不動産管理業務SaaSが語る、PoC成功の秘訣|Onlab Resi-Tech| 管理ロイド(後編)

Momoe Ariyama
Apr 15, 2020 · 13 min read

2020年で10周年を迎えるシードアクセラレータープログラム「Open Network Lab(Onlab)」。その姉妹プログラムで2018年からスタートしたのが、生活者を起点とした住宅・暮らしの豊かな未来を描くプログラム「Onlab Resi-Tech」です。

Onlab Resi-Tech第1期でコーポレート部門最優秀賞を飾ったのは、不動産管理サービス「管理ロイド」を運営する株式会社THIRD。Onlab Resi-Tech第2回を迎えるにあたって、THIRD代表取締役の井上さんと、Onlab Res-Tech担当の木暮が、第1期を振り返る対談を行いました。

今回の後編ではプログラムでのPoC(コンセプト検証のための実証実験)の具体的な内容や参加した感想、事業成長への影響等について2人が語ります。(前編はこちらから

PoC中のトラブルが、結果的に精度向上へ

Onlab Resi-Techへの参加が決まると3ヶ月間のプログラム期間に入ります。実施したPoCの内容はどのようなものでしたか?

木暮(Onlab Resi-Tech):THIRD社が既にローンチしている不動産の設備管理業務を効率化する「管理ロイド」を試してもらいました。パートナー企業であるデベロッパー各社の物件で管理ロイドを使って実際に点検業務を実施。協力してくれたデベロッパー全社からフィードバックをもらいました。

PoCの結果はいかがでしたか?

井上(THIRD):概ねPoCは問題なく進んだんですが、あるデベロッパーの物件に使用されているメーターが読み取れないという、プロダクト上のトラブルが発生しました。「これでは現場で使えない」となり、約4ヶ月でAIモデルの一部をほぼゼロから作り直したんです。

修正ではなく作り直しですか! それは大変な作業でしたね……。

井上(THIRD):でも作り直したAIで再点検したら、精度が格段に跳ね上がったんです。もし顧客と契約後にこういったトラブルがあったら大変なので、この段階で精度を向上できてよかったです。

この不具合があったパートナー企業は、問題のメーター画像を大量に提供してくださる等、親身に対応いただき、現在でも協力関係が続いています。「雨降って地固まる」というように、PoCが終わったあとも継続した関係性が築けているのは嬉しいですね。

Onlabの木暮さんはプログラム開始から終了までTHIRDとパートナー企業との間に立ち、様々な調整をしてきたと思います。その中で予想外だった出来事はありましたか?

木暮(Onlab Resi-Tech):一番予想外だったのは、やはりメーターが読めなかった件です。作り直しが決まったときはどうなることかと思いましたが、THIRDがとても頑張ったことと、パートナー企業側に協力的な姿勢があったことで成功に辿り着けました。

木暮(Onlab Resi-Tech):他に印象的だったのは、パートナー企業によってモチベーションが異なっていたことですね。現場の効率化が目的の企業もあれば、会社全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を考えている企業等、目的の差が見られました。スタートアップ一社と複数の大企業とでのPoCでは様々な発見があり、フィードバック内容も多岐に渡って面白かったです。

PoCは用意されるものではない。自分からリードする姿勢が功を奏す

THIIRDはPoCに取り組む上で意識していたことはありますか?

井上(THIRD):自らがPoCをリードする姿勢です。もちろんOnlabがPoC全体をマネジメントしてくれたのですが、とはいえPoCの内容自体は運営側に用意してもらうものではないので、自分から内容を提案してプロジェクト管理しながら進行しました。

このPoCをきっかけに契約したパートナー企業もいたと伺いました。その決め手は何だと思いますか?

井上(THIRD):不動産は物件ごとに差異があるのはもちろん、デベロッパーのカラーや、得意とするアセットクラス等の違いがあります。その点THIRDは点検項目や管理事項等すべてをデベロッパーや物件ごとにカスタマイズして対応しました。そのため最終報告書の内容もパートナーごとに全て異なります。このようなきめ細かな対応がよかったのかと思います。

また各現場に入ったとき、管理ロイドの検証だけでなく、デベロッパーの業務課題に関するコンサルティングと業務量調査も実施したんです。その結果、今までの業務内容と管理ロイド使用後の業務量の差が明確になりました。

木暮(Onlab Resi-Tech):元々業務の効率化に課題意識があったデベロッパーは、他社のプロダクトも試したものの上手くいかず、フラストレーションが溜まっていたそうです。そこに管理ロイドがしっかり刺さった感じはありましたね。

検証内容に留まらず、柔軟な対応をしたことも良かったんですね。

井上(THIRD):PoCでは元々決めていた検証内容はありますが、その期待値を超えていくことで継続が決まった部分もあると思います。私は実証実験のテーマにあまりこだわらず、実証実験に協力してくれたパートナー企業に対してどんな利益を出せるか、この会社がどうやったらよりよくなるのか、という視点で取り組んでいました。最終的には管理ロイドで価値創出のお手伝いをできたのはありがたかったです。

PoCは形式的になりやすいですが、最終的にはベンチャーのテクノロジーと業界の課題を解決できるか? という検証を実施する事が目的なはずです。THIRDが大切している理念の一つに「経営改革の変数は現場にしか落ちていない」というものがあります。これに従ってTHIRDではとにかく現場に行くことを重視しました。全ての物件で点検内容を事前確認したり現場の方にヒアリングしたりし、現場導入する際も全ての現場に行き管理ロイドの使い方をチェック。こういった姿勢は不動産業界でとても大事だと思います。

木暮(Onlab Resi-Tech):不動産業界は何かと古い部分も多いので、現場に行ってきちんとレクチャーするのはとても大切ですね。

パートナー企業との事前摺合せで本質的な課題を掴むのが鍵

PoCを振り返って、さらに改善できたポイントややり残したこと等はありますか?

井上(THIRD):PoCを実施するにあたり、相当なマンパワーと時間を投資しました。事務局とパートナー企業とTHIRDでもう少しお互いに協力体制を敷いて段取りを組んだり、PoCの内部コストを事前算出しておいたりしても良かったかなと。

とは言えそれに見合う成果は十分返ってきていますし、全力で相手にぶつかっていく姿勢も評価してもらえたと感じています。

運営側から見て、THIRDのPoCはどう映っていましたか?

木暮(Onlab Resi-Tech):THIRDが他の参加企業と違った点は、デベロッパーの体質や業界の多重構造等も全て理解しているので、その点をアドバイスする必要がなかったことですね。

おそらくTHIRDが求めていたのは「パートナー企業の誰に話せばいいのか」、つまり誰がキーパーソンなのかということなので、Onlabはそこをフォローしました。スタートアップが企業内の部署をたらい回しにされる話はよく聞くので、その回避には貢献できたかなと思います。

参加スタートアップの立場から見て、Onlab Resi-Techプログラムの改善点は何だと思いますか?

井上(THIRD):パートナー企業の課題感は各社違うので、その部分を最初にディスカッションできると良かったです。不動産業界はある程度プロダクトの柔軟性が必要なブラックボックスの業界なので、ニーズを深く掘り下げられる方がより良い結果になると思います。

木暮(Onlab Resi-Tech):そこはOnlabの立場としても難しかった部分です。パートナー企業からは参加企業に対する課題感を聞かれるんですが、参加企業は進むべき路線がまだ限定されていたり、VCに言われているベクトルとパートナー企業からの提案がずれていたりして、その調整が悩みどころでした。

井上(THIRD):何が本質的な課題なのかを噛み砕けると、プログラムとして更に良くなりますよね。

木暮(Onlab Resi-Tech):そう思います。違うPoCでデベロッパーの課題感とずれていて、今は求められていないというケースもあったので、次回はその辺りをOnlabが調整できればと思っています。

PoCが終わった後の流れについて教えてください。

木暮(Onlab Resi-Tech):3ヶ月間のプログラム終了後にはDemoDayがあり、その先にはOnlab Resi-Tech全体報告会を1回設けています。(編注:2020年3月末に実施予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で延期となっています)。

プログラム自体は3カ月なのですが、PoCは長いものだと1年以上かかります。長期化すると参加企業だけでなくパートナー企業の負担も増えてしまうので、プログラムの短期化は解決すべき課題ですね。

またOnlab Resi-Techはスタートアップだけでなく、パートナー企業への価値提供も不可欠です。PoCを組成するだけでも感謝されますが、例えばTHIRDのように、「複数社でPoCを実施すれことによって、自社だけでなく他社からのフィードバックも使って、よりよいPoCになるのも魅力」との声を頂いています。自社の殻を破って次の一手を生み出せるのも、Onlab Resi-Techのバリューだと思います。

大手デベロッパーの期待値を超えられるか。真剣に向き合う程収穫も大きく

今後次のバッチが始まっていきますが、THIRDがOnlab Resi-Techだからこそ経験できたことを教えてください。

井上(THIRD):不動産業界は予想以上に傍から見て分かりにくい業界。だからその業務全体を知るために参加し、自分たちのプロダクトがフィットするかPoCを通して検証することはお勧めです。ただ業界課題を深く理解する姿勢や気合いは必要だと思います。

普段なかなか話せない大手デベロッパー各社に全力でぶつかり、期待値を超えるアウトプットを出せば、プロダクトを認めていただけると分かったことも収穫です。競合するデベロッパー各社が一堂に会してディスカッションする光景も貴重でした。

またOnlab Resi-TechはOnlabという歴史あるアクセラレータ-プログラムが源流にあります。プログラム外でのコミュニティイベントに呼んでいただき、錚々たる先輩たちのいるネットワークに入れたことも大きな魅力だと感じました。

最後に参加検討中のスタートアップへメッセージをお願いします。

井上(THIRD):日々忙しい中でOnlab Resi-Techに割ける時間は限られるかもしれませんが、真剣に向き合うことで評価してもらえる環境は整っていると思います。だからこそ軽い気持ちで参加するのではなく、3〜6ヵ月間程しっかり通しで取り組めるような準備をしておくのが大事です。

Onlabのブランド力もあり、Onlab Resi-Techを契機に、THIRDは様々なメディアに出させてもらって、新規問い合わせにも繋がりました。不動産に特化したアクセラレーションプログラムはあまりないと思うので、不動産関連のスタートアップは特にチャンスだと思います。

スタートアップと大企業との垣根を越える部分ではOnlabが間に入ってくれるので、スタートアップが全力を尽くせる環境がこのOnlab Resi-Techにはあると思います。ぜひチャレンジしてみてください。

本日はありがとうございました!

Onlab Resi-Techの詳細はこちらから

Onlab ResiTechの第2期募集は、6月11日(木)締切となっております。不動産業界にいるスタートアップはもちろん、不動産業界に挑戦したい方は、ぜひご応募お待ちしております。

Onlab Resi-Techの詳細はこちらから

株式会社THIRD 代表取締役社長 井上 惇

外資系ITベンダー(DBエンジニア)、外資系投資銀行(金融商品設計・マーケティング)、外資系証券会社(創業メンバー)、企業再生/経営コンサルティングファーム(不動産コンサルティングチームリーダー)を経て、2017年夏に株式会社THIRDに参画、代表取締役社長に就任。

株式会社デジタルガレージ オープンネットワークラボ推進部マネージャー Resi-Tech担当 木暮 祐介

1983年生まれ。大学時代は、建築を専攻。その後、デジタルガレージ グループに入社。通信会社のプロモーションの企画立案、提案から運用に携わる。その後、不動産企業のコンサル、ブランディングから業務から広告プロモーションの企画、提案から実施までを担当。2018年よりOpenNetworkLab推進部に参画。大手デベロッパーとの暮らし・不動産領域におけるスタートアップの発掘・支援を目的とするOnlab Resi-Techを担担当。主に全体管理、PoCのPM業務を中心に担当。

(執筆: 金指 歩・写真: taisho・編集: pilot boat、Onlab事務局)

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