【完全版】D2Cビジネス事例集から学ぶ 成功の秘訣とは Part1
本記事は著者の許可を得て、CB InsightsのDirect to Consumer Strategies記事および個人リサーチ(Tetsuro Miyatake and @mikirepo)によって書きました。
そもそもD2Cって?
Direct-to-Consumer(D2C)とは消費者直結型の販売モデル。
多くの成功しているD2C企業は自社で企画、製造、ブランディングなどを実施している。
“EC化により人気商品だけの商売方法が変わる”
2004年にWired編集者Chris Anderson氏はそう提唱した。EC化によって棚スペースという概念が消え、何を店舗に在庫として持っておくかを判断する必要がなくなった結果、トレンド・人気度で商品を置かなくて良くなった。
ECサイトでは通常のオフラインの小売店に置いていないニッチな商品群を大量にEC上に載せることによって、オフラインの店舗より売上が上がるのではないかと仮説を立てた。実際に、アマゾン・楽天・アリババなどを見るとこのロングテール戦略が成功して、主流になっている。
1. Allbirds(オールバーズ)
ブランドがないというブランド
ナイキ創業者フィル・ナイト氏は、オニツカタイガーを日本から輸入し、陸上部の大学生に売っていたという過去があるのはご存知だろうか。当時、ナイト氏はアメリカにあるどのランニングシューズがオニツカタイガーの靴よりもクオリティが低いと実感し、ナイキを創業。その後、ランニングだけではなくバラエティ豊富な種類の靴を製作するようになった。
Allbirdsはナイキとは対照的に1つの靴だけしか売っていない。
「起業・Allbirdsを始めるきっかけはブランドで飾られていない、シンプルなスニーカーを作れるか?という問いでした。当時は見つけられませんでした。」
Allbirdsは靴のバリエーションやブランドではなく、靴のデザインおよびノンブランディングを基盤としたブランドを立ち上げた。プロダクトの目玉となるのはシンプルで、靴の形、見た目、感触。そのコンセプトおよびプロダクトの質によって2017年9月に$17.5MのSeries Bラウンドを実施した。2017年で約50億円の売上が立つと言われている。
2. Casper(キャスパー)
選択肢を消し、ユーザーの混乱をなくす
Casperは2014年に創業された。当時、5人の共同創業者はマットレス市場について同じ課題を感じ、それはマットレスの買うユーザー体験がひどいことだった。営業マンは強引で、値段が高し、オプションが多すぎて混乱してしまう。そこで、彼らは全く違うマットレス会社を作ろうと目標を立る。その目標とは、
・ベッドのモデルは一つだけ
・手頃な価格
・家に直接配達する
2年弱で、Casperは約100億円の売上達成。
Casperの初期のコンセプトはきわめてシンプル。最高のマットレスを一つだけ提供していることによって、他の選択肢をなくすこと。
1つだけのマットレスに絞り込みをするには従来の概念を変えなければならなかった。そのうちのひとつが「寝る姿勢」。従来では仰向け、うつ伏せ、横向きという三つの寝方があると言われていたが、Casper共同創業者COOのNeil Parikh氏が様々な人の寝る姿を研究した中では、ほとんどの人が複数の姿勢を示していたことが分かった。
つまり、今までのマットレス企業は存在しない課題に対して様々な商品を売っていた。一つのプロダクトが大体の人にワークしていた。
「選択」とはユーザーにとって自分にあったプロダクトを探せる要因だと思っているが、Casperでは意味ない選択を無くすことがユーザーにベネフィットを与えていると考えている。
2014年にNew York Timesではマットレスの購入プロセス・判断基準の記事を投稿した。マットレスを買う大変さが「選択肢の多さ」と書いていた。さらに、同じマットレスなのに小売店によって違うネーミングをしていることがわかった。
「マットレスメーカーは各小売店と別々の契約をしているので、どのマットレスがどこに売っているかがわかりにくい。Costcoで気に入ったマットレスがSleepy’sで売っているかがわからない。売っていたとしても、違う名前かもしれない。」
反対にCasperは複数タイプのマットレスは必要ないと主張した。実際にマットレス生地の調査を行い、ユーザーは2種類の素材を好んでいて、その2つを合わせたマットレスを作れば大体の顧客が満足するとわかった。
1つのマットレスに絞った戦略が成功し、Casperはリリースした初月に$1M(約1億円)の売上を出し、最初の2年間で$100Mの売上を叩き出す。
マットレス企業ではなく最先端の睡眠スタートアップだ
アメリカのマットレス市場は約1.5兆円と言われている。これだけの市場があるのに、購入の体験が課題とされ、そのせいでマットレス企業は悪い評判を受けていた。
“Casperはマットレス市場に入り込めたのはマットレス企業として名前を出さなかったから。”
会社設立時に、Casperの創業陣は「睡眠を中心としたデジタルファーストブランド」としてスタートした。マットレスにフォーカスしてないところがポイントだ。
そのブランド構築するために、アメリカのトレンドが生み出されるNYとLAにフォーカス。Casper本社はニューヨークに設置し、ニューヨーク地下鉄に広告を配信する際には都会っぽくイケてるデザインを意識している。
CasperはインスタグラムやツイッターにてインフルエンサーのPRも活発だ。LAにサテライトオフィスを立ち上げたのもインフルエンサーマーケティングのためだった。有名ファッションモデルが購入したCasperのマットレスを彼女が投稿した写真が80万以上の「いいね!」を獲得。
インスタグラムやツイッターではこのようなインフルエンサーからのリツイート数・いいね数が多い写真・GIF・動画の投稿が見られる。多くのコンテンツはCasperが入っているマットレスの箱と一緒に座って笑顔になっている姿だ。
このNYとLAにフォーカスした戦略は大手マットレス企業とは大幅に異なる。Serta、Tempur-Pedic、Sealyは2016年のマットレス市場の半分以上のシェアを持っており、Sertaはイリノイ州、Tempur-Pedicはケンタッキー州、Sealyはノースカロライナ州に本社を置いている。
Casperの初期成長で大きく貢献したのは、面白くないものをカッコよくしたからだと思われる。マットレスの生地を越え「睡眠」に対してのブランド・カルチャーを立ち上げた。そのカルチャーを作るために海岸よりに会社を動かしてカルチャーを作っている人たちの力を借りた。
誰も実現できなかった運びやすさと返品無料
Casper創業時に共同創業者COOのParikh氏がChief Creative OfficerのLuke Sherwin氏にこのような質問をした。
”小さい冷蔵庫サイズの箱にマットレスを入れられる?”
この質問がCasperの未来を大きく変えることとなる。マンハッタンの4階アパートに住んでいたCasperの創業チームがどうベッド・マットレスを部屋まで持ち運ぶか悩んでいた。
Freakonomics Radioによるとアメリカには9,200マットレス店舗がある。その理由は、代理店を挟むことにより過剰在庫を保有しなくていいこと、そして持ち運びが難しいことが主な理由だった。
しかし、店舗が多すぎるのが現状だ。このように1.5兆円の市場は何万店舗の小売店、製造会社、代理店がいる。Casperが「bed-in-a-box」を始めた瞬間に全てのプレイヤーが危機感を感じた。
Casperが解決していた最大の課題は無駄が多く、非効率なロジ周りだった。数千店舗および数万人の営業マンが必要となっていたものを、UPSの配送で解決した。ベッドを小さい箱に入れられたら店舗が必要なくなる。
Casperは配達サービスのPostmatesやStuartとホワイトレーベル提携をしてロジ周りをより活性化している。Parikh氏はこう言った。
”ピザより早くCasperを届けることができるよ”
それと同時に、Casperが信頼された大きな理由は返品無料だ。マットレス企業にとって返品は常に課題で、普通は返品を受け入れていない。
従来のマットレス企業とは対照的に、Casperでは100日以内にマットレスが気に入らなければCasperがマットレスをピックアップしてくれる。これは他社との差別化ポイントであり、そしてギャンブルでもある。
返却はどの企業も嫌い、ベッドのコンディションがわかりにくく、家具カテゴリーの中では最も減価償却するものだ。
Casperのようなスタートアップが返品無料を提供することによって、ユーザーは購入のハードルを下げることができた。Casperは返品コスト以上にプロダクトのクオリティを信じてリスクをとったのだ。
Casperが生み出した「bed-in-a-box」のコンセプトはCasperがより配送コストの削減や配送を簡単にしただけではなく、返品無料によって不安なくユーザーが注文できるユーザー体験を確立したのだ。
Casper流 大手にSEOで勝つ方法
SEOでグーグルのランキングでトップになれば認知度も上がると同時に競合に勝てるチャンスが出てくる。ただ、大手企業はすでにかなりのプレゼンスがあるためSEOでは勝てないケースもある。特にマットレス業界ではグーグル検索でどの企業がトップになるかお金を張っている。
Casperは検索単語別のLPを制作してAdwordsを上手く活用して毎月55万以上のマットレス検索の中のシェアをとっている。検索結果でトップに出すぎて競合からは違法ではないかとクレームが流れている。
試しに、CasperのSEOの強さを見るためにAhrefのURL rating(UR)をみてみよう。(グーグルのページランキングと同様のもので、一つのサイトがどれだけの検索で見られているかを調べることができる)D2C企業と比較した結果、Casperは100点満点中81点を示して、Bonobosとは同じレーティングで他社と圧倒的な差を出している。
他社のマットレス企業と比較しても倍以上の差を出している。
Casperのグーグル検索戦略の鍵となるのがマットレスの検索・購入に関する全てのキーワードに対してカスタマイズしたLPを作成していることだ。
様々なマットレス企業がグーグル検索に広告を出しているので、全ての状況・検索に対応するのは重要なのだ。
例えばニューヨークでマットレスを購入したい場合に、「buy mattress NYC」と検索する。Casperはニューヨークでは数時間以内に配達ができるので、NYC用のLPを制作した。以下が検索結果:
この広告・LPは他の広告と違って、NYCでマットレスは注文してから1時間以内に届き、セットアップの手伝いとパッケージの処理をしてくれると記載している。Casperの次に表示されるMattress Firmの広告では「New York」と記載されてるが普通な情報しか載せていない。
「レビュー」や「羽布団」用のLPなど、Casperは全関連キーワードのためにSEOをカスタマイズしている。Adwordsに大金をかけているので、参入障壁をかなりあげていると競合のTuft & Needle共同創業者のDahee Park氏は語る。アメリカで「Tuft & Needle」を検索してもCasperが最初の検索結果になっている。
このようにロングテールの検索結果に対してカスタマイズされたLPを作るのはかなりの資金が必要となる。ただ、SEO競争の激しいマットレス業界で飛び抜けて勝てたことはCasperの大きな切り札となった。
3. Soylent(ソイレント)
Soylentのアップデートは食べ物ブログよりソフトウェア開発ブログみたい
Soylentは1つのプロダクトしか売っていないが、成功した裏のコンセプトはフードという商品をオープンソースおよび頻繁にアップデートされるソフトウェアサービスにしたことだ。
オープンソースおよび頻繁なアップデートをすることによってSoylentはフィードバックを常にユーザーから取得している。
2016年に「Soylent Bar」で食前食後に不調を訴える人が出てリコールするなど上手くいかないケースもあったが、Soylentのようにに常に商品改善を行っている会社だとすぐにこのような問題から抜け出すことができる。
頻繁なアップデート・改善する文化および戦略はSoylent創業時からあった。共同創業者のRob Rhinehart氏は個人ブログにて毎日新しいレシピをバイオハックして常に改善していた。「Soylent」という単語が「代替食品」にほかの会社のブランドよりも認識されているのは、このような改善のスピードだからだと言われている。
そのブランドを信じてSoylentの初期クラウドファンディングでは目標の約1,000万円を大幅に突破して約7,550万円集めた。さらに、2017年5月に約50億円の調達ラウンドを実施した。
SoylentはSaaS企業のアップデートモデルを真似して改善を行ってきた。従来のソフトウェアはCDなどハードがないとアップデートができなかったが、現在クラウド化された時代に入ってアプリ開発者はいつでもアップデートできるようになった。Soylentも同じようスピードでアップデートを出し続けた。
Soylentは同じアジャイル方式でアップデートを行った。1.1バージョン、1.2バージョン、1.3バージョンとソフトウェアと同じようなバージョンアップの名前にしてアップデート時にはメモをブログに投稿した。メモでは前回の問題(バグ)を洗い出し、ユーザーフィードバックや検証の結果変更した改善点を書き起こしている。
Soylentがアップデートした度にユーザーがRedditなどでレビューの投稿や質問をしている。Soylentの掲示板(/r/soylent)では2万9千人以上のフォロワーがいる。頻繁にアップデートしているので複数のプロダクトを出しているように見えるが、SoylentはCasperやHarry’sと同じく一つのプロダクトで大体のユーザーに満足度を与えている。
熱狂的なファンのおかげでa16zから出資
プロダクトによって、投資家はそのプロダクトの機能性やベネフィットではなくコミュニティーに興味を持つ場合がある。エンゲージメントが高く、興味を持ってくれるユーザーを集めることの方が良いプロダクトより重要なケースがあるからだ。
Soylentの場合、プロダクトリリース後に出来上がったRedditのコミュニティーのエンゲージメントなどが主な理由でAndreessen Horowitzが約20億円の調達をリードした。General PartnerのChris Dixon氏の投資直後のブログを見るとこう記してある。
「Soylentはテクノロジーで食べ物や栄養を改善したいという熱意を持ったコミュニティーだ。Soylentのマネタイズ方法は、その改善例の1つとしてプロダクトを作っている。ただ、Soylentのコアバリューがフードカンパニーとして見ると会社を見損なっていることとなる。GoProも同じくカメラの会社ではなかったように、Soylentも食べ物の会社ではない」。
Soylentが始まったきっかけがプロダクトではなくブログでバイオハッキングから始まったことがSoylentのコアコンセプトを表している。Soylentの掲示板が始まったきっかけも、当時エンジニアだったRhinehart氏が「How I Stopped Eating Food」のブログ投稿で代替食品をおかげで時間削減できたことを話し始めた。そのブログではSoylentを作るための材料や調理方法を細かく書き、読者が真似、もしくはカスタマイズできるようにした。
その1ヶ月後にSoylentの掲示板が作られた。当時は実験者の間で材料などのディスカッションを行い、全員がより高いクオリティの「anti-food」、代替食品を作れるフォーラムとなった。
2013年の初期ユーザーの材料の投与量に関する警告投稿
Soylent社の大きなKPIやマイルストーンの達成はSoylentの掲示板の成長と共にあったものと言える。
2017年12月時点ではSoylentの掲示板 /r/soylentは2万9千人以上のフォロワーがいる。Soylentベースのレシピの共有、質疑応答、Soylentだけ入っている冷蔵庫の写真を共有し合っている。
初めて科学、フード、栄養に関する大所帯の集まり、エンゲージメントを見て、Andreessen Horowitzはプロダクトではなくこのコミュニティの可能性を信じていた。
このコミュニティを活性化できた重要な判断がSoylentの初期にある:
・プロダクトのオープンソース化:Soylentの材料を全て公開することによって、ユーザーに各自のSoylentを試して作ることを推薦した。Soylentはこのようにユーザーが初日からプロダクトに対してフィードバック・貢献できるようにした。
・Redditコミュニティからのエンゲージメント:Soylentの創業者やチームメンバーは掲示板での投稿数が多く、頻繁にAMA(Ask Me Anything)を実施したことによって、ユーザーと直接会話をできた。
Soylentの強みはプロダクトとアイデアどちらとも提供していること。SoylentサイトではSoylentを購入できるが、レシピをプリントして自分で材料を買って作ることもできる。