ドキュメンタリー 「Most Likely Succeed」 を観て

Maho Sylvia Shibuya
Ashoka Japan
Published in
8 min readDec 1, 2017

先日、FutureEdu Tokyo 主催の “Most Likely to Succeed” の上映会に参加しました。このドキュメンタリーは、米サンディエゴに2000年に開校したチャータースクール、High Tech High が舞台となっています。High Tech High (以下HTH)では、定期テストや授業を区切るチャイムはなく、全ての生徒がプロジェクトベースで学習をしています。

テクノロジー、情報、人工知能などによってめまぐるしく世界が変わるなかで、今人間として必要な教育はどのようなものなのか? 今まで言われてきたIvy League などの学歴のためには、もちろん従来通りの勉強の仕方がまだ効果的であるし。それを取り上げてまでも、優先的にライフスキルやコンピテンシーを身につける教育が、果たして本当に子供たちの将来のためになるのか?そんな疑問やジレンマについて考えさせる映画です。

映画の予告トレイラーはこちら:

上映会を踏まえて、そこで考えた教育の変化や、今教育に求められていることについて、個人的に考えたことを書いてみたいと思います。

コンピテンシー向上が目的になる

人間が単純作業的に行なってきたことはもうやらなくて良い世界に既になりつつあります。では、AI やロボットと一緒に共存していくなかで、人間だからこそ求められることは何でしょう?新しいものをゼロから作り出すこと、人の気持ちに寄り添うこと、何かがロボットにプログラムされる前の段階で倫理について思考すること。。色々あると思います。だけど、きっと間違いないことの一つとして、その求めれる「何かは、教科書(やgoogle) に書いてある知識の量ではないということ。

この知識量ではない他のもの、例えば、チームワーク、リーダーシップ、やり抜く力、感情リテラシーなどの「コンピテンシー」に教育の意味が置かれるようになるでしょう。

ここで難しいのが、これらのコンピテンシーはどうやって醸成されていくのか?どうやって計測できるのか?というところだと思います。でも、逆に、そのようなことが研究によってクリアになるまで(クリアになる日が来るのかさえわからないが。。)、従来型の知識インプットに傾倒した教育をしたままでいいのか?という考え方もあります。

世界経済フォーラムの記事より

本物の課題を若者が解決する世の中

今の世の中は、解決方法がまだわかっていない問題で溢れかえっています。複雑な問題が絡み合う世の中だからこそ、本物の問題に向き合って、自分を試す機会が多ければ多いほど、問題解決の「練習」がたくさんできて良いと思います。

映画で、特に記憶に残っているHTH の先生の言葉は、「現代では、学校を卒業して社会に出るとあらゆる決断を下すことが求められている。だが、決断する練習を今まで私たちは、学校で行なって来なかったのです。これでは、いきなり社会にでてから、『はい、決断をしなさい!』って言われて上手くできなくても仕方ないですよね。でもそれが現状なのです。」という箇所でした。

社会の中に、大人も解決方法がわからない問題がたくさんあるのならば、本質的ではない上部の解決方法を教えるのではなく、問題を解こうとする練習試合をたくさん経験するほかないと思います。

知識を問うテストだけによる評価は、間もなく終わりを迎える

定期テストのないHTH では、Exhibition night という地域の人や、専門家、親、にプロジェクトのアウトプットでもある生徒の作品を発表する場が評価の場となります。本物の観客がいて、彼らに価値を提供しなければいけないからこそ、生徒は、受け身のモチベーションではなく、もっとも良いものを、もっと良いものを!と追求していくのだろうと思いました。生徒の学習活動は、自分だけに帰って来るテストの点数とは全く異なる、社会から客観的に評価される対象なのです。

そして、Exhibition night が終わると、生徒一人一人に、自分のパフォーマンスや学びの自己評価と内省をする機会が設けられます。「あなたはどう変わったと思う?」「プロジェクトを通して気づいた、自分の意外な一面は?」などというように、他の生徒や教師(教師というよりかはファシリテーター)との対話の中で学びを言語化していくのです。

一つの物差しで測れる知識の量と違って、「どんなスキルやマインドセットを得られたか」や「次はどんなスキルを、なぜ、身に付けたいか」ということに答える教育に変化していく中では、一つの基準や評価方法では対応することができないのです。でも、数値化が難しくても、「あ、この子はこういう風によくなった、成長した!」というのは、気づけるものだと私は考えます。HTH や、これから新しい教育は、このような「数字では、見えないけど、その人の変化が感じとられる成果物」を大切にしていくのだろう、と私は考えます。

安心安全な学習環境

実際考えてみると、今の学校に安心安全な環境ってとても少ない気がしまう。たくさんの若者が、テストのスコア、クラスの中での言動、他の人と違う行動、バックグラウンド、など色々なものによってジャッジされることや評価されることに怯えながら、生きているように思います。

しかし、何かやったことない経験に飛び込む時は、安心安全な場が大切。

失敗しても大丈夫な場。

誰も、互いのことをジャッジしない場。

本当の、等身大の自分だけが問われている場。

このようなポジティブな学びに最適な環境は、いじめや、差別、相手への無関心が行き渡っている日本の多くの学習環境ではまだまだ課題のように感じます。

(→しかし、少しずつ変わってきていると思っています!そのような学習環境を日々アショカの活動の中でも探しているので、もし推薦がありましたら教えてください!!!)

まとめるとこんな感じのモデルが、コンピテンシーをコアに置いた教育なのかなと思いました。

このプロセスが繰り返されることにより、従来の学習のlinear モデルから、upward spiral model になっていくのだと思います。

従来型の

  • 「試験」や「節目」にテストが最終ゴール
  • 一つ一つの教科が独立したカリキュラム
  • 自己内省よりも結果に重きを置く
  • 全員同じ基準にて評価される

という教育が、

とすると。。

これからの学びは、

  • 一度学んだコンピテンシーが他のプロジェクトにも影響する
  • 教科が独立していなく横断的
  • どのようなコンッピテンシーを得られたかが自己内省によって評価される

という特徴を持ち、そのような学び方を表すと、きっとこんな感じになるでしょう。

そして、それぞれの生徒の学びはちがうから、それを表すとこんな感じに。。

Most Likely to Succeed は、このことを色々考えさせるような映画でした。このドキュメンタリーを通して、日本の教育を変えていきたいという流れが起き始めている今、一度立ち止まって、どっちに日本の社会を持っていきたいのかということを考えてみてはいかがでしょうか?

現在、日本での上映会は、FutureEdu Tokyo が主に行なっているようです!是非チェックしてみてください ^^

【参考文献】

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Maho Sylvia Shibuya
Ashoka Japan

A millennial passionate about education, horsemanship and social-entrepreneurship.