パブリックチェーンとプライベートチェーン

企業はどれを採用すべきか

ブロックチェーンには「パブリックチェーン」と「プライベートチェーン」があることは知っている方も多いと思います。両者の違いについて解説している記事やサイトも多数存在します。しかし、どのチェーンを採用すべきかというところまで踏み込んだ記事はまだないように思われます。そこで、本記事ではブロックチェーンの種類について、もう一度確認してから、どのように使用されているのかについて検討します。

定義

イーサリアムのコア開発者であるVitalik Butelinは、ブロックチェーン(厳密には、ブロックチェーンに近い仕組みでデータを保持するアプリケーション)は以下の3つに分かれる、と唱えています。

パブリックチェーン:
取引の承認(新たなブロックの生成)のプロセスに誰でも参加が可能なブロックチェーンであり、誰でも取引を行い、ブロック内のデータを閲覧することが可能。

コンソーシアムチェーン:
取引の承認を行うことができるのが、予め選出されたノード(=参加者)に限られているブロックチェーン。

プライベートチェーン:
取引の承認をすることができる権限が、一つのノードに集中しているブロックチェーン。

パブリックチェーンとプライベートチェーンのメリット・デメリットは以下の通りです(コンソーシアムチェーンについては後述します)。

パブリックチェーン

【メリット】
・中央集権的な管理者が不在で、民主的である。
・改ざんが不可能であり、信頼性が高い。
・分散的に処理されるため、ダウンタイムがない(ゼロダウンタイム)。

【デメリット】
・取引の承認に比較的時間がかかり、手数料が高くなる場合がある。
・現在主流な取引承認方法であるProof of Workでは、大量の計算能力と時時間、電力が必要である。
・参加者全員がデータベースを閲覧することが可能であり、個人情報保護の観点から問題がある。

プライベートチェーン

【メリット】
・取引の承認に時間がかからず、手数料も低い。
・参加者が限定されるため、個人情報の保護に資する。
・マイニング報酬などの、正しい情報を記録するためのインセンティブが不要となる。

【デメリット】
・管理者が限定されるため、中央管理者によるデータの改ざんや恣意的な運用の危険性がある
・管理者が集中しているため、システム負荷によりダウンする可能性がある。

コンソーシアムチェーンはプライベートチェーンに類似する仕組みですが、取引承認の参加者数を調整することで、パブリックチェーンとプライベートチェーンそれぞれのメリット・デメリットの程度を調整することができます。

それぞれのブロックチェーンの利用状況

パブリックチェーン
BitcoinやEthereumなどの主要通貨は全てパブリックなブロックチェーンによって運営されています。また、ICOで発行されるトークンのほとんどは、ERC20というイーサリアムの規格に則っており、パブリックチェーン上に存在しています。

コンソーシアムチェーン
コンソーシアムチェーンに関して定義することは非常に難しいですが、コンソーシアムチェーンというと、主に金融機関の間で決済処理を記録するブロックチェーンを指す場合が多いです。現在は、それぞれの金融機関(銀行や証券会社)が自社が関与する取引記録やそれに紐づく顧客情報を保持・管理しています。これを、全ての金融機関で共通のものを使用することができれば、異なる金融機関同士の取引にかかるコストを押さえることができるはずです。

このような思想のもとで、有名な金融機関を集めて、コンソーシアムチェーンを実現しようとしたのが、R3社でした。もっともR3社の試みは現在それほどうまくいっておりません。世界規模の金融機関が取り扱う取引量に、既存のブロックチェーンの処理速度が耐えられないことがその大きな理由です。

もっとも、R3社はブロックチェーン技術を応用して、金融機関の共通インフラを構築する試みを依然として続けており、巨額の資金も調達しております。

日本においてはソラミツ社の「Iroha」がこのコンソーシアムチェーンに近い概念であるといえるでしょう。

プライベートチェーン
プライベートチェーンはよりドメスティックな環境で利用される。例えば企業の中のサプライチェーンの追跡などで使用される場合が考えられる。

例として、企業向けのプライベートチェーンを提供する「mijin」がどのように機能しているかを見てみる。

出典:mijin公式サイトより

左図では、食肉の加工及び流通経路の記録が全てプライベートチェーン上に記録されることで生産地から消費者に届くまでのサプライチェーンを追跡できるようになることがわかります。但し、ドメスティックな環境下にあるため、管理者が恣意的にデータの改竄を行う可能性があることは、前述の通りです。

結論

  • ブロックチェーンはパブリックチェーン、コンソーシアムチェーン、プライベートチェーンの三種類に大別されるといえます。
  • Bitcoin、Ethereum、その他のトークンは主にパブリックチェーン上で運営されています。
  • 複数の同種の機関同士で取引記録を共有し、コストを削減したいとき、コンソーシアムチェーンは有力な選択肢となりえますが、分散型データベースをしようすればよいという意見もあり、実用性の観点から、必ずしも必要なわけではないともいえます。
  • 企業内部でデータベースを構築したい場合、プライベートチェーンを使用することが選択肢となります。しかし、プライベートチェーンは改ざんが容易であるため、データベースに信頼がおけるわけではありません。そこで、外部の監査機関がノードになるという方法が考えられますが、この場合はコンソーシアムチェーンに近づくといえます。

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