2018年11月リカルダ・ゼッザ(2016年選出アショカ・フェロー|イタリア)来日講演「女性が行政・企業で決定権を持たない」という当たり前に挑む

Ashoka Japan
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4 min readDec 7, 2018
Riccarda Zezza | 2016選出アショカ・フェロー

「何をするにも、賄賂を使うのが普通なんです。ですからカンボジアでは、袖の下 を使わないというのは、リスクをとる生き方なんです。」とは、カンボジアに住む知人の言葉だ。他の途上国の人たちからも、同じことを聞かされる。「賄賂は、物事を進めるためのちょっとした暗黙の潤滑油」という慣習が当たり前になっていて疑問を感じない人ばかりだという。

パキスタンの田舎に住む知人は、「澄んだ水はまずないので、濾過器を使っているの。最初は面倒だと思ったけれど、ここの人たちにとっては、当たり前のことなのよ。それに、ここに住みだした頃は、よく下痢になったけど体が慣れたせいか、あまり気にならなくなったわ。」と言っていた。

日本や他の一部の先進国 が置かれている女性の状況にフォーカスしてみよう。 「女は学問などいらず、料理やお裁縫ができて気立てが良く、社会的地位と収入のある男と結婚するのが一番の幸せ」という通念のある時代が長く続いた。この通念は未だ一部では生きているが、「学問はなくても」の部分は、どの先進国でも過去50〜60年の間に大きく変わった。一流とされる高校や大学に女子も進学するのが当たり前となって久しい。

しかし、卒業後それから始まる80年間の「人生の本番」で、学んだことを活かして成長し続けるためのサポートシステムは日本には存在しない。

「女性は社会の中枢で決定権を持つことは極めて困難である」状況に私たちは慣れてしまっている。途上国の汚染水や賄賂と共通しているのは、違和感はありながらも、慣れてしまい、そういう世の中のルールに抵抗すること自体が、リスクを背負うことになることだ。どうして女性が、 男性と同等に決定権を持たなくてはならないか?の理由は明白だ。ジェンダーの違いによって、「見方」が異なる。両性から成り立つ社会の行方は、両方の「見方」を投影して決めなくてはならない。

日本と共通のこの問題に直面するイタリアから、2016年アショカ・フェローが誕生した。ローマ育ちのリカルダ・ゼッザ(Riccarda Zezza)である。女性が元来備える「ソフト・スキル(対人間スキル)」が、新しい時代のリーダーとしてのスキルになりうるという様々なリサーチとデータに裏づけられた理論を打ち出した。そして、実生活で引き出されるそれらのソフト・スキルを、職業人としてのスキルに転換するためのデジタルプログラムをつくりだした。

心理学者、社会学者、医師、ビジネスコンサルタントなどから成るチームが編み出した問いに、記述形式で応えるという内容のこのプログラムは、ヨーロッパの企業や組織が社員のために導入し始めている。 約200の質問は、内省し自分を識ることから引き出された能力を家庭から職場へ、職場から家庭へと移行する心理的作業を促す。このプログラムを産休中に履修した女性の3人に1人が、自信を持って仕事に復帰できたと回答している。また、プログラムを履修した40カ国約5000人の社員のうち、35%が、仕事を委任する能力が高まった、31%が時間のマネージメントがうまくなった、25%がコミュニケーション能力が向上したと報告している。

2015年にスタートして以来、このデジタルプログラムは、イタリア郵便局やミラノ市のほか、ヒューレットパッカード社、IKEA、ボストンコンサルティング(イタリア)などの40社を超える企業がすでに導入している。

慢性的な社会の歪みに対する「魔法の秘薬」はどこにも存在しない。

が、議論しているだけでは何も変わらない。

議論をする暇があるならば、トンネルの先に見える微かな光のようなこのプログラムの導入から始めてみようではないか!!

リカルダの講演が終わる前に、みずほフィナンシャルグループが日本で初めての導入を決定した。

2018.12
ASHOKA JAPAN 渡邊奈々

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