未来の教育に必要なのは「越境力」

複雑化する世界と求められる人材

「第四次産業革命」の時代において、世界の人材開発競争は激化し、学びの革命が世界中で起こっている。

さらに、人生100年時代の到来が叫ばれ、グローバル化がさらに進む中で、誰もが「チェンジ・メイカー」の資質を手にすべき時代が到来していると経産省でも議論されている。

つまり、変化・複雑・相互依存の時代(VUCAワールド)に、幸せに生きるために先例のない複雑な問題に対処する力を誰もが習得する必要があることを、教育関係者のみならずすべての人々が知る必要がある。それは、持続可能な成長と民主的な社会の維持を可能にするために必要な力でもある。

そんな「チェンジ・メイカー」育成のためには、「越境力」を持った教育環境が必要なのではないかという仮説だ。

ガラパゴス化と境界

これまでの学校は、社会、理科、数学などと科目の間に恣意的に境界を設け、個々の部分に切り分けてきた。こうした科目の分断とはまったく関係なく、現実世界は、大きなまとまり(総体)として複雑に進化しているため、そこで生じている現象は、個々の科目で得られた断片的な知識を適用することで説明しつくせるものではない。科目間にある境界を越えなければ、そうした現象の全体像はみえないのである。

さらに現実世界では、従来には確認できなかった目新しい現象(AI、ビットコインなど)が次々と生まれるので、過去につくられた科目では説明できない問題が次々と発見されていく。

現実世界とデジタル世界の境界でも同じことが言える。2歳児の30%がスクリーンに触れている現代において、日本の学校はテクノロジーからまだまだ距離を置いている状況だ。学校での生活は、急に旧石器時代に戻ったようになってしまう。事実、日本の教育現場でのICT活用度合いは極めて低い。

そんな中で、日本の教育においてガラパゴス化(世界の標準からはずれた古い独特な物事の仕方などに執着すること)した学校を必死に守ろうとする、既得権益を握っている人たちがいる。他方、世界に目を向け、未来のために新しい教育を試みようと真摯に取り組んでいる人たちもいる。

まさに今、岐路に立たされているのは、日本で生活するすべての人たちだ。「第四次産業革命」の時代に古いモデルを機械的に持続するか、あるいは「第四次産業革命」の時代にふさわしい新しいモデルを求めて創造性を発揮していくかが問われている。

「越境」する教育

そこで「チェンジ・メイカー」育成手段のひとつとなるのが、「越境力」を持った教育だ。越境力とは、文字通り境界(壁)を超えていく能力のことであり、越境した教育が今後は求められると考えている。なぜなら、先例のない複雑な問題を1科目で解決できることは難しく、科目の伝統的な境界や国境と関係がないからだ。

その教育に大切なのが、現実世界と科目の越境を重視する現実感覚だ。今世界では何が起きていて、それはどうして起きているのか。子供たちが「チェンジ・メイカー」として、小さな問いを立てる上で、この現実感覚(現実から学ぶこと)は欠かせない。すると、自然と科目の境界は薄れていくだろう。

例えば、サイバー戦争の現状を学ぶ時、以下のように学べるだろう。タブレットやPCを使って、簡単に「サイバー攻撃リアルタイム可視化ツール」を見ることができる。

サイバー戦争が起きている地域はどこか>地理

サイバー攻撃を防ぐには>情報、プログラミング

サイバー戦争と現実の戦争>歴史

まさに、年齢、レベル、場所、国籍、性別、研究領域、産学官の境界を越えて学び、共に創る環境だ。そしてテクノロジーをうまく使えば、こんな環境を生み出すことができる。徐々にこのような学びが増えていく必要があるのではないか。

このような様々な要素が「越境」した教育環境こそが、「自分が解決したいと思う小さな問題を見つける」のを助け、未来に生きる子供たちのモチベーションに火をつけるのではないだろうか。そのためには、教師の認知と行動の変化が必要であり、彼らもまた「越境力」を持つ必要があるのだが。

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