魅力を秘めし別所温泉に走る、上田電鉄の可能性

Daiki Norigami
Bessho-Onsen
Published in
6 min readAug 4, 2019

近年、「地方の魅力」が注目されている。青春18きっぷでの日帰り旅行やアンテナショップ、ふるさと納税などを通じて、その土地で得た経験や思い出、納税に対する返礼品などをSNSを用いて発信され、それによって多くの人に知れ渡っているのだ。私も長野県へのふるさと納税を行い、「しぼりっぱなし」という非常においしいジュースを頂いた経験がある。

「しぼりっぱなし」。その名の通りリンゴをそのまま飲んでいるのかと錯覚するほど濃い。

このように都心と地方の距離は以前に比べ圧倒的に近くなっている。そこで忘れてはいけないのが、都心と地方を結ぶ「足」、特に各主要都市から現地へのルートをつなぐローカル線は現地に住む人、旅行客ともに欠かせない存在である。今回は長野県上田市別所温泉地域で鉄道を運行している「上田電鉄」さんにお話を伺った。

上田電鉄さんは上田駅から別所温泉までの計15駅を結ぶ別所線を運行している会社で、現在は東急電鉄の傘下になっている。いわゆるローカル線である。ローカル線の経営ははっきり言って厳しい。廃線の危機と背中合わせの状態である。元々この別所温泉地域は養蚕業が盛んであり、生糸の輸出のために鉄道が敷かれることとなったが、養蚕業が下火になっていくにつれて利用者数も減り、昭和13年の青木線廃線を皮切りに西丸子線、丸子線、真田傍陽線が廃線となり、現在残っているのは別所線のみという状況となっている。

別所線。運転免許を持っていない学生にとっては唯一の交通手段である。

しかし、私がこの記事で伝えたいのは別所線の経営の難しさではない。むしろその逆で、非常に伸びしろがある路線だということである。

その伸びしろとはインバウンド観光客への対応である。今回直接お話を伺って一番必要だと感じた点がここであり、来たる2020年には東京でオリンピックが開催され、外国人旅行者が増加することは明らかである。外国人に「日本の観光名所は?」と聞くと大抵の場合、京都や大阪、浅草など有名な観光地が挙がる。しかしこれは裏を返せばそれらの都市は有名すぎるがゆえに大変混雑する。そこで別所温泉を「和」を体験しながら疲れを癒せるというコンセプトで売り込むことができれば、多くの外国人観光客を呼び込めると考えられる。

私が注目しているのは安楽寺の座禅体験だ。実際私も初めて座禅を体験したのだが、20~30分と短い間で、しっかり心を落ち着けることができ、むしろあまり慣れていない外国人の方々にはちょうどいい時間だという風に感じた。さらにお代は賽銭で支払うスタイルでなんとも日本らしく、とことん「和」を感じられる場所であった。

安楽寺の座禅体験。座禅の前に畳と坐蒲(ざふ)に一礼をする。

また私が宿泊した別所温泉のEarth Works Guest Houseのご主人であるROBERTO W. BAUMANさんはニューヨークのブルックリン出身(キャプテンアメリカと同じ‼)で欧米圏からの外国人観光客にとって旅行への敷居は低くなると言える。実際に宿泊客用のメッセージノートを見てみると半分以上の方が外国人であった。加えてこのEarth Works Guest Houseは日本にまだあまり浸透していないAirbnbで予約、宿泊することができるので、外国人旅行客にとって非常に便利である。

※airbnb:正式なホテルなどの宿泊施設ではなく、現地の人が自宅などを宿泊施設として提供するサービス。日本では現在60000を超える宿泊施設が登録されている。

Earth Works Guest House。なんとご主人のRobertoさんの手作り。
お宿のメッセージノート。大半の文章が英語で書かれていた。

加えて別所温泉はある有名な日本のアニメ映画の舞台でもある。「よろしくお願いしまぁぁぁす!!!!」のセリフで有名な映画、「サマーウォーズ」だ。細田守監督が製作したこのサマーウォーズは海外での評価も高く、全世界で広く愛されている作品であり、実をいうと私もそのファンの一人だったりする。日本人であればぜひ一度は見てほしい作品だ。別所温泉は作中では角間温泉となっており、主人公である健二とヒロインの夏希が乗った電車はなんと別所線がモチーフになっている。作中で実際に二人が乗った「丸窓電車」は現在運行されていないが、過去にイベントで何度か限定復活したこともある。またこの作品は2009年に公開されたため、今年で10周年を迎えることとなり、日本国内だけでなく海外のファンへもアプローチができれば、多くの聖地巡礼客を呼ぶことができると考えられる。

上田駅構内にあるポスター。山下達郎さんがOZアバターになっている。

上記のように別所温泉における外国人観光客への対応要素はかなり充実していると考えられる。そのためにも絶対に必要だと考えられるのは外国人の利用しやすい設備を作るということ、特に鉄道の多言語化が必須だと言える。たしかに別所線は路線図に英語を用いてはいたが、近年の訪日外国人ランキングの上位を占めているのは中国人や韓国人であるため、こういった言語への対応がまだまだ必要だろう。

別所線内の路線図。英語での説明文がついている。

またそもそも外国人観光客に対して、別所温泉の存在を伝えなければ来る客も来ない。積極的にSNSによる情報発信が必要だとも感じた。しかしこれらの問題を解決してしまえば光輝く要素は多く存在している。別所線から、別所温泉、上田市、長野県へと良い影響が伝わることが期待される。

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