ブロックチェーン誇大宣伝の先に

Okamoto Ken
BlockchainLock
Published in
9 min readDec 16, 2018

2018年の静かに終わろうとしています。2018年の漢字は「」とのことですが、ブロックチェーン業界も仮想通貨の相場だけみると正に「」となる一年でした。そらみたことかと嘲笑する人たちを脇目に創業したブロックチェーンロック社ですが半年ほど全力疾走して、2019年を明るく迎える予感とともに2018年を振り返ってみたいと思います。

多くの試行錯誤と多くのプロジェクト相談を頂きながら見えてきたものは、我々がブロックチェーン技術の社会実装の最先端を走っているという事実です。「どうしてブロックチェーンが必要なのか?」、「何故RDBでは駄目なのか?」と、多くの疑問と質問を頂きながらも、「やってみないと分からないからやってみているのです。」、と微笑みながら実際にコーディングを進めてきました。

結果、驚くことかもしれませんが、この半年間書き続けたコーディング行数の約9割はブロックチェーン関連のプログラムではありません。ブロックチェーン上で動くビジネスアプリケーションのプログラムが大半です。では、これをもって、「ほらやはりブロックチェーンはいらなかったじゃないか」ということになるのでしょうか?我々はそうは思いません。ブロックチェーンそのものと、その上の乗るビジネスアプリケーション双方を作っているからこそ分かってきた知恵と知識が我々の財産です。通常のビジネスアプリケーションを作る上でP2Pで動くスマートコントラクトはほとんど必要ないといえるでしょう。むしろスマートコントラクトを入れることで、今までシンプルだったビジネスロジックが複雑極まりないものになってしまいます。もし全てがP2Pで動くのであればそれでもやってみる価値はあるかもしれませんが、P2Pで全てが完結することはほぼありません。仮想通貨業界でユニコーン企業のCoinbaseなどがユニコーン企業であるのは強力な収益性があるからで、その収益は中央集権的なビットコインブローカーという企業活動によりもたらされています。中央集権でビジネスをやるのであれば、過去20年間やってきたように既存の技術でビジネスをやる方が圧倒的にこなれておりスムースです。これは実際に業務フローを書き出し、コーディングをしてみれば分かることです。残念ながらそこまでのレベルでの実装を行った企業数は限られており、それ故に我々がその限られた一社であること大きな価値があると思っております。

このコンテキストでいくとブロックチェーンの価値とは何なのでしょうか。ブロックチェーンロック社では下記の4つのポイントがブロックチェーンの価値とその価値を実現するために必要な要素と考えております。

1.ゲートウェイサービス

あらゆるものがインターネットにシフトしているとはいえ、我々は最終的には仮想世界ではなく現実世界に住んでいます。その現実世界での価値は皆さんが普通にアクセスできる動産・不動産そのものです。駅前に転がっている自転車を拝借すれば目的地に着くのに楽なのにみんなそうしないのは、そういうルールが現実世界にあり、カギのあるなしに関わらず動産・不動産は所有者のものであるという規則をみんなが理解しているからです。それでもその規則を破る輩がおり、その度に警察や裁判所が出てきて逮捕や強制執行をすることで世の中の秩序が保たれているのです。そう考えるといかにP2Pで動産・不動産が移転しても最終的にその権利を保証する企業もしくは政府がいなければ画餅となるのは理解いただけると思います。ブロックチェーンロック社がスマートロックを最初のブロックチェーンビジネスに選んだのもそのような理由からで、スマートロックの先にある空間の利用をブロックチェーンが保証することはできますが、ルールを守らないユーザーの対処は営利団体としてビジネスをしているブロックチェーンロック社の仕事となり、それを含めた活動がそのサービスを現実世界で「使えるサービス」としてユーザーに届けられます。

このゲートウェイサービスは本筋的には、対象となる動産・不動産が貴重なものであればあるほど、永続的に提供される必要があり、伝統的な金融機関や政府機関など本来その役割を担ってきたプレイヤーが提供すべきものです。現実問題としてそうなっていないのは、その価値に気づいていないか、気づいても動けない責任者の怠慢です。

2.本人確認サービス

そのような伝統的金融機関や政府が闘ってきた相手が半社会勢力、犯罪者、テロリスト達です。銀行口座を開設する時にうんざりするような手続きが存在するのは、大半の善良な人たちのためではなく、そのような半社会勢力を除外するための永続的で真剣な世界的な努力です。本日の経済繁栄を享受しているコミュニティの一員として、暗号通貨だからといってその努力を嘲笑したり逸脱していいわけはありません。このことはビットコインから始まったブロックチェーン技術に関わる者として最低限押さえておかなければいけない基本的ルールです。

その文脈でいくと、ゲートウェイで結びつける「換金され得る」高価な動産・不動産の「所有者を法的に確認する」ことは非常に重要なプロセスです。逆説的に考えると全てが改ざん不能な形で保存されるブロックチェーンの価値は、しっかりと実施された本人確認プロセスと連携してこそ発揮されることになります。

またユーザービリティという面からしても、しっかりと考えられたブロックチェーン技術に裏打ちされた全く新しいデジタルアイデンティティの登場は大きく歓迎されるものです。皆さんが自分の人生を振り返ってみて、何度同じ住所情報、生年月日情報等を記載して来たか考えると、そのプロセスが合理化されるのは喜ばしいことで、テクノロジーの当然の帰趨です。ブロックチェーン先進国のエストニアでは住所情報を二度書かせることは違法です。日本ではマイナンバーカードは冗談のように普及していませんが、ブラジルでは就労ビザをもらうよりも先に納税番号をもらいます。そのような強力なアイデンティティを誰に委ねたいかを考えることがブロックチェーンビジネスのヒントではないでしょうか。

3.ウォレットサービス

ブロックチェーン技術の文脈で語るウォレットサービスとは、一般人が通常の生活の中で思いつく銀行のモバイルアプリではありません。ウォレットアプリに保存される秘密鍵は、上記に記載してきた金銭に交換され得る高価な動産・不動産の所有権そのものです。その秘密鍵を無くすとその資産の復元は不可能です。それは技術的な限界の問題ではなく、そもそもの設計でそうなっているのですが、それを一般人に理解しろといっても無理な話です。なぜなら現在の現実世界でいろいろなアイデンティティを無くしたとしても、結局はそのサービスの管理者が適当な本人確認でアイデンティティーの復元を補助するからです。パスワードがわかり易い例ですが、キャッシュカードを無くした際の再発行や、クレジットカードの不明なトランザクションの問い合わせ等、レベルによりますが基本的には誕生日と電話番号、住所確認程度でリクエストは承認されます。

ブロックチェーンの世界に戻って、このようなある程度ゆるいユーザービリティをそもそも提供するのかしないのか、提供する場合どのように提供するのかがブロックチェーンサービス会社としての課題となります。既存のソリューションに匹敵するゆるさで、圧倒的にセキュアな秘密鍵復元サービスの提供が大きな競争優位になると思われます。

また、その文脈でいくと究極的に大切なものは秘密鍵ということになり、ゲートウェイサービスでもブロックチェーンインフラでもなく、ウォレットサービスが最も重要なサービスであるともいえます。従い、ウォレットサービス提供者もゲートウェイサービスと同じく、永続的にサービスを提供していく健全、堅牢なビジネス主体である必要があります。

4.ブロックチェーンサービス

最後のそれらの3つのポイントを押さえた上で、再度ブロックチェーンサービスに期待されることを考えてみます。基本的にはブロックチェーンは複数参加者が書き込むセキュアなデータベースということですが、その要素を噛み砕いて上記の文脈に照らし合わせると、ブロックチェーンを表す漢字は下記の3つの単語に分類されると考えます。

「世界」

「安全」

「透明」

ブロックチェーンは直前のブロックのハッシュが現在のブロックに埋め込まれることで、ブロック生成をチェーンのように繋げていき、一番長いチェーンがいつも正しいという仕組みです。それは本来的には「世界中」の参加者が自由に参加できるデータベースで、その参加者が自分の利益のために自由に参加できます。そのような環境下でも一番長いチェーンが正しいというコンセンサスアルゴリズムが働き、その仕組みのおかげで、チェーン全体の「安全性」が担保されます。そしてその過程で生成された全てのトランザクションを誰でも参照し検証できるという「透明性」がネットワーク全体の価値を高めるのです。その際、本人情報を持っているのは本人だけで、ゲートウェイサービス会社は本人確認がされたという情報のみを持っており、ネットワーク検証者は匿名アドレス情報しか持っていないという構成が、今までにない形でプライバシーを保護しつつも透明性を世界レベルで提供できるようになります。

これらの複合的な要素をシンプルに構成してユーザーがメリットを簡単に見つけられるようにするのがブロックチェーンサービス会社の仕事といえ、それこそがブロックチェーンロック社が探求しているゴールです。

2019年が楽しみになってきました。

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