トンネルの先の新たな秩序

Nana Watanabe
Ashoka Japan
Published in
5 min readApr 8, 2020

トンネルの先に新しい秩序が生まれる!

あっという間に、これまで人間が築いてきた(ように見えた)城が、音を立てて崩れかけている。人間は、万能だという思い上がった奢りからできていた城は、人間を超えるウイルスという「力」によって、破壊され始めている。

Every cloud has a silver lining

(「暗雲でも必ず銀色の希望を伴う」という諺です。)

目の前にしている危機のsilver liningは、ふだんは埋もれていたことを浮かび上らせたことである。まず、この人間を超える力は、私たちはひ弱な存在だということを教えてくれた。そして、これまで享受してきた豊かな生活は、一瞬のうちに消える儚い夢だということを、気づかせてくれた。強力なウイルスは、性別も経歴も財産も人種も一切関係なく、あらゆる人間に襲いかかる。だから、学びは、あらゆる人に行き渡る。またとないチャンスだ。

次に、(ウイルスの襲来は)一人ひとりが社会を成すかけがえのない一員であることを、教えてくれた。私たちは、大きな海の一滴の雫だけれど、今の危機的状況では、その一滴が巨大な影響力を持っていることを、認識しよう。ひとりの人(無症状だが感染しているかも知れない)が、外出を一度だけ我慢すると、1ヶ月後の感染者を、406人から15人に減らせるという科学的根拠のあるデータが発表された(BBCニュースより)。こんな社会全体を左右する影響力を、自分が持っているなんて知っていただろうか?

企業の持つ大きな影響力

個人だけではない。一市民としての企業の影響力は、極めて大きい。すでに多くの企業が、動き始めている。フォード、GM、ダイソン、日産などは、重篤患者のための人工呼吸器の製造に取りかかり、ケリング参加のプラダ、サンローラン、バレンシアガなどのファッション企業は、医療従事者のためのマスクや防護服の製造を、大手化粧品会社エスティローダーや、英国の醸造会社は、消毒液の製造に踏み切った。スターバックスは、最前線に立つ全米の医療従事者に無償コーヒーを提供し、ウーバーイーツは、45万食の食事を配った。Airbnbは、最前線で働く世界中の医療従事者10万人へ、無償で住居を用意するという。また、米マサチューセッツ州知事が、医療従事者のために中国で120万枚のマスクを注文したが、輸送の方法が見つからず助けを求めたところ、ボストンNFL(ラグビーチーム)会長が、自らチームの飛行機で中国まで出向き、無事にマスクを届けたという。

「ニューヨークの医師や看護師は、危機の最前線で毎日18時間働いています。郊外の自宅と病院の行き来で、疲れ切っている。なんとかできないでしょうか。」というニューヨーク州知事の呼びかけに応え、マンハッタン57丁目にある最高級ホテルFour Seasons(フォーシーズンス)は、全室を彼らのために、無償提供することを申し出た。

人類の直面している未曾有の非常時は、ふだんSDGsとか、CSRとかを謳っている企業にとっては、絶好のチャンスだ。SDGsも, CSRも、CSVも概念を唱えるだけでは意味がない。このチャンスを巧みに捉えて行動し、本気度を世界中に発信したらどうだろうか。

浮上する本物のリーダー

「リーダーシップ」論が、盛んに議論されるようになって久しいが、危機の最中で、例えば、北海道知事、ニューヨーク州知事、など本物のリーダーが頭角を現している。彼らの共通点は、事実を直視する勇気があること、そして、「一人でも多くの人命を守ること」が、プライオリティー(優先順位)一位であることだ。さらには、タイミング(いつ何をすれば最大の効力があるか?)を察知する観察眼と、実行力も伴う。 「プライオリティー」とは、自分にとって大切なことを煎じつめ、さらにもっと煎じつめて、何が最も大切かを、確かめ認識することである。その人の倫理感や、信念に深く結びついている。「タイミング」とは、周りで起きていることを細部まで読み、行動に結びつける能力を指す。決断力があっても、タイミングがずれていると意味はない。

これから18ヶ月間は歴史的な実験の時間

解決策としての有効なワクチンの開発には、臨床期間を入れて最低18ヶ月はかかるということだ。これから18ヶ月間という時間は、私たちに与えられた社会実験の時間だ。実験とは、いま存在しないものを創造するための試行錯誤を意味する。早急に頭を切り替えて、自分が新しい秩序を生む当事者であることを、意識に刻みこもう。少なくとも75年間、通用してきた基準、やり方、ルールが当てはまらない世界が現れるだろう。トンネルの先に現れる世界をどんな世界にしたいかは、私たちにかかっている。事実を直視し、分析し、自分に何ができるかを考え、行動に繋げよう。

「ひと」を出発点とし、「ひと」を最優先する新しい秩序を、創り出せるかどうかは、次の18ヶ月間の私たちの心構えと行動にかかっている。

2020年4月8日

渡邊奈々

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