「システミック・チェンジ(仕組みの変革)」とは、何か?

Ashoka Japan
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5 min readJul 3, 2017

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What is “Systemic change”?

この構想の芽が生まれたのは、1960年代だ。

ひとりの高校生が、「世の中にある尽きない矛盾や問題の根を取り除くには、その矛盾や問題の温床となっている何らかの在り方(仕組み)自体を、全く違う新しい在り方(仕組み)に変えることにある。」という考えに取り憑かれるようになった。そして、この考え方「Systemic change」は確固とした構想として彼のなかに定着する。

この高校生は、又こうも考えた。「世の中の尽きない矛盾や問題の解決の鍵を握っているのは、「social work(社会福祉)でもなく、business entrepreneurship(ビジネス起業)でもない。social workの持つ『目的』とbusiness entrepreneurshipの『アプローチや戦略』を併せ持つ全く新しい『何か』」だ。」と。そして、その「何か」を、Social entrepreneurship(ソーシャル・アントレプレナシップ)と名づけた。Social entrepreneurshipの言葉が初めて公の印刷物に刻まれたのは、1972年だとされる。

それから20年後その青年は、Systemic change(システミック・チェンジ)を実施するSocial entrepreneurを世界中で発掘し、彼らの活動を加速化するための仕組みを実施する活動母体として、ASHOKAを発足することになった。

これが、ASHOKA誕生の経緯だ。

そして、その青年は、とりもなおさず「『ソーシャル・アントレプレナシップ』、『システミック・チェンジ』の父」と呼ばれるWilliam(Bill) Drayton(ビル・ドレイトン)である。

それでは、ASHOKAの活動の核とも言えるSystemic change(システム変革)とは何か?

ある特定の人の特別の能力や人間関係に頼るモデルは大きく広がらない。拡散するためには、容易に模倣できるモデルでなくてはならない。こういったモデルを発案し、実施し、継続し、その結果、ひとつの国を超える大陸単位の変革を及ぼす人をシステミック・チェンジメーカーと定義づけている。 今、約3300人いるASHOKA フェロー(システミック・チェンジメーカー)の中から以下、例を挙げよう。

Jimmy Wales ジミー・ウェイルズ

Jimmyは、「『知識』は、教育を受けられる人びとだけのもの」と皆が思い込んでいた時代に、「知識」を誰もがアクセスできる世界を夢見た。「知識」を全ての「知りたい」人びとに届けるためには、ひとりひとりに向き合う従来のやり方以外に方法はないのか?、それはテクノロジーを使うことだ、とJimmy Wales(ジミー・ウェイルズ)は直感した。また彼は、学識者と呼ばれる専門家ではなく、普通のひとが知っている知識にも注目した。こうしてJimmy Wales(ジミー・ウェイルズ)が生み出したのがWikipedia(ウィキペディア)だ。元々英語で始まったこのシステムは、今は295言語でアクセスでき、毎日約2億7000万人が知識の恩恵を受けている。

David Green デヴィド・グリーン

先進国に住む人は、基本的に最先端の医療が受けられる。しかし、地球人口の80%にあたる貧しい人々は医療措置には手が届かない。例えばインドでは1500万人の失明者がいるが、うち75%は医療にアクセスがあれば失明を避けられたという。Davidは、先進国レベルの眼科治療を貧民に届けるシステムを開発した。白内障手術(日本やアメリカでは30万円ほどのコスト)を10分の1の3万円で受けられ、しかも3段階支払いシステムによって、原価の3万円を払える患者、入院費なども支払える余裕のある患者、そして無料の患者の3つのカテゴリーに分けた。それでも、病院側は利益を出すことができるこのモデルは、インド、バングラデシュ、アフリカ各国、フィリピン、中国、などに広がっている。彼の創ったスキームのお陰で失明を免れている人口は、年間約100万人を超える。

Ursula Sladek ウルスラ・スラデック

1986年、チェルノブイリの原発事故は、ウルスラと夫と5人の子どもの住む西ドイツの人口2500人の町にも大きな被害を及ぼした。当時、ドイツのエネルギー業界は大手4企業が独占していた。彼女は、住民とエネルギー専門家のネットワークをスタートし、地域住民が電力網を所有するという前代未聞のモデルを創った。2014年時点で、約15万所帯に電力を供給している。大手エネルギー企業が発電権を持つという100年以上続いたシステムを覆した。

1980年から2017年春までに選出されたASHOKA基準に適ったシステミック・チェンジメーカー(ASHOKAフェロー)は、89カ国3300人を超えている。毎年120人~180人くらいのより良い世界を創り上げる新たなフェローが生まれている。この内、56%が(フェロー認証から5年以内に)国の法律改正までの影響を及ぼし、98%が政府や他の組織に模倣されて変革はますます広がっている。

数百万人に一人のシステミック・チェンジメーカーすなわちフェロー候補を見つけることは、世界中で難行しているが、日本では特に困難を極めている。どのように見つけられるかの答えはないが、ちょっと変わったこと、理解しにくいことをしている人がいたら注意して見てほしい。そして、想像力を巡らして考えて欲しい。ずっと先の社会の変化を想像して、その人の今している「変なこと」が10年後、20年後の何かに繋がっているんじゃないか、と。

7月1日 渡邊奈々

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