7Aとモンティ・パイソン

7A
B-side / Perspective_7A
8 min readDec 18, 2015

『Monty Python’s Flying Circus』をご存知だろうか。1969年から1974年にかけて、イギリスのBBCで放送されていたコメディ番組である。

Monty Python(以下、前NOPヘッド・コーチ、現OKCのアシスタント・コーチであるモンティ・ウィリアムズ氏との混同を避ける為、モンティ・パイソンと表記する)の主要メンバーは故グレアム・チャップマン、ジョン・クリーズ、エリック・アイドル、テリー・ジョーンズ、マイケル・ペリン、そしてテリー・ギリアムの5人である。

メンバーのうち唯一の米国人であるテリー・ギリアムは映画『未来世紀ブラジル』『12モンキーズ』『ラスベガスをやっつけろ』等の映画監督としてご存知の方も多いだろう。他の4人は英国人。しかも、それぞれオックスフォード大卒(ジョーンズ、ペリン)、ケンブリッジ大卒(チャップマン、クリーズ、アイドル)という、コテコテの※1ミドルクラスのインテリである。

この5人が1960年代末から1970年代初頭にかけて、時代を作るのが年寄りの政治家や一部の特権階級から若者に移ったその時代に、放送終了から40年を経た今なお※2コメディ史に燦然と輝く金字塔を作り上げたのだ。
筆者ががモンティ・パイソンと出会ったのは、24、5歳の頃だった。当時働いていた会社が英会話のカンパニー・クラスを設けており、その先生が、なぜか教材にモンティ・パイソンを選んだのだ。どんな授業かというと、筆者と、もう一人同僚の同い年の女と、その先生の3人でモンティ・パイソンのDVDを見て笑う、というものだった。だがそのふざけた授業で、筆者は言葉で言い表せないほどの衝撃を受けた。これほどおもしろい番組が国営放送でやってていいものか、これに比肩し得るのは『ハッチポッチステーション』だけだろ、と思ったものである。とにかく、それから英国というものにほんのりとした憧れを抱き続けている。パスポートは無い。

肝心の英会話クラスの効果のほどは shrubbery 植え込み、 hostile 敵意、 Spanish Inquisition スペイン宗教裁判、など(どう考えても使わねえなこれ…)という単語を覚えたに留まる。
“ Spanish Inquisition “

[youtube https://www.youtube.com/watch?v=Ixgc_FGam3s&w=420&h=315]
いや、今思い出すと、勤務時間中に社長が立ち寄ってからどこかにいなくなったり、他部署から無茶振りされた挙句怒られたりした時に同僚の女と二人で「Spanish Inquisition !!」て叫んで爆笑していたので、割と使ってたわ。あと話の途中で唐突に「※3Albrecht Dürer」って言うのも、筆者と同僚の間では密かなブームであった。このキャピキャピ感、チョー女子っぽい…女子っぽくない?

余談だがその先生が選んだ教材には他にピーター・ジャクソン(『ロード・オブ・ザ・リング』『ホビット』などの監督)の初期の作品『ブレインデッド』があり、これから筆者が学んだことは”あらゆるゾンビ映画はコメディである”という、英会話とは全く関係ないものだった。
以下では、憚りながら私的モンティ・パイソン グレーテスト・ヒッツをご紹介させて頂く。

哲学者サッカー(ドイツ語版 モンティ・パイソンより)

[youtube https://www.youtube.com/watch?v=B6nI1v7mwwA&w=420&h=315]

メンバーのフットボールのスキルに注目されたい。

バカ歩き省

[youtube https://www.youtube.com/watch?v=9ZlBUglE6Hc&w=420&h=315]

思うに、モンティ・パイソンの中ではこれが最も有名ではないだろうか。筆者も25、6歳の頃はバカ歩きをして遊んだものである。

フィッシュ・ダンス

[youtube https://www.youtube.com/watch?v=lefP0_ZM-Lw&w=420&h=315]

誰しも、魚で殴りたい知人を何人か持っているのではないだろうか。筆者は現NYKヘッド・コーチのデレック・フィッシャーを見る度に、このスケッチ(と現在MEMのマット・バーンズ)を思い出す。

映画『モンティ・パイソン・アンド・ザ・ホーリー・グレイル』より挿入歌『Knights of the Round Table』

[youtube https://www.youtube.com/watch?v=kWh9JbBZC_Q&w=560&h=315]

馬鹿げたミュージカル調のシーンを支える緻密な絵コンテ。妙に馴染み深いメロディは鼻歌のローテーション入りになること請け合いである。

モスキート・ハンター

[youtube https://www.youtube.com/watch?v=cZvT3MHpffk&w=420&h=315]

導入のオーストラリア英語で語られる動物への激しい愛。

ペンギンの爆発

[youtube https://www.youtube.com/watch?v=1k1ccguXiws&w=420&h=315]

チャップマンとクリーズの不条理おばちゃんシリーズの一つ。このシリーズはどれも非常に好みである。

まだまだあるのだが「おめーのかわいこたんズリスト長杉!」とのお叱りをMark Tonightポッドキャスト リスナー諸兄から受けたことを根に持つ筆者はここら辺でやめておく。

モンティ・パイソン公式YouTubeチャンネル等もあるので、ご興味のある方はご照覧しろ下さい。

モンティ・パイソンの番組は非常に独特で、上述のような短いスケッチをテリー・ギリアムのシュールなアニメーションが繋ぎ、番組全体(1時間弱)に関連性と統一感を持たせている。筆者は、モンティ・パイソン以外のコメディ番組は『風雲たけし城』(コメディ番組???)ぐらいしか知らないので比較はできないが、これは当時としては画期的な番組構成であったらしい。

他にも、60年代半ばまで「shit」すら御法度だったBBCにおいて、堂々と「wanker (お自慰さん)」のハンドジェスチャーをするなど、コメディ番組のみならず放送業界全体への影響力も大きかった。局地的な影響としては、筆者がNBA選手のインスタグラム等で手の甲をこちらに向けたピース・サインを見るたびにギョッとする、などが挙げられる。
1960年代の英国つまりロンドンは、ユース・カルチャー/カウンター・カルチャーがほぼ歴史上初めて表舞台に出てきた時代でもあった。『スウィンギング・ロンドン』というフレーズをお聞きになったことのある方も多いと思う(当時の風俗描写は若かりしマイケル・ケイン主演の『ミニミニ大作戦』1969年、英題”The Italian Job”をご覧遊ばされたい)。

海を渡ったアメリカでは、ベトナム戦争に対する若者の抵抗や公民権運動が巻き起こった時代である。

モンティ・パイソンのメンバーは当時20代。イギリスは戦後の不況からようやく脱し、徴兵制が廃止され、スウィンギング・ロンドン — — 新しい快楽主義の真っ只中にいた。彼らはそれまで支配的だったビクトリア朝的価値観を否定し、その古い価値観の中では敬意の対象であるべきだった王室・政治家・※4神などを片っ端からコントの題材にした。タブーへの挑戦、むしろ嘲笑である。

このタブーへの嘲笑的態度は、現在のイギリス文化にも多大な影響を及ぼしているし、まさにこれが正しい”タブー”への態度だと筆者は考えている。
人生は面白がったもん勝ちだYo!

※1 今なおイギリスに根強く残る階級意識については『現代ロックの基礎知識』(1999年、鈴木あかね著、ロッキング・オン社)76〜95ページ、が分かりやすいと思われるので、興味のある方はブッコフとかで探して御覧いただきたい。
※2 感想には個人差があります。
※3 Albrecht Dürer アルブレヒト・デューラー(1471–1528) 。ドイツ、ルネサンス期の画家。ドイツ語版モンティ・パイソンにアルブレヒト・デューラーのスケッチがある。
※4 映画『モンティ・パイソン ライフ・オブ・ブライアン』(1979年)は、キリストと間違えられたブライアンというユダヤ人が、最終的にその誤解を解けないまま磔刑に処せられるというストーリーで、聖書をパロディにした作品。過激派のキリスト教徒を刺激するのではとの危惧で大手のEMIが手を引き、代わりにエリック・アイドルの親友ジョージ・ハリスン(ビートルズ)が税金対策を兼ねて映画会社『ハンド・メイド・フィルム』を設立し、製作した。

筆者がMark Tonightポッドキャストで1節を歌った「Always Look On The Bright Side Of Life」は、ブライアンが磔刑に処せられる時に、隣の十字架に架けられた男(E.アイドル)が、ブライアンを励まそうと歌う劇中挿入歌である。

↓モンティ・パイソン 公式ホームページ
http://montypython.com

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