Takeshi Inoue
blogescala
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8 min readMar 17, 2019

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まだまだ出口の見えないベネズエラですが、チリのアジェンデ大統領の政権の末期、彼の報道・文化アドバイザーとして働いた作家のアリエル・ドルフマンがアジェンデならマドゥーロにこう言うだろうという一文を新聞に投稿ものを訳しました。出典はPágina 12

ニコラス・マドゥーロはしばしば、1973年チリのサンティアゴで、アメリカ合衆国によって後押しされたクーデターによって死亡したサルバドール・アジェンデという傑出した人物を引き合いに出している。そのチリの社会主義者大統領と最後の数ヶ月を政府で共に仕事をしたものとして、アジェンデがベネズエラのこの反抗的な同僚に死の向こう側から送るなら、こんな助言であろうと思う。

ニコラス・マドゥーロ大統領

あなたは、ピノチェト将軍が私の国の民主主義を一掃し、17年にも及ぶ長い独裁政権が確立してその後に血と、痛みと不公正を残した時に私に起こったように打倒されることはないと宣言している。

あなたがあなたの置かれた状況と私の場合との類似を強調したいのは理解できます。私たちの間には、居心地が悪く当惑してしまいそうな違いがあるにもかかわらず、警戒すべき相似点もまた存在します。今日のベネズエラのように、1973年の革命下チリも、抗争する二つの党派に無残にも引き裂かれていました。私たちが少数者の利益に代わり、祖国の市民の大部分の裨益になるような社会を作ろうとするのを受け入れない社会の最も裕福な層に促されて、議会の主導者たちが、扇動するように軍が合憲的政府に介入するように訴えていました。

平和的な方法で社会主義にたどり着いたチリの実験は、現在のベネズエラを苦しめる人道的惨事とは比べるべきものではありませんが、想像を絶する経済的問題を被り包囲されていました。ニクソンやキッシンジャー、それにヤンキーの多国籍企業が1973年のチリで企んだように、トランプ、ペンス、ポンペオと石油の業界団体たちは反ベネズエラのキャンペーンを盛りあげようとしています。世界中の国々の内政問題に絶えず行われるワシントンの数えきれない介入の、またしても傲慢な繰り返しであります。実際、トランプは、ずうずうしくも軍事クーデターを求め、もしやらなかったら「すべてを失うぞ」とベネズエラの軍人を脅しながら、ニクソンすら超えようとしています(こんなことが可能であるなど誰が考えたでしょうか?)。

1973年のチリと2019年のベネズエラのこうした類似点にもかかわらず、私はあなたが、私が革命に自らを投じようとした時の動機を傷つけていると感じています。私は生涯を通して民主主義の熱烈な守護者でありました。私の政府は、決して集会や報道の権利を制限したりしませんでしたし、もちろん反対派を収監したりはしませんでした。CIAの何百万ドルものお金で支援されたやつらが、テロによる襲撃をしたり、途方もないまでにこの自由を侵害することはありましたが。そして、私の任期のすべての選挙には、私が勝っていようがいまいがその結果を受け入れました。もう一つの相違点:あなたはロシアと中国の多大な援助に頼っています。私が当時のソビエト連邦に助けを求めた時に彼らは私には1ペソも貸してくれようとはしませんでした(おそらく、1956年のハンガリーと1968年のチェコスロバキアに対するソビエトの侵攻を私が避難したことに対する報復であったでしょう)。中国に関しては、ピノチェトの政権との外交関係を破棄することを毛沢東が拒否するまで、私たちの自由の革命に関してずっと慎重な態度を取っていました。

あなたたちの危機は複雑になっているように見えます。あなたが、外国の勢力によって資金が渡り整えられた軍隊の反乱に脅かされているにせよ、同時に、ひじょうに権威的な風潮を広めており、それには私はまったく同意することはできません。ベネズエラへの外国の干渉を拒否することはもっともなことであり、軍隊が合憲的な政府に反乱を起こすことに対する忌まわしい帰結を訴えることももっともなことです。しかしながら、その抑圧的なやり方で、あなたが護っているという民主主義を弱めているのは誤っており、市民をその愛国心や議論の余地のない人権への愛の廉で迫害しているのは誤っています。政府の汚職や能力のなさが心配になるくらいのレベルになっているように見えるのに誰もが不信感を持ってもおかしくはないでしょう。私はまた次のことを付け加えないといけないでしょう。ピノチェトのもとで大量に亡命しなければならなかった私の同胞たち、生まれ故郷からまるで追い出されるように感じている市民たちの巨大な集団を見るのはどれほど辛かったか。

あなたが宣言しているように、私はあなたに取って英雄であり手本であるなら、私にベネズエラを内戦からいかに救ったらいいか、またあなたの国で不利益を被っていた層に恩恵を与えて来たボリバル改革のある点を守るにはどうしたらいいかについて少し助言を与えるのをお許しください。今、苦しみの民衆の名の下にあなたの政府に対して騒動を煽る者たちの多くは、かつては悪化する状況にもわずかな心配しか示していなかった。そして、実際、苦しみのとは、ベネズエラ人の最も見捨てられていた人たちだったのです。

チリが、私を失脚させようとして万全の用意をした反対派によって麻痺状態にあったとき、1973年9月11日、私は祖国の未来は国民が決めればいいと国民投票の実施を発表する決断をしました。もし私が破れたなら、大統領を辞任し新たな選挙が行われるはずでした。私の意図を知ったクーデター主導者たちは、驚き、民主主義を守りたいと言っていることからは程遠く、彼らはそれを破壊する欲望をあらわにしながら、暴動の日を早めることにしたのです。

あなたが、私が45年前にチリで試みようとしていたように民主主義と同様国の主権が保たれていたかどうかを訊く国民投票を実施する用意があるかどうかはわかりません。

こうした解決法は、ベネズエラ国民への苦痛と流血を避けることができるだけでなく、ラテンアメリカの他の国にも有益な効果を与えるでしょう。実際のところ、あなたの国を苦しめている問題の多くは私たちがそうであったように、あなたがたの経済をボイコットしサボタージュしているアメリカによるものであることが事実はあっても、あなたの悪い政府がこの大陸の進歩的な勢力にダメージを与えることに議論の余地はないでしょう。そこであなたは子供を怖がらせる怖いおじさんのように表されているのです。コロンビアやアルゼンチン、ブラジル、チリなど多くの右派の動きは、その国をもう一つのベネズエラを作ることから救い出すことができるただ一つの道であると思わせることに成功しました。チリでは、そのような恐怖キャンペーンによって、ピノチェト支持派を出所とする右派が、中道左派はこの国を「チレズエラ」にしようと企む独裁にしようとしていると訴える馬鹿げた結果にまでなったのです。トランプまでもが、ただ自分だけが、マドゥーロの「社会主義」にこの国が陥るのを防ぐことができると、馬鹿にして意地悪く言っているくらいです。

こうした策略が、「私たちアメリカ」がまだ必要としつづけている深い変化のために闘っている者たちを悪魔のように見せかける保守派と超国家主義的ポピュリズムのブームに資しているのです。

交渉ごとにおいて、そして私の対抗者の権利を認める革命における私の信念が私の死をまた「チリの社会主義への道」の崩壊へと導く結果になったのは私には驚くに値しません。私が何十年も経った後の今、まだなお挑戦的な回答をするとすれば、私の人生を民主主義と平和的な革命のために犠牲にした私の決断は社会の自由と公正を切望した国民に忠実で明確な手本でしょうと。

あなたが、私の言葉をよく考え、同じ兄弟での戦争を防ぐことによって、この危機からの出口はあることを知って、尊厳と慎みがあり、貧困と抑圧と数々の嘘から自由であることを求めるわれわれの大地の男たちや女たちの闘いを進めていくことをを願っています。これらは私がこの世を去るときに私が話したことです。

死と歴史の向こう側よりあなたに挨拶を送ります。

サルバドール・アジェンデ

*アリエル・ドルフマン 『死と乙女と陽気な小説』の著者、1973年サルバドール・アジェンデの政府の書記長の報道・文化アドバイザーだった。

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Takeshi Inoue
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障害者自立生活センター勤務。障害者の世界と健常者の世界、スペイン語の世界と日本語の世界の仲介者。現在コスタリカの自立生活センターで働いています。 Un japonés que trabaja en el centro de vida independiente MORPHO en Costa Rica.