Design Thinkingの潜在的な課題 : Art Interaction (3)

Taishi Kamiya
Art Interaction
Published in
7 min readMay 28, 2017

さて、前回は、デザインとアートの違いから、Design ThinkingとArt Thinkingの基本的な視座の違いについて解説しました。

今回は、なぜアートの視点が必要なのかに触れる前段階として、Design Thinkingのもつ課題について記載していきたいと思います。

Design Thinking(日本語で「デザイン思考」)とは、一般的にデザイナーが何かをデザインするときのプロセスを非デザイナーでも理解しフォローできるように体系化された思考法であり、この思考法のビジネスへの応用は1991年にIDEOのデビッド・ケリーによって形作られたと言われています。そして今日までに様々な機関や企業において改変や解釈が加えられ世界中で活用・応用されています。

Design Thinkingの特徴的な要素として、人間を観察することからインサイトを発見し課題設定を行うことで、人に寄り添った価値提供を行うという点があります。このアプローチは「人間中心設計(Human Centered Design)」と呼ばれ、今日の事業開発には必要不可欠な視点となってきています。

近年、人々の価値観が多様化する中で、多くの企業は潜在顧客に対してどのような価値を提供するべきかというところから議論を始める必要がある一方で、特にメーカー企業で顕著であるが長年「技術=価値」だと信じてきた企業にとって、今まで価値そのものを論じる機会があまりなかったため、開発プロセスや社員の思考の切り替えの困難に直面しているため、すでに体系化されているDesign Thinkingがその道標となって、急速に普及した。実際Design Thinkingの理解が進むにつれ、企業の目指す方向が、市場中心という漠然としたところから、人間中心というよりスペシフィックな領域に対して課題の解決を行うべきであるという認識へ転換しつつある。

一方で、組織内でDesign Thinkingの理解を短期間に推進するために、Design Thinkingで使用される手法だけを抜き出し企業内でマニュアル化し活用する例などがあり、ただしく思考法が機能していないケースも散見されます。目的や組織の状況に合わせて導入の推進の仕方を考えていく必要があります。

とはいえ、Design Thinkingが企業活動の変化をもたらしていることはどうやら確からしいし、実際私も企業内において、Design Thinkingを活用した取組みを数多く実践し、数多くのメリットを感じています。

たとえば、分業化された企業のルーティンの中で、ユーザー観察からプロトタイプ制作まで経験できる社員はほぼいないため、Design Thinking の取組みは多くの場合、それらを経験する機会を得ることができるため、社員のモチベーションをアップさせる。また、ユーザー視点から開発の視点までを意識して業務を行うことができるようになるため、従来業務の成果も向上する傾向がある。

一方で、多くの企業はDesign Thinkingの取組みを通して生み出された提案を事業化するためのスキームが無いため、火がついたモチベーションに水を差す状態が生まれているというのが現状で、コトを起こすだけでなく、最後まで進めるための仕組みづくりが様々な企業内で求められています。
これはDesign Thinkingの話ではなく組織の課題の話となってくるため、これはこれで深い話題ではあるが、今回はDesign Thinkingの話に戻ります。

思考法およびプロセスとしてのDesign Thinkingは、ここまでの説明ではうまくいっているように見える。実際、課題解決の手法としてのDesign Thinkingは、20世紀型の開発プロセスからうまく脱却できていない企業にとって少なからず道標となっている言える。

一方で、価値創出のアプローチとしてDesign Thinkingが機能しない可能性がある場合がある。それは、価値が課題解決に基づかない場合、および未知の価値の創出を行う場合である。

課題解決は価値ではない

1点目は、課題解決が価値につながらないケースです。

デザイン・シンキングにより課題解決をすることで人々の困りごとは解決され、生活はより便利になってはいるものの、それが本質的に価値となっているかどうかは議論の余地があります。

たとえば、ギターという楽器がある。ギターはボディとネックに張られた6本の弦を弾くことで演奏することができるが、曲を演奏するためにはコード(和音)の知識やフォームを覚えるというプロセスを長い時間かけて行う必要があり、また、フォームの難易度の高さから挫折するユーザーも多い。

そこで,例えばDesign Thinkingのアプローチでギター練習の課題解決を行い、苦しい練習をしなくても弾けるギターであったり、身体に負担のかからない弾きやすいギターが提案された場合、挫折するユーザーは減る可能性はあるが、それがギターとしての価値につながるのだろうか。議論はあろうかと思うが、少なくともDesign Thinkingの思考プロセスでは、楽器の物理的制約や演奏に至るまでの困難が存在してはじめて生まれる類の価値は創出できないように思われます。

未知の価値は判断できない

課題解決と未知の価値の発見

2点目は、未知の価値の創出です。

このグラフは既存価値の課題の発見と未知の価値の発見について模式化したものです。○は何らかの価値で、x軸y軸に明確な意味はないものとしてご覧ください。

Design Thinkingで創出しうる価値は、図の上グラフで示すように、既存の価値がすでに顕在化していて、それについて解決すべき課題が発見できる場合に、論理的に導き出されることができ、また、その価値も理解し易いものとなります。

一方で、未知の価値の発見は、人がまだ享受していない(潜在的または未出の)価値を見つけ出すという行為であり、図の下のグラフで示すように、広いグラフエリアの中のどこにドットを打つかという話になるわけである。この場合、参照すべき拠り所(課題)が無いため、Design Thinkingにより発見することは難しいと考えられます。

結局、2点目も1点目も同じことを言っているに過ぎないのですが、これらの例のようにDesign Thinkingがうまく機能しない価値の領域が確実に存在します。そして実はこの領域は、クリステンセン教授が提唱する、価値が連続していない「破壊的イノベーション」であるとも捉えることができます。Design Thinkingには非常に多くのメリットがありますが、イノベーション創出のためには、それだけでは不足しているとも言えるでしょう。

次回は、Design Thinking に代わるPost Design Thinkingとも言えるアプローチの紹介などできればと考えています。

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Taishi Kamiya
Art Interaction

Concept Designer / Art Interaction Designer / Sound Artist / 某メーカーでデザイン思考の取組みを導入する活動やアーティストとしての活動を通してArtの視点によるデザインプロセスの可能性を模索中https://medium.com/art-interaction