ERC721とは?

Ethereumの規格とその種類

概要
ERC721とは、Ethereum(イーサリアム)ブロックチェーンにおける、スマートコントラクトの規格の一つです。スマートコントラクトの規格には、ERC721以外にもERC20やERC223が存在します。
ERC721の特徴は、スマートコントラクト内でNon-Fungible Token(以下、NFT)を扱えるようになることです。ERC721の規格を用いることで、イーサリアムブロックチェーン上で、NFTの所有権や取引履歴を記録することができるようになります。

背景
2014年9月にイーサリアムブロックチェーンが誕生して以来、スマートコントラクト機能を実装しているイーサリアムベースのトークンは、開発者の間で高い人気を誇っていました。しかし、こうして新しく開発されたトークンは、ブロック内で保管する情報がそれぞれ異なっていたために互換性がありませんでした。Jaxxのような暗号通貨のウォレット事業者や、Bittrex,Poloniexのような暗号通貨取引所は、トークンが新しく誕生するたびに、自社サービスで扱えるようにするための対応に追われ、暗号通貨コミュニティの発展が徐々に損なわれつつありました。

そこで、2015年11月19日に、開発コミュニティ全体としての利便性を高める目的で、スマートコントラクトの共通規格として「ERC20」が誕生しました。続いて、ERC20の改善版として、2017年3月5日にERC223が誕生しました。そして2017年9月20日、ERC20を更に別方向に発展させる規格として、ERC721が誕生しました。

以下、それぞれの課題とその克服について詳細します。

ERC20の課題とERC223の誕生
ERC20は早期に誕生した規格であり、現在多くのICOプロジェクトが、ERC20に準拠した独自トークンを開発しています。もっとも、現在利用できる規格の中で、ERC20は最上の選択肢であるとはいえません。なぜなら、ERC20は取引のなかでトークンが消滅してしまう可能性がある、という致命的な欠陥を孕んでいるからです。

例えばあるユーザーが、ユーザーアドレスと間違えてコントラクトアドレス宛にトークンを送金してしまった場合を考えます。ERC20のトークンコントラクトはそれ自体にトランザクションを処理する機能がないため(すなわち、コントラクトの条件に含まれていないトークンが送られてきてしまった場合)、送金自体は正常な取引として処理されるものの、そのトークンをこれ以上動かすことができなくなります。トークンを一切使うことができなくなるため、実質的にトークンがネットワーク上から消滅したことと変わりありません。

これを克服するために生まれたのが、ERC223という規格です。

ERC223は、「token Fallback」という機能を実装しています。これは、上記のようにコントラクトアドレス宛に、コントラクトに対応していないトークンが送金されてきた場合に、元の送り主に自動的に返金するという機能です。
もし対応しているトークンがコントラクトアドレス宛に送金されてきた場合は、通常どおりコントラクトを実行することができます。このように、ERC223は、ERC20の抱えている致命的な問題を解決した上位互換の規格として考えられています。

イーサリアムの持つ可能性を押し広げる、ERC721の登場
このように、ERC20の持つ課題の解決策として登場した規格がERC223でした。
一方で、ERC20の課題を解決するのではなく、まったく別方向に発展させることで、イーサリアムのポテンシャルを引き出す「ERC721」という規格が誕生しました。ERC721は、ERC20との後方互換性を保ちつつ、NFT(Non-Fungible Token、代替不可能なトークン)という、全く新しいタイプのトークンを扱えるというところに特色があります。「Fungibility(ファンジビリティ)」とは、「代替可能性」という意味を持つ、経済学の文脈で用いられる言葉です。

例えばトウモロコシの場合、同じ品種であれば、産地がどこであっても、その価値や果たしている機能は同等なので「Fungible(代替可能)」であるといえます。他には、複数の証券取引所に上場している株券も、代替可能物であると考えられます。通貨も同様です。通貨は「価値の保存」、「価値の尺度」、「交換の手段」という3つの機能を有していると定義されています。通貨は価値を交換する手段として用いることができるため、代替可能であると考えることができます。

一方で、「Non-Fungible(代替不可能)」なものとは、どのようなものでしょうか。例えば、土地や家、オリジナルの芸術作品、サイン色紙など、それ自体に個性があるものは、代替不可能であると考えることができます。
既存のERC20系統の規格のトークンでは、代替可能物しか扱うことができませんでした。すなわち、ERC20に準拠したイーサリアムブロックチェーンでは、通貨のような代替可能物をトークン化して活用されることが主でした。
しかしERC721の登場によって、各トークンが帰属先(所有者名など)のメタデータを含むことができるようになりました。これにより、イーサリアムブロックチェーン上で、代替不可能なものをトークンとして扱うことができるようになりました。

ERC721の活用事例
先日大きな話題になった「Crypto Kitties(クリプトキティーズ)」は、このERC721に準拠したNFTを用いています。Crypto Kittiesは、仮想空間上に自分だけのオリジナルの猫を育成するゲームです。2017年11月28日に一般公開されてからわずか2日で、一時イーサリアムネットワークの全トランザクションのうち、およそ13%を逼迫するほどの人気を誇っています。

Crypto Kittiesで取引される各NFTは、猫1匹1匹の情報と紐づいています。ここでいう情報とは、①表現型(Phenotype) ②遺伝型(Genotype)という、それぞれの猫が固有でもつ2種類の「遺伝情報」のことです。①のPhenotypeは猫の外見上に関わってくる遺伝情報であり、②のGenotypeは猫の外見上の形質としては表れていない、その他の遺伝情報として扱われます。
Crypto Kittiesは、イーサリアムネットワーク上で:①猫を販売するか、②猫を交配する、という2つのトランザクションを生成することができる。猫を交配するには2匹以上の猫を所有している必要があります。ここで猫を交配すると、2匹の親猫の遺伝情報が組み合わさり、新たな子猫が誕生します。組み合わせの種類は極めて豊富であり、理論上およそ40億種類の猫を生成することができるそうです。ただし、現在のERC721の特性上、猫の画像など、遺伝情報以外のデータはブロックチェーン外で管理しているようです。

このように、電子空間上のデータでも、「固有のデータ」を扱う場合、ERC721は最適であるといえます。

今後の展望
また、現在は直接的にERC721を用いていないものの、今後の活用が期待される分野は多岐に渡ることが予想されます。例えば、ゲーム産業がひとつの事例として考えられるでしょう。

事例:Enjin Coin©
Enjin©は、ユーザーが独自にゲームコミュニティを生成できるプラットフォームです。アジア圏を中心に、既に約1870万人のゲーマーが登録しており、グローバルで月間6000万PVを獲得している巨大ユーザープラットフォームです。
Enjin©は、ゲーム産業向けに、「Enjin Coin」というERC20ベースのスマートコントラクトプラットフォームを提供することを発表しました。開発ロードマップによると、今後はオープンソースのSDK(System Development Kits、システム開発キット)、ゲーム内プラグイン、ウォレット、仮想空間上のアイテム管理システム、決済プラットフォームを提供していくようです。
Enjin Coinは直接的にERC721を採用していないものの、「ユニークトークン」を生成して、ゲーム内の固有アイテムと紐づけて扱うことができます。それだけでなく、ゲーマーが複数のアイテムを同時にマーケットに出品・交換することを見越して、複数のユニークトークンを一度にまとめて、格安の手数料で送信できる特殊なコントラクトを開発・実装しており、ERC721と思想的に極めて近しいプロジェクトであると考えられます。実際に、公式ブログにてCrypto KittiesとERC721の成功を称賛するコメントを寄せており、高い関心を寄せていることがわかります。
ゲーム産業では、長年「Skin-Gambling(スキンギャンブリング)」という問題が暗い影を落としています。ここでいう「Skin(スキン)」とは、例えば帽子やドレスのようなユニークなデザインの服データなど、オンラインゲーム上のキャラクターの外見を変更するアイテムのことを指しています。多くの場合、スキンはキャラクターの攻撃力のような、ゲームを優位に進めるための性能には直接的に影響しないように設計されています。しかしレアリティの高いファッションアイテムとして、ユーザーの間で高い人気を集めています。特にコアプレイヤーのコミュニティにおいて、レアスキンを身に着けることで一般ユーザーと一目で差別化を図ることができるため、一種の権威として機能しています。そのため、公式ではないアンダーグラウンドなコミュニティ内で、スキンが高値で取引されていることが問題となっています。

これを踏まえて、「スキンギャンブリング問題」について考えてみたいと思います。スキンが「ギャンブル問題」といわれる所以は、ゲーム内でスキンを入手するための方法にあります。一部のゲームにおいて、スキンは「スキンパック」と呼ばれる確率で当たるガチャガチャのようなアイテムを購入して入手する方式になっており、コアゲーマーの射幸心を煽る設計になっています。しかしアイテムの当選確率など、実態はブラックボックスに包まれており、法的・倫理的に問題があることが専門家によって指摘されています。
Enjinのプラットフォームを用いれば、スマートコントラクトを導入することによって、スキンパックにおけるブラックボックスを排除することができます。さらに、各当選アイテムにNFTを割り当ててゲーム内に取引プラットフォームを導入し、そこでアイテムを公平に取引できるようにすることで、アンダーグラウンドな世界で行われる取引を未然に防ぐことができるでしょう。
また、従来のゲームでは、ユーザーがゲーム内で購入したアイテムは、ひとつのゲーム内で使うほか用途がなく、またユーザーが一度運営にBAN(アクセス禁止)されてしまうと、時間をかけて収集したアイテムを全部失わざるを得ませんでした。そのため、従来は各ゲームごとに、閉じられた経済圏が展開されていました。しかし、複数のゲームを跨いでアイテムを売買できる、新しい横串のプラットフォームを提供することで、ゲームの世界にまったく新しい巨大な経済圏が誕生する可能性があります。

その他の事例:知的財産権・著作物の保護
ユニークな著作物に対してNFTを紐づけることで、著作権の厳密な管理できることが予想されます。ERC721のメタデータのなかに、著作者名、著作物の保管場所、著作権の認証日などのデータを登録することで、権利関係を明確にすることが可能になります。ブロックチェーンの改ざん不可能性を法的根拠として活用できる未来は、すぐそこに来ていると考えてよいでしょう。著作権の管理とは文脈が異なりますが、実際に2017年8月31日より、アメリカのイリノイ州は出生管理に分散型台帳を導入するテストに乗り出しており、国家機関で厳密性の問われる情報管理にブロックチェーンが導入される日は近いでしょう。

ERC721を他領域に活用できる可能性
Enjin Coinの例のように「ある主体が発行した代替不可能なアイテムを、同一産業内でオープンに取引できる状況を作る(アンダーグラウンドな取引を排除する)」というビジネスモデルが、今後様々な産業で成立する可能性があります。
例えば、イベント産業について考えてみましょう。現在、イベントのチケット市場はアンダーグラウンドな転売や偽チケット問題も多発しています。例えば2017年には、人気アーティストのEd Sheeranさんのライブチケットの偽物が横行し、当日のライブイベント会場にて、偽物チケットを買ってしまった数百人規模のファンが入場拒否されるという事件が発生しています。最終的にEd Sheeranさんの公式サイトから、転売で偽チケットを購入してしまわないように注意喚起が行われるなど、大きな騒ぎになりました。
コンサートイベントのチケットは、「固有のアーティスト」「指定された座席」というユニーク情報を含んでおり、代替不可能なものと考えることができます。すなわち、ERC721のNFT発行機能を用いてチケットを作成し、オープンなマーケットプレイスを用意することで、これらのアンダーグラウンドなチケット転売市場を一層できる可能性があります。

代替不可能なアイテムを扱うビジネスドメインは数多く存在しているため、ここでは紹介しきれていない事例が、まだまだ多くあると思われます。ERC721は、マスユーザーに対して代替不可能なアイテムを提供しているビジネスドメインと相性がいい技術と考えられます。ERC721はイーサリアムのもつポテンシャルを大幅に拡張するものとして、今後とも活用事例に注視していくべきでしょう。