Nana Watanabe
Ashoka Japan
Published in
4 min readDec 16, 2019

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巨大なインパクトを生み出すまでに成長した30年間の軌跡をたどるハシナ・カービが、23人の参加者と8時間に渡るダイアローグを展開した

ASHOKA Fellowハシナ・カービから学ぶ

「社会に膿を出している水面下の構造の欠陥」を変える「Systems changeシステムチェンジ」が、社会を刷新する方法だ。この途方もなく遠大なしごとは、どうしたら達成できるのか?

どこかに隠れたコツがあるのだろうか? 特別な定式でもあるのだろうか?それとも特殊な才能を子どもの頃から育てる私たちの知らない教育方法があるのだろうか?

12月初めインドから来日したAshoka FellowのHasina Kharbhih(ハシナ・カービ)は、その一つの答えを示してくれた。彼女は人身取引を生み出す状況を大幅に改善するプラットフォームを創り上げたフェローだ。 17歳のとき、貧しい村の女性のエンパワメントを高校の部活で始めた。心の声に耳を傾け、ずっと続けていった。

30年間活動を続け、気がついたら4カ国の政府、警察、NGO165団体、25人の弁護士、4カ国のメディアとのパートナシップができ、結果として行方不明の子どもの捜索に、平均2〜3ヵ月かかっていたのが、2日間に短縮するという前代未聞のプラットフォームが、出来上がっていた。

来日の間に、これまでの彼女の48年の軌跡を辿るストーリーに150人を超える聴衆が聞き入った。

これほどのインパクトを生み出した彼女の答えは、「コツ」でも「定式」でもなかった。それは、心の姿勢ともいえるマインドセットの持ち方のことだった。大きい規模の変革は、1人や2人ではできない。この過程で、自分が注目されたい、一目置かれたい、といった欲があると小さい山しか築けない。同じ目標を持ち能力の高い個人を様々な組織で見つけ(「組織内チェンジメーカー」)彼らが目標に向かって進みやすくするために、一歩も二歩も引いて支える。これが、「シェアードリーダーシップShared Peadership」という彼女のリーダーシップのあり方だ。

一方、小さな子どもを出稼ぎにだす原因は貧困だから、その根を断つために工芸家を3万人訓練し雇用を創出してきた。そのうち、高度なスキルのある7000人を選抜して会社を起こした。この会社では、手先の作業が遅くなり始める40歳から会社の株主になるというスキームを入れ込んだ。

インドのトレンディなデザイナー9人をパートナーとして巻き込み、インドの伝統的な刺繍や染めを取り込むデザインが、毎年パリコレならぬカルコレ(Calcutta Collection)を飾る。実は私は、買う人のお情けに訴える匂いがするいわゆる「工芸品」は苦手なのだが、その点も彼女は充分に心得ている。世界の高級ファッションが求めている繊細で精密な技術を持つ7000人の工芸家は、充分な競争力を持っている。そして結果として得られる「利益」は、3万人の貧しい女性とその子どもたちの生活の向上だ。教育を受けられるようになった子どもたちは将来の労働力となり、「インパクト」は倍々に拡大していく。

実態よりも価値を膨らました「ブランド」を創り上げ、名声と利益を最大限にする「ブランドづくり」に成功すると、売り上げが最大限となる。結果「ブランド」づくりに携わった人たちの生活がより豊かになるという「利益」が得られる。が、その利益は極貧層には届かない。

リーダーシップを分散するShared leadership(シェアードリーダーシップ)という考え方。利益を独り占めでなく分散するというGood for all(万人のための利益 )という考え方。アメリカ式資本主義の原理とルールに慣れてしまった私たちには馴染めないこの二つの心の姿勢が、格差がますます広がり差別という本能的な悪が市民権を持ち始めている今の時代に光を取り戻すヒントであることは間違いない。

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