プラットフォームビジネスの踊り場とせめぎ合い

Okamoto Ken
BlockchainLock
Published in
10 min readJul 24, 2020

昨年から、小売ではユナイテッドアローズやライトオンのZOZO離れ、ワークマンの楽天離れ、ホテルではアパのOTA(オンライン予約サイト)離れなど、プラットフォームからの離脱が止まりません。元楽天でプラットフォームによる囲い込みを14年間やってきた、私の経歴からしても、ついにそういう時代になってきたかという感慨深いものがあります。

その圧倒的な集客力を武器に多くの店舗を魅了し、また多くの成功店舗を生み出して来た楽天も数年前に流通額ではAmazonに抜かれ、いつしか市場事業の流通高が、決算報告から消えました。複雑に設定された楽天の従量課金のテーブルや、広告メニュー、決して顧客情報を店舗に渡さないシステムや、課金逃れを監視するパトロール部隊、これらば全てうまく機能していたのは、その圧倒的な成長率というネットワークエフェクトが効いていた時代です。その次代には三木谷社長から「Take rate(流通額に対する合計課金率)は10%を目指せ」という威勢のいい怒号が飛んでいました。

かくいう私も、楽天ブラジルの社長という立場で、どのようにTake rateを上げるのかという課題に取り組んでいました。ネットワークエフェクトなど全く効いていない、地球の裏側のスタートアップでクライアントから10%も取るのはもちろん無理な話で、当時から果たしてネットワークエフェクトが効いた後も10%を課金するのは持続可能なことなのだろうかと常に考えていました。

考えてみれば当然ですが、オンラインショッピングには送料がかかります。通常この送料は全体の商品単価の10%程度かかります。ここに広告宣伝費15%から20%、プラットフォーム利用月額費用とプ従量課金が10%、原価が6割程度だと人件費を払う前に赤字です。健康食品や美容関連商品が大きく売上を伸ばすのは最もなことで、原価3割程度のものであればこのような重課金の中でも売上を伸ばせます。一方で原価率が高い商品はほぼ儲からない構造になっています。

これは、オンラインショッピングモールの店舗に限ったことではなく、プラットフォーマーそのものとしても同じことが言えます。楽天でもある時期まで多額の広告をGoogleに出していました。ある時期を境に極端にGoogleへの広告費を削減することになりました。こちらも考えてみれば当然ですが、流通を伸ばすためにGoogleに頼らなければならないのは、Googleに税金を払っているようなものです。汗水垂らして作った流通を、汗を流さない仕組みを作ったGoogleに税金として納付するのは、プラットフォーマーには耐え難いことです。ショッピングのプラットフォーマーの価値は、google.comとブラウザに入力せずに、いかにamazon.com やrakuten.co.jpと入力してもらいお買い物が始まるかという、ダイレクトトラフィックの多さです。これが大きければ大きいほど、Googleに払う税金は少なくなります。この勝負は既にAmazonがGoogleに対して圧勝したことにより、決定済みかと思われていました。確かにオンラインショッピングに関してはそうでした。特にAmazonのように、多額の投資を物流にした今、倉庫を持たないGoogleがショッピングでAmazonに勝てることはないでしょう。

ところが、オンラインショッピング比率がある程度高まり、日本では10%近く、進んでいる韓国やイギリス、アメリカでは15%少々となった今、0%から5%まで伸びた時代のような成長はもう望めなくなりました。昨今のコロナ禍で、今までもうオンラインに移らないと思われていた商品までオンラインで買われることにより、アメリカではこの2ヶ月で更に10%ほどオンライン比率が高まったというデータもあります。このような例外的外部要因はあるものの、根本的にはオンラインショッピングの市場が2000年代初頭のように大きく伸長していない昨今、楽天やAmazonに出店の店舗でも、流通額が昨年比で横ばいか、少しのマイナスという店舗も少なくないはずです。そのような成長率になった際、プラットフォームに出店する店舗はどう感じるでしょうか?成長もしないチャンネルに、もしかして自分が作った顧客かもしれないのに、10%払い続けること、その意義を見いだせなくなる店舗が多くなるのは当然でしょう。特に自分のブランド価値に重きを置くいわゆる、ハイブランドの店舗はブランド価値の毀損という立場からも、プラットフォームを避けるようになりました。

この動きを更に拍車を掛けているのが、実際の施設がある飲食店、美容室などのビジネスです。これらの実際に施設があるビジネスの集客プラットフォームは更に苦境に立たされています。2019年3月期のぐるなび最終利益が8割減という数字は衝撃的でしたが、これは何もぐるなびに限ったことではありません。これらの実施設あるビジネスの集客プラットフォームはGoogle Map Engineに中抜きにされつつあります。今までぐるなびやホットペッパーに広告を出していた飲食店や美容院が、Googleマップ経由で顧客の流入が増加していることに気づいた時どうするでしょうか?もともとぐるなびやホットペッパーなどの集客プラットフォームは、オークション広告方式をとっており、より高い金額を支払った店舗が上位に表示されるという、大資本企業向きの仕組みでした。これが、街の個人経営の店舗でも平等にGoogleに表示され始めた時ゲームが変わり始めました。個人の施設であってもGoogle Map Engine対策と、インスタグラム対策をしていれば集客できるようになったのです。また、Google Map Booking APIの提供が開始されたことにより、集客に課金するプラットフォームでない、予約サービスなどの安価な機能サービスの契約で、Googleが無料で集客してくれるようになりました。今の所、美容室、レストラン、フィットネス、医者、士業等に限定されていますが、今後あらゆるローカルビジネスに拡大されていくでしょう。

ホテルに関しては今の所GoogleがOTAに接続先を限定しているので、美容院やレストランで起きているようなドラスティックな、垂直統合は起きていません。しかしながら、トリバゴのようなプラットフォームのプラットフォームがでてきたことにより、従前のプラットフォームなしに、直接自社サイトに集客できる道が開かれました。近い将来、ホテルもGoogleマップに収束していくでしょう。これは、Amazonが物流に投資したように、Googleが地図に投資したことにより、資産の勝負で他が追いつけない状況を築き上げたからこそ実現し、また他社はあっという間に太刀打ちできなくなるのです。

このような観点で考えると、楽天が楽天モバイルなど、資本力を生かして今のうちに資産偏重な投資をすることで、他のプラットフォームと差別化しようとしている意味が理解できると思います。以前はプラットフォーマーは自社で在庫を持たない身軽さ故に、ネットワークエフェクトが効き、大きく成長するという構造でした。今、時代が変わりそのような最初のネットワークエフェクトの波に乗れた大手IT企業が、資産偏重の投資をすることで、他社が追いつけないプラットフォームに進化しようとしています。

さて、このようにプラットフォームビジネスの変遷を学習した今、既存の岐路に立つプラットフォーマーや、既存産業からや全く新規で新たなプラットフォームを目指すプレイヤーはどのような戦いをしていくべきでしょうか?

いくつかの方法が考えられます。先ず、既に資産をもっている重厚長大産業からのデジタルトランスフォーメーション(DX)です。Amazonの物流投資、Googleの地図投資のような少資本の会社では太刀打ちできない仕組みを既に持っている既存産業のプレイヤーが、自らをテクノロジースタートアップ並にデジタルトランスフォーメーションする方法です。こちらはより強いリーダーシップとスピード、垂直統合に対する深い造詣が必要です。

次に岐路に立つプラットフォーマーが取るべき道は、社運をかけて資産偏重の投資に足を踏み込むか、使い続けられるニッチなインフラサービスを目指すかの二択になるでしょう。

ニッチなインフラサービスとはクレジットカード決済のStripe的な、ある特定されたサービスを担うテクノロジープラットフォームです。カード決済手数料だけを考えるとStripeは決して安くありません。しかしながら、その柔軟なAPIやサービスは多くのスタートアップのCTOに支持されています。そしてそれらのスタートアップがユニコーンになった後も、手数料の調整こそあれ、継続してStripeを使い続けています。究極的には他社と変わらないサービスなのですが、既に使っているサービスが便利で、変える必要がないからです。このStripe的プラットフォーム、即ち、ある特定の業務やサービス、プロダクトをデジタル化し、自社でやるよりもリーズナブルなコストで提供し続けることに、テクノロジープラットフォームの勝つ道があります。

ちなみに、楽天では設立当初からコスト/(パー)流通額という指標がありました。流通に対して、例えば5%の手数料を店舗さんから頂戴しているわけですので、そのシステムコストは必ず5%以下にならないと儲かりません。流通手数料からシステムコストを引いた残りから人件費や固定費を捻出する必要があるからです。実際には広告収入もあるので冒頭のTake rate 10%近い中での計算になりますが、考え方に違いは有りません。仮に「コスト/流通額」が1.5%(根拠ない推測値です)ならどうでしょうか。楽天が楽天の規模でやって1.5%です、オンラインショッピング初心者企業がやって絶対にそれ以下にはなりません。このシステム費が相対的に自社でやるより安い数字、バランスが取れる数字が、テクノロジープラットフォームが顧客に課金できる数字であり、その課金体系で、全体コストがペイできるリーンな仕組みを提供することが、テクノロジープラットフォームが成長するヒントです。

従前の産業構造のプレーヤー自身がDXを通して自社をテクノロジープラットフォーム化していくのか、既存のプラットフォームプレイヤーがそのデジタル資産を駆使して既存産業を飲み込んでいくのか、あるいは、ニッチなテクノロジーサービス企業が生まれるのか、2020年は正にその転換期です。この鬩ぎ合いで生まれる勝者こそがプラットフォーム2.0を名乗る資格があるプレイヤーとなるでしょう。その一つがブロックチェーンのインフラであってもいいのではないでしょうか。

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