現実を直視せよ! Face the facts!

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ジェリー・ホワイトから学んだこと

昨年9月、アショカ上級フェローのジェリー・ホワイト(Jerry White)が講演のため来日した。戦争・紛争における地雷の撤廃を実現した功績に対してノーベル平和賞を1997年共同受賞したことでも知られる人物だ。

ジェリーは、アメリカ東部のボストンのアッパーミドルクラスの 白人家庭に生まれた。ブラウン大学では哲学と宗教を専攻。大学2年の春休み、宗教を学ぶ学生として三宗教のメッカ、ベツレヘムを自分の目で見ようとイスラエルへ向かった。2人のクラスメートも一緒だった。空が青く澄み渡った日に山歩きをしていたら、耳元で大きな爆発音がした。バンッ!一瞬のことだった。あたりに血が飛び散り、気がつくと自分の右足の膝から下が失くなっていた。その辺りが地雷原だったことを後で知った。また、戦争の時に、シリアで製造された地雷がロシア政府によってそこに埋められていたことも、ずっと後で知ったのだという。

ジェリーは私たちに語った。「その瞬間に『お気楽で恵まれた大学生』が、『グローバル市民』に生まれ変わったんだ」。それまでのジェリーには、自分のこと、家族や友達のこと、成績のこと、テニスの試合のことだけしか視界に入らなかった。しかし、その瞬間から、地雷だけではなく、地球のあらゆる人々が直面しているあらゆる不条理を、「他人事」ではなく「自分事」として感じるようになったのだと。

ジェリーの場合は、地雷に片足を飛ばされるという極端な体験だったけれど、私たちも大なり小なり、自分のコントロールの及ばない「理不尽」を抱えながら生きている。それは、親や友達の死かもしれない。病気になってそれまでの生活を続けられなくなることかもしれない。希望の学校や企業の試験におちることかもしれない。好きになった人が同じ想いを自分に返してくれないことかも知れない。いずれにしても、 「理不尽」は受け入れ難く苦しい。だから直視するのは難しい。しかし「目の前を直視せよ!(Face it!)」とジェリーは言う。直視しないでごまかすことを、ジェリーは私たちに許さない。全ては「直視する」ことから始まるのだから、と。

傷を見つめて初めて、そこにいる「新しい自分」が第一歩を踏み出す。その力をレジリエンスと呼ぶ。直視せずにそこに留まること、それを挫折と呼ぶ。大なり小なりの理不尽を経験すると、そこから生まれた新しい自分が、また次の一歩を踏み出すことを可能にする。直視を避ける者に成長はない。そして、振り返るとそこには自分の人生の軌跡がある。

人も、組織も、国も、「直視する」勇気がなければ成長はない。直視を避けたために沈んでいった個人と、組織と、国を私たちは多く知っている。

2018年1月12日

渡邊奈々

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