先生の想いが教室を変える -ブレンド型学習の活用例-

昨年11月、アポイントを取り、ミシガン州のとある小学校を訪問した。目的は、「ブレンド型学習」(またはブレンディッドラーニング)をこの目で見ることだ。

ブレンド型学習とは、その名の通り、従来の先生主導のインストラクションと、生徒主導のオンライン学習を「ブレンド」する学習形態である。各生徒の学習ログに沿って、最適な学びを提供するものだ。

ブレンド型学習そのものについての詳細は、下記の記事を参照してほしい。

Blended Models

そんなブレンド型学習には、様々なモデルがある。下図が主なモデルである。

解決したい問題、教師自身のキャパシティ、生徒に身につけてほしいこと、物理的な制約、そしてタブレットやデバイスなどを考慮し、どのモデルを選択するか決断する。

私が今回伺った小学校では、主に2種類の「ブレンド」を使い分けているとのことだった。

2種類とは、上記の図の中で、StationRotation型とFlex型と呼ばれる学習形態である。

以下、軽くであるが、それぞれの説明を記した。(あくまで、この小学校での使い方である。)

StationRotation:
この学校では、数学の授業でこの形式が展開されているようだ。生徒たちは、3つの場所を巡回するわけだが、1か所目はiPadを用いての個別化オンライン学習、続いてPCを使っての個別化オンライン学習、そして残りが先生主導のオフラインティーチングである。

Flex:
数学以外のブレンド型学習の授業は、Flexという形式で行われているようだ。まず、先生が生徒に対して最終的なゴール(その授業内のゴール)を決める。そして、先生は生徒に学習の自由という権限を与える。つまり、生徒はそのゴールを達成するために教室内で可能などんな学び方を行ってもいいのだ。自由に移動もでき、自分に合った方法でゴールを目指すのである。

生徒主導の学びだなというのが、率直な感想である。ただ、小学生に対してこのようなフレキシブルな学習形態が果たして上手く機能するのか、疑問を感じた。

こんなことを行きのUberの中で考えていると、小学校に到着した。

大量のタブレットとPC

小学校に到着すると、学長が笑顔で迎えてくれた。

この日お世話になる3年生担当のVal先生がまだ授業中とのことで、学長が親切にも校舎内を案内してくれた。

まず、学長はカートにびっしりと詰まったiPadを見せてくれた。

これらが、ブレンド型学習を支えてくれているとのことだ。iPadを起動すると子供用のアプリケーションがずらりと並んでいた。

どうやらiPadのカートだけでなく、PC専用のカートもあるようだ。しかも、カートの中のPCは特定のメーカーに限定されることなく、WindowsやMac、Chromebookと多様性に富んでいた。

学長いわく、

「PCは1種類の学校が多いようだが、我々は子供たちの将来のことをより考えてこのようにしている。」

こうしたカートは学校内に全部で12個も置いてあった。そして各教室には、1台ずつプロジェクターが設置されていた。

*ちなみに私立ではなく、公立校だ。

やはり、テクノロジーを教室内に導入する際の問題の一つが、金銭面だろう。大量のアプリケーションを含め、12個のカート分のタブレットである。これは相当お金がかかっているのではないか。

学長に尋ねてみると、iPadとPCは学校で購入したとのこと。対して、アプリケーションは、学区にレンタルしていると言っていた。おそらく、その学区がアプリケーションを大量に買い、それぞれの学校に安く貸し出しているのだろう。

アメリカは日本と異なり、教育権限の多くを地域の教育行政に与えている。だから、地域によってカリキュラムや教え方が異なることもしばしばのようだ。それらのシステム上の違いに関しては、シリコンバレーで活躍されている上杉さんの記事が詳しい。

http://chibicode.com/3-troubled-crusade-1–5/

学長によると、ミシガン州のこの都市では、2つの学区に1人のICTコーディネーターがいるようだ。彼らを中心にICT教育を推進していく。さらに、2つの学区に1人のSTEM教育専門の先生がいるとのこと。

数学の授業を見学

学長との校内見学を終え、Val先生が授業を行う教室へ向かった。

教室に入った時の感想は、

「教室かいこれ。」

どこぞのITベンチャーオフィスのような空間である。意図的にこのような空間にしているのだろうか。

この日見学させていただいたのは、数学の授業だ。

数学の授業は、ブレンド型学習の中でもStationRotationモデルで実施している。

この日の授業では、掛け算、割り算、大小関係がテーマであった。

前回、解法や原則などは習ったようで、復習を全員で行う。Val先生はとにかく生徒に発言させる。とにかく先生と生徒の距離が近いし、非常にインタラクティブなスタートであった。

黒板にはグループ分けが書いてあり、生徒たちは3つのグループに分けられた。Val先生は、そのうち2つのグループはiPadを持ってくるよう指示を出し、残りの1グループは教室の端に集められた。(上図のStationRotationモデルを少し改造した形ですね)

iPadを取ってきた生徒たちは、慣れた手つきでデバイスを起動させる。黒板には取り組むアプリケーションが書いてあり、各々取り組み始める。

この日生徒は最初に、IXLというアプリケーションを使っていた。

様々な科目を網羅しているアプリケーションらしいが、この学校では数学のみで使っているようだ。思ったよりも、生徒たちは黙々とiPadと向き合っている。もっとうるさくなってしまったり騒ぎだす子が出るのかとも思ったが、その期待はいい意味で裏切られた。

一方、教室の一角ではVal先生が掛け算と割り算の原理を1から教えている。計9人の生徒たちに対してだ。生徒たちはホワイトボードを片手に、Val先生の説明に耳を傾ける。ここはかなりインタラクティブな学びの場となっていた。生徒は先生との会話から、なんとか答えを導きだそうとしている。納得できない場合は、すぐに先生に突っかかる。Val先生も、少人数なので、生徒一人一人の状態を把握できている様子であった。

さて、どういう風にしてグループが分けられているのか、生徒たちに直接聞いてみた。どうやら習熟度別のようだ。できる生徒はどんどん先に進む。そしてオンラインだから、自分のペースで学習できる。あまりできない生徒には、先生の手厚いフォローが入る。今までであったら、やる気をなくして勉強がつまらなかったかもしれないところに、先生という最大のリソースを投入できるのだ。

先生の想いが子供の未来を創る

「どうしてブレンド型学習をやろうと思ったのですか。」

授業後にVal先生に質問してみた。

「一番は子供たちにより良い人生を歩んでほしいという想いから。子供たちが大人になる頃はもっと変化の激しい時代になっているでしょう。私たちがしてあげられることは、そのような時代でも、自分で考えて生きていける手助けをすること。」

先生たちのそんな思いから、始まったそうだ。

ましてやデバイスやアプリケーションの使い方、インターネットを使った情報収集法や学び方など、今では欠かせない能力になっている。

そこで、すぐに同じミシガン州にあるミシガンバーチャル大学に連絡を取り、ブレンド型学習やICTを取り入れた学習に精通している講師の方を呼んだそうだ。

ワークショップを開いてもらったり、トレーニングを受けたりし、Val先生たちは自分たちの学校への導入準備を進めた。

2011年、導入1年目、右も左もわからず、本当に困難の連続であったと苦笑いを浮かべて話してくれた。3年目までは、トライアンドエラーの繰り返しで、子供たちに申し訳なく感じてしまうこともあった。それでも、いろいろなアプリケーションを試したり、様々なブログを参考にしたりしたそうだ。ようやく手応えをつかみ出したのは、2014年頃。今では、余裕を持って生徒たちに接せている。

最後に、この学習形態の長所と短所について。ブレンド型学習は種類が多様であるので、今回のStationRotationモデルを例に少しずつ挙げてみよう。

長所としては、

  • 既存の教室内で行える
  • 習熟度別で生徒を分けれるので、各々の学習ペースで進められる
  • 少人数授業という形式が実現し、勉強が苦手な子でも今まで以上にコミットできる

短所としては、

  • アプリケーションを含めたオンライン学習のためのデバイス等の準備費用
  • アプリケーション選択や適切なローテーションなど、教師の能力によって学習効果に差が出る可能性

上記は私がパッと思ったことであるが、1つ確かに言えることがある。

それは、この公立小学校の学びの変革を主導したのは、国でもなく教育委員会でもなく学長でもなく、その学校の先生の想いであったことだ。

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