日米UAマーケティングの違い (2)

Sho Mizutani
Basically Fiction
Published in
7 min readJan 15, 2016

前回のエントリー 日米UAマーケティングの違い (1)の続き

(2)プレイヤーの違い

アドテク企業の数と種類

北米には星の数ほどアドテク企業がある。北米のみならず、ロシアやドイツからの新興企業も北米市場に参入してきているので、それらをあわせるとより一層、アドテク関連の企業数は多くなる。アドネットワークだけでも追いきれないくらい次々と新しいスタートアップが生まれている状況だ。

さらに追い討ちをかけるように、多くのアドネットワークがExchangeの機能を持ち合わせていることによって、DSP企業との違いが分かりづらくなり、カオスマップさながらの混沌とした様態になっている。恥ずかしながら、渡米当初はどの企業が何をしているのかを把握することで手一杯だった。

アドネットワークの代理店化も、状況を渾然とさせている要因のひとつだ。代理店になろうとするアドネットワークの特徴は、独自のネットワークとExchange機能とクリエイティブ作成部隊を併せ持っていることだ。企業が一定の規模に達すると、他社のネットワークから買い付けることに軸足を置くようになり、運用経験とクリエイティブ能力を武器に代理店としての立ち位置を市場に築こうとするきらいがある。

在庫の種類と量

アドネットワークが星の数ほどあるとはいえ、広告在庫が星の数ほどあるわけではない。結局の所、彼らは各パブリッシャーの在庫を囲い込んでネットワーク化しているわけなので、いくら直接買い付け(Direct Purchase)を謳っても、それが独占的な在庫でない限り、どこかで他のアドネットワークとの重複が起こる。

だが、実際にどこで重複が起こっているかを知るのは容易ではない。多くのアドネットワークは、パブリッシャー名を公開しないからだ。開示されるのは各パブリッシャーに番号が振られたパブリッシャーID程度の情報である。

とはいってもアドネットワーク同士での重複はさほど頻繁に起こるものでもない。問題はDSPだ。DSPでは重複が起こり得る。大抵の場合、接続先のSSPが似通っているので、重複はどうしても出てしまうのだ。

そのため、インハウスでDSPを2社以上運用することはあまり一般的ではない。よほどの知見が得られるか、そのDSP独自のネットワークがない限り、複数のDSP運用は効率的ではないというのが個人的な意見だ。

それでも日本と比べると北米の広告在庫は膨大である。特に動画広告の在庫は圧倒的。北米広告市場はバナー→インタースティシャル→動画へと変遷しており、現在の主流は間違いなく動画広告だろう。

日本ではまだ動画広告の在庫がさほど多くない。パフォーマンスは申し分ないので、いずれ拡大していくと思われるが、どうも日本ではアプリ内に広告を入れることに抵抗があるようだ。

では、なぜ北米の広告在庫及び動画広告在庫は豊富にあるのだろうか。

在庫が多い理由

アドネットワーク企業の多さと、広告在庫量に因果関係がないことは先に述べた通りだ。むしろ、アプリ(パブリッシャー)の多さと、彼らの広告によるマネタイズへの理解こそが重要なファクターだろう。マネタイズへの意識の違いも、日米の大きな違いだ。

(余談だが、北米でいう「マネタイズ」はアプリ課金ではなく、広告による収益を指す。)

とあるパブリシャーから聞いた話だが、上手に広告を掲載することで、アプリ内課金などのユーザーエンゲージメントが相乗的に向上したケースがあったという。仕組みの一例は、「この動画を最後まで視聴すれば、アプリ内通貨をプレゼントする」といった動画広告を出す。通貨を得ることで、ユーザーは課金することなくゲームを進めることができる。ここですでに深いエンゲージメントが成立される。ゲームの面白さを知ったユーザーは能動的に課金する確率が高まる、といった筋書きだ。

一部の企業では、ゲームの開発設計の段階からマネタイズ責任者が会議に顔を出し、広告の露出ポイントについてディスカッションしている。

つまり、パブリッシャーはあくまでユーザーエンゲージメントのために広告をうまく活用しているのだ。こうした広告への理解が、膨大な在庫量に繋がっているのではないかと個人的に考えている。

(3)担当者の動き方(おまけ)

パートナーとの付き合い方 〜リレーションとネットワーキング〜

補足的に日米のUAの違いを挙げるとすると、アドネットワークを含むパートナー企業との付き合い方がある。

日本では、CPIの条件を提示して、上がってくるレポートに対してふむふむと相槌を打ち、色々とディスカッションをする、というのが一般的だと思う。ディスカッションの程度はまちまちだが、熱心な広告主側の担当者であればターゲットやクリエイティブの仮説を語り、検証のための実行を運用者にお願いするだろうし、あまり身が入っていない担当者であれば、「もっとCPIを下げてください」とつぶやいて終わるケースもあるだろう。

北米でも似たような光景は繰り広げられるが、その一方で、お金を多く落とさなかったりリレーションが弱い広告主に対して、運用者側がドライな対応をするケースもある。特にSalesやBusiness Development同士の交渉では、対等な関係とまではいかないが、最低出稿金額に対して強気の姿勢を保つ企業もある。

塩対応を避けるためにも、運用担当者(Account)同士のコミュニケーションは非常に大切になる。

広告主側のUA担当者は、アドネットワーク会社のAccount Managerとランチに行ったり、コーヒーを共に飲むなど、リレーション構築に一定のコストを払っている。これも余談だが、ランチもコーヒーも北米では大事なミーティング手段だ。

刻一刻と変化する市場の中で、ビッディングの調整やクリエイティブの差し替えなどの対応は、ますますスピードが求められるようになってきている。自社の広告を優先的に対応してもらうには、投下する金額以上に、人と人との距離感が重要になってくるのだ。リレーション構築はUA担当者の大事な仕事である。

UAの世界では、広告主同士の横のつながりも重要だ。月進月歩進歩のアドテク世界では、情報のキャッチアップは欠かせない。加えて、他社のベストプラクティスから学ぶことも有用である。そういった意味では、人の集まる場所に足を運ぶことが、実は投資対効果の良い情報収集手段だったりするのだ。

北米では日常的に勉強会やネットワーキングパーティーが催されており、情報収集や人脈作りの機会に富んでいる。多くのカンファレンスはほとんどネットワーキングのためにあるといっても過言ではない。

UA担当者の座談会もあったりする。他社の内情やベンダーのReputationなど、普段聞くことのできない話がてんこ盛りで、非常に有意義な情報交換の場となっている。

以上、日米のUAの違いについて書いてきた。

まだまだ書きたいことは山ほどあるので、今後も随時更新していければと思う。

もともと学問として始まったマーケティング・サイエンスが、UAの勃興によってもはや「科学」の域に達しているのではと錯覚してしまうほど、ROIが重視される傾向になってきた。これは日本も北米も同じだろう。

仮説検証を繰り返すことで効果が目に見えて改善していく過程はとてつもなく面白いが、過度なROI信仰はブランドが持つスケールの可能性を自ら狭めてしまっているようにも思うところがある。

このような考えから、個人的にブランド・マーケティングに集中し始めているので、そちらの更新もどこかでしたいと思う。

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