してArtの視点によるデザインプロセスの可能性を模索中https://medium.com/art-interaction