1. Introduction

MIT OpenCourseWare で公開されている【Blockchain and Money】の授業を日本語で解説しています。第1回はイントロダクションです。

Kanta Shimada
Blockchain and Money
8 min readFeb 18, 2020

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今回からMIT OpenCourseWare “Blockchain and Money”の全24授業を解説していきます。実際にMITで行われた授業を撮影したものがそのまま公開されています。講師はMITメディアラボのゲイリー・ゲンスラー教授。Goldman Sachsに18年間勤務後、オバマ政権の下で米商品先物取引委員会(CFTC)の委員長、財務次官を歴任した人です。

また、このクラスを受講している学生の約半数がビットコインを所有しており、3分の1くらいがブロックチェーン関連のビジネス・起業をしている、ということでした。恐るべし、MIT…

それでは解説を始めていきたいと思います。

今日のStudy Question

ブロックチェーン技術とは何か?

なぜ変化の触媒と言われているのか?

インターネットの発展

インターネットの始まりは、1974年のイーサネットに加えて、多数のコンピュータ間における通信を可能にしたTCP (Transmission Control Protocol) /IP (Internet Protocol)でした。その後、1990年にはHTTPが生まれ、ホームページ閲覧やパソコンとWebサーバーのデータのやり取りが可能になりました。

イーサネットやTCP、IP、 HTTPについては、わかりやすい解説ページがあるのでそちらを参照して見てください。

Cryptography(暗号学)とは

さて、前述のインターネットの発展と同じように、暗号学にも発展の歴史があります。 “Cryptography”は、「他者から解析されない暗号化の方法」であり「敵前でのコミュニケーション」として使われてきました。

1. 古代:スキュタレー暗号

シリンダーに巻きつけたリボンに文章を書いた暗号法で、双方が同じサイズのリボンを持っていないと文章は解読できないようになっています。つまり、暗号を送る側と受け取る側双方が同じ解読法を理解していなければなりません。この概念は現在においても重要です。スキュタレー暗号について詳しく知りたい方はこちらから。

2. 1920年代〜第二次世界大戦:エニグマ暗号機

ナチスドイツが第二次世界大戦中に使用した暗号機。映画『イミテーション・ゲーム』で、イギリス人の数学者アラン・チューリングによって解読されたエピソードが描かれています。

3. 1970年代:公開鍵暗号方式

ブロックチェーンの核心部にあたる技術。今後の授業で詳しく解説していきます。

4. 1996年:SSL (Secure Sockets Layer) / TLS (Transport Layer Security)

公開鍵暗号方式によって、インターネット上で通信を暗号化する技術も生まれました。詳細はこちらの解説ページに記載されているので省きます。

ビットコイン以前の課題

インターネットと暗号学の発展により様々なプロジェクトが立ち上がったものの、黎明期における多くの暗号通貨は失敗に終わりました。しかし、デジタル決済の分野においては、成功例として現在でも多くのユーザーを抱えているものもあります。

特に2007年にローンチした「エムペサ」は、ケニアで普及している個人間送金システムで、銀行口座を持たない人でもケータイ端末から送金が可能になるデジタル決済サービスです。既にケニア内で2000万人のユーザーが使用しており、成人の半数はアンバンクと言われるアフリカでの更なる普及が見込まれています。

しかし、この分野には大きな課題が残っていました。

中央集権的な機関に頼らない

個人間での価値のやりとりは可能なのか?

そしてこの問いは2008年10月31日、サトシ・ナカモトという人物によって解決されたのです。※ ブロックチェーン自体を世界で最初に生み出したのはサトシ・ナカモトではなく、暗号学者のスチュワート・ハーバーだと言われています。

ブロックチェーンとは何か

1. タイムスタンプ付き追記専用ログ

情報のブロックが少しずつ付け加えられ、その都度時間が記録されます。

2. 暗号化によって守られた監査可能なデータベース

ハッシュ関数による耐タンパー性、公開鍵暗号方式にもとづく電子署名、「誰がブロックを追記するか」という合意によってセキュリティが保たれています。

3. コンセンサス・プロトコル

これにより合意形成におけるビザンチン将軍問題を回避できます。ビザンチン将軍問題に関する詳しい解説はこちらをご覧ください。

ビットコインでピザを

ここでひとつ、ビットコインにまつわる小噺を紹介します。

これは、2010年5月18日に実際に送られたメールです。

「宅配ピザの決済手段としてビットコインを使いたい、ピザを2枚買うのに10,000ビットコイン払います」という内容です。

それまでビットコインが決済手段として使われたことはありませんでしたが、4日後の5月22日に実際に売れたそうです。

これにちなんで、毎年5月22日は「ビットコイン・ピザの日」と言われているらしいです。当時は10,000ビットコイン = 41ドルでしたが、現在(2018年9月5日)の価値に換算すると6600万ドルになります。

面白い話でした。

ブロックチェーン技術が意味すること

1. 分散型ネットワーク上で検証されたデータをやりとりする

ネットワークの中では「検証」という概念がとても重要になります。分散型のネットワークでは、コンセンサスプロトコルにより「検証」に多くのコストがかかります。それに対して中央集権型のネットワークでは、「検証」は1つの機関が行うため、コストは少なくなります。

つまり、「コスト」と「検証」はトレード・オフの関係にあるのです。

2. データが価値やコンピューターコードの代替物となる

今後の授業でスマートコントラクトとして出てきます。

3. 金融分野に直結する

4. 技術・商業・公共政策における普及へのハードル

金融の役割

お金の3つの役割は「決済手段」「価値貯蔵手段」「価値の尺度」。それに対して金融の役割は…

お金とリスク(保険、株)の仲介・分配・プライシング

と言われています。

金融業界においては、度重なる金融危機や不安定な政策による法定通貨の崩壊、中央集権的な機関へのリスク・富の集中、17億人に及ぶアンバンクの人々の金融包摂など、様々な課題が山積しています。

そしてブロックチェーンには、これらの課題を解決できるポテンシャルがあるのです。

金融分野におけるブロックチェーンの課題

1. パフォーマンス&スケーラビリティ

現在の決済システムでは毎秒100,000トランザクションを処理しなければなりませんが、ビットコインで各ノードが処理できるのは毎秒7トランザクションのみとなっています。

2. プライバシー&セキュリティ

3. 旧来のシステムとの互換性

4. ガバナンス

管理者がいないネットワーク特有の問題として、ブロックチェーンのソフトウェアをアップデートするのは難しいのです。

5. 商用のユースケース

6. 公共政策&法的な枠組み

許可型と自由参加型

ブロックチェーンには主に2つの種類があると言われています。

許可型(パーミッション型)ブロックチェーン

・参加者が限られている

・全員がソフトウェアをアップデートできるわけではなく、PoWやマイニングもない

自由参加型(パーミッションレス型)ブロックチェーン

・誰でも参加できる

・マイニングのリワードによってセキュリティが確保されている

・ビットコインなどの仮想通貨で使われているのはこちら

今日の授業はここまでです。最後のおまけとして、

このクラスのスタンスについて言及していました。

マキシマリストでもミニマリストでもない、中立的な立場からディスカッションを進めましょうということです。

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