脱アルコール製法ビールの酒税法上の取り扱いについて
ビアリーの香るクラフトが、美味しい。
先月、アサヒが脱アルコール製法の蒸留設備に5億円投資することを発表しました。サッポロも9月から0.7%のThe DRAFTYを発売するようで、「ドライ戦争」「糖質ゼロ戦争」に続き、次のタイトルは「微アル戦争」に決まりそうな気配がします。
ところで、脱アルコール製法がこれまで日本で流行らなかった背景を思い出すと、そこには私たちの共通の敵「酒税」があったはずです。
アサヒのビアリーには酒税がかかっているのか。公式発表されておらず、SNSを見ても見解が分かれていたり、恐らくどちらかが一方的に勘違いをしているので、私なりに整理してみました。
そもそも脱アルコール製法とは
ノンアルコールビール(ここでは1%未満のものとします)の造り方は、ざっくり3パターン。
①アルコール発酵を起こさず、麦芽やホップを使ってビールっぽいジュースを造る
②アルコール発酵はさせるが、麦芽の使用量を抑える等して度数が1%以上にならないように造る
③通常通りアルコール発酵させ、1%以上のビールが出来上がった後に蒸留してアルコールを飛ばすことで1%未満になるように造る
このうち③が脱アルコール製法と呼ばれるもので、ビアリーのパッケージにも「ビール」を醸造してからアルコール分のみをできるだけ取り除く製法を採用、としっかり書いてあります。
脱アルコール製法で酒税はかかるのか
酒税法の課税対象とされる酒類とは「アルコール分1度以上の飲料」であるため、ビアリーには酒税がかからないと考えるのが自然です。ちなみにビアリーのパッケージ表示上の名称は「炭酸飲料」となっています。
一方で、販売時点でのビアリーは確かに「炭酸飲料」ですが、製造の中間時点のビアリーは「ビール」になります。
一度「ビール」を造るという行為は、酒税法に根拠されたビール製造免許を持つ者にしか許されておらず、私たち素人が「最終的には炭酸飲料だから」と言って脱アルコール製法の飲み物を造ることは許されないのです。
ここまで整理すると答えまでのプロセスが見えてきた気がします。「酒税が課税されるのがどの時点なのか」が分かれば、ビアリーに酒税がかかっているのかそうでないかも分かりそうです。
要するに、酒税が課されるタイミングが「販売時点」もしくは「最終製品の工場からの移出時点」等であればビアリーに酒税はかかりません。一方で、酒税が課されるタイミングが「アルコール分1度以上のものが製造された時点」であれば、ビアリーには酒税がかかっていそうです。
結論
酒税の課税標準は、酒類の製造場から移出し、又は保税地域から引き取る酒類の数量とする。(酒税法第二十二条より)
上記を読む限り、製造場から移出した時点でアルコール度数1%未満のビアリーは酒税の課税対象とはならなさそうです。
第六条の三(移出又は引取り等とみなす場合)を読んでも、脱アルコールが移出とみなされるような文言は見当たりません。
結論、脱アルコール製法に酒税はかかっていないのだろうと思います。
ビアリーの価格が通常のビールと同程度なのは、開発コストや蒸留装置の設備投資コスト、工程が増えることによる労務コスト等を盛り込んでいるため、でしょうか。これに酒税までかかっていたら、もう少し高くてもおかしくないはず。
※上記は私個人の見解であり、事実と異なる場合がある旨ご留意ください。
【追記】
「一度ビールを造ってからアルコールを抜くと酒税がかかるらしい」との記述をwebメディアやSNSで見かけるのですが、根拠となるソースが見当たらないため、条文から純粋に読み取れる範囲でこのように結論づけています。