3周回ってNFTで始まるコミュニティ

Okamoto Ken
BlockchainLock
Published in
Jan 5, 2023

新年明けましておめでとうございます。

年に一度しかブログを書かない筆不精ぶりに、自分でも恥ずかしい気持ちが大きい一方、一年を振り返り、この先の一年を見通すには最適な儀式であるとの思いが、帰省疲れの大衆を乗せた電車の中で本原稿の筆を走らせます。

過去のブロックチェーンロック社の歴史を振り返ると、1年目は「何も無かった」、2年目は「お金が無かった」、3年目は「半導体が無かった」、そして4年目、昨年は「時間が無かった」と総括できると思います。特に昨年は下期あたりから多くのWeb3系の受託開発のご発注を頂き、嬉しい反面、自分も含めた社員の多くの時間がそちらのプロジェクトに投入され、思うようにKEYVOXサービスに時間を割くことができませんでした。そういったた意味で、「時間が無かった」わけですが、一方で、Web3系のプロジェクトに多数絡ませていただいたのは、私が創業時に見えていた世界を、大手企業も見始めたということであり、その上で当社にご発注を頂けているのは、私達が目指して世の中に送り出してきたサービスが理に適っていたということをある意味で証明したことではないかと、自己分析をしています。

創業時には私にとってブロックチェーンとはビットコインであり、ビットコインは「誰もが自分の事しか考えていない世の中で、AさんからBさんに安全に価値の移転を実現させた」一大発明でした。それを現実世界に応用するならどうなるかという仮説から始まったブロックチェーンロック社の歴史は、スマートロックの開発から始まり、KEYVOXというブランドが生まれ、次第に鍵屋として認知されていくに至ります。

日々の事業ではブロックチェーンは一切登場しません。お客様に聞かれてもブロックチェーンは使っていないと答えてきました。それは事実で、IoTのスマートロックを動かすのにブロックチェーンは不要です。敢えて使うことはできるのですが、既存の技術でできることを複雑にしているだけです。

2021年にビットコインが最高値をつけた以降、度重なる暴落を繰り広げ、2022年年末にはドル建てでピーク時の3分の1、円建てだと円安分もあいまって、4分の1近くまで下げています。幻滅機に入ったブロックチェーン技術の中でも2022年に気を吐いたのがNFT(非代替性トークン)でした。最初はリアルアートのようなコレクティブル(収集可能)なアイテムが人気を集めました。ジャスティン・ビーバーが1.5億円のNFTを買ったというニュースを覚えていらっしゃる方も多いと思います。実はこれらび取引は本当に本人が買ったのかという疑問が呈されています。本件に関わらず、高く売り抜けたいNFTプロジェクトが著名人にお金を渡して買ってもらうという、ウォッシュトレード的な手法がまかり通っているのではないかという噂も絶えません。

このあたりは長い歴史のなかで規制されてきた金融商品と比較すると、残念ながらNFT界隈では稚拙な金融詐欺手法がまかり通っています。その最たる事例が年末に起こったFTXの倒産です。詳細はウェブを検索していただければと思いますが、FTXのサムCEOがとった手法は、ないものをあると言う、典型的な金融詐欺です。一方で、罰せられるべきなのはサム本人でありブロックチェーンの信頼性が揺らいだわけではないともいえます。とはいえ、その典型的な金融詐欺を行うことができる産業基盤、規制のぬるさがこの事件の温床となったともいえます。イノベーションは規制との戦いではありますが、このようなことをやっていては、当然暗号資産は信用されませんし、規制が暗号資産普及の敵だというのも的外れです。

NFTだけに焦点を当てると、OpenSeaの取引額で2022年1月に4.8B USDをつけて以来、取引額は下落の一方、2022年12月で283M USDと20分の1にまで落ち込みました。一方で取引件数は、220万件から98万件に半数になってはいるものの、落ち込み割合は取引額の10分の1ですので、小額の取引は引き続き堅調に維持し、NFTの普及が進んでいると見受けられます。(参照:https://dune.com/rchen8/opensea)

実際のユースケースとしては、昨年年初のコレクティブル(収集家が収集する対象)から、ユーティリティ(持っていれば何かができる)に移りつつあると考えられます。ブロックチェーンロックとして探求してきたNFTのユースケースも、「NFTを持っていたら解錠できるロック」ですので、まさしく時代が追いついた感じです。

一方で懸念すべきがApple社のWeb3への強硬な姿勢です。

https://developer.apple.com/news/?id=xk8d7p8c)Apple社の最新の開発者ガイドラインによると下記の事項が規定されています。

  1. NFTの売買はApple課金30%対象
  2. NFTホルダーに対する機能のアンロック機能は禁止
  3. アプリからのウォレットコネクトも禁止

これだけを読むと、私達が期待している「NFTを持っていたら解錠できるロック」も2番に該当しそうですが、果たしてリアルな鍵を開けることがその規定に含まれるのかは、実際に審査に行ってから初めて分かることになりそうです。

このような逆風はありますが、そもそもブロックチェーンロック社の歴史を振り返ってみれば、ICO禁止、仮想通貨販売禁止、無許可民泊禁止と、規制の地雷を踏み続けて来ました。その経験から、規制に従いその環境下で、「ビジネスとして成り立つ方法を考える力」をつけてきたブロックチェーンロック社は、2023年も実証実験で話題性を集めるのではなく、事業として地に足をつけたビジネス展開をしていきます。

NFT関連の事業としては、先ずはNFTを持つ人を増やさないと始まらないと考えます。これもマーケットプレイス理論で、売り方か買い方かどちらを先に誘致するかといえば、売り方が定石ですので、ブロックチェーンロック社としては、私達のお客様、すなわち施設のオーナー様が簡単にNFTを発行できる基盤を用意していきます。ここでは仮にNEYVOX NFTと名付けましょうか。

KEYVOX NFTが開く未来

KEYVOX NFTが実現するとできるようになることをユーザージャーニー別に見てみましょう。

1.施設がNFTを発行する

分かりやすい事例でいきますと、施設はNFT技術を使ったカギや宿泊権利、利用権利を施設管理画面から簡単に発行できるようになります。

NFTの発行自体はさして難しい技術を使っていませんので簡単に発行できます。一方で、暗号通貨にてガス代を支払う等会計上も面倒な手続きが必要となりますが、そのあたりをできるだけスムーズに提供することで参入のハードルは下がるでしょう。

2.発行したNFTをマーケットプレイスで販売する

NFTを発行してOpenSeaで売るのは簡単です。OpenSeaに自身のコレクションを作り掲載するだけで販売可能です。それはそれでいいし、安心感もあります。あるいは自社のホームページにコーナーを儲けてその場で販売しても良いでしょう。後者の方がそのNFTは何でどういった特典があるのかを、詳しく説明できるのでなお良いでしょう。軌道に乗れば自社ミントサイトを作るのも、NFTでできることの可能性を広めるという意味でよい選択肢です。

3.ゲストがNFTを購入する

施設を訪問する前でもいいですし、訪問後現地で購入してもいいでしょう。いずれにせよ施設と関連するゲストに、NFTを買っていただく事が一番親和性が高いはずです。購入したゲストは「所有を証明」することで、特典をGETできます。それは、NFTホルダーだけが購入できる特別な商品やプランかもしれませんし、アクセスできるVIPルームかもしれません。あるいは将来の予約権をお土産として売っても面白いかもしれません。

4.NFTを利用する

上記の特典に応じて、実際にNFTを行使します。ここでいう行使とは「NFTを持っていることを証明する」ことです。NFTを持っているウォレットで署名をすることで、NFTの所有を証明し、特典にアクセスします。

5.無料でNFTを追加入手する

さあ、ここからが面白くなってきます。一旦NFTを入手すると、利用するまでは通常商品の予約や購入と同じで、それを複雑にしただけです。しかし一番のNFTの特徴は、利用後の楽しみが増えるということです。つまり、施設側から見ると自社が発行したNFTを持っている人のリストを入手することが可能になります。リストを持っていることで、その人たちに新しいNFTを無料配布することができます。例えば、あるキャラクターのIPを持っている施設の場合は、そのキャラクターのNFTを無料で送付するだけで、ゲストは大いに喜ぶことが想像できます。それはメールアドレスを持っていること以上のインパクトに思えませんか?

6.二次流通させる

たまたま入手したNFTを当面使う予定がない場合は、それを売ってしまいましょう。ゲストは販売することで権利を金銭的現在価値に交換できます。施設にとれば、新しい潜在顧客が増えたことになり喜ばしいことです。また、二次流通に対するロイヤリティを設定しておけば永遠に二次流通の手数料が稼げます。売るのがもったいなければ、NFTをレンタルしてはどうでしょうか?部屋の賃貸のように簡単にNFTを一定期間レンタルに供すことができるのもNFTの特徴です。もちろんNFTホルダーは貸出期間中レンタル料を得ることができます。これらはブロックチェーンのプロトコルで制御されるので安全です。

さてここまで読んでいかがでしょうか?ピンと来たでしょうか?いろいろなお客様、オーナー様とお話をさせていただいている感覚からすると、ここまでで興味はもつが今ひとつ自社に当てはまるか分からないという方が多い気がします。私個人的にも上記を実現するのに新しいテクノロジーを試す必然性も低い気がします。そもそも日本円で買えないものを売るのは大変です。

そのようなオーナー様も下記の話をすると納得して「面白そうだね」と言っていただけることが多いです。

7.コミュニティを運営する

イギリスの著名アーティスト、ダミアン・ハーストさんが面白い実験をしました。自身の作ったアート1万点の所有権を販売。購入者は半年以内にアートの現物を保有するか、NFTを保有するか決めなければいけません。

実験の結果はなんと、「48%の購入者」がNFTで保有することを選びました。これ自体が驚くべき社会実験で、数字ですが、何よりもNFTの可能性を感じさせたのが、実験後にNFTを選択した購入者の多くが発言した、「NFTホルダーのコミュニティで人との出会いが楽しい。」「新しいコミュニティを生み出したNFTは素晴らしい。」といった感想です。

考えてみると不思議なことですが、たしかにリアルのアートもコレクティブル(収集可能)な商品ですが、なかなかそのアーティストが好きなアート購入者同士の横の接点は生まれません。ところがNFTはそもそもがデジタルの商品のため、コミュニティを作るのも簡単で、ホルダーだけが入れるコミュニティを簡単に作れます。結果、何故自分はそのNFTを買ったのか、どこが素晴らしいと思うのかを共有する場が提供されます。そして購入者たちは対象アーティストのアンバサダーとなり、コミュニティを更に広げるために自走してくれます。

もちろんそれは、Twitterにハッシュタグや作家メンションで繋がるのとそう遠くはありません。しかしながら、NFTをもっている人だけが入れる特別感が、そのコミュニティへの「Sense of ownership(オーナーとしての感覚)」を高めているのは間違いないでしょう。

スターバックスはオフィスと自宅に変わるサードプレイスとしてリアルの場所を提供してきました。そのスターバックスが2023年にNFT参入で目指すのは、リアルな場所以外のもう一つのデジタル上のサードプレイスを作ることです。

いかがでしょうか?ここまでお読み頂き、もしかして自社でやると面白いとお思い頂けましたでしょうか?少しでも興味をお持ちでしたら是非DM等(Twitter: @bcl_ken)でお知らせください。

ブロックチェーンは個と個をつなぐメッシュの力です。ビットコインの登場が 1周目、ICOが2周目、NFTの登場が3周目。大手企業や政府がこぞって「Web3」と騒ぎ出したのがこの3周目です。その入口が、ブロックチェーンが元来得意としてきた「安全な権利の移転」の象徴であるNFTというのは、ある種の歴史の必然かもしれません。

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