「1つひとつの小さなタスクを自動化する」弁理士エンジニアが挑む、商標登録の効率化│Toreru│Meet with Onlab grads vol.10

Open Network Lab
Sep 16, 2020 · 11 min read

Open Network Lab(以下、Onlab)は、「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に、Seed Accelerator Programを2010年4月にスタートしました。Meet with Onlab gradsでは、過去10年間でプログラムに採択され、その後も活躍を続けるOnlab卒業生たちのリアルボイスをお届けします。

今回登場するのは、Onlab第14期卒業生であり現役弁理士でもある、株式会社Toreru(以下「Toreru」)代表取締役の宮崎 超史さんです。Toreruは商標登録をフォーム入力のみで進められるクラウドサービス「Toreru」を展開し、順調な事業成長を続けています。

特許事務所へ入所し、弁理士としてのキャリアを重ねたからこそ発見した商標登録に関わるさまざまな課題を、AIを活用した業務自動化を通じて解決しようと考えた宮崎さん。起業までの道のりや事業内容、Onlabプログラムでのエピソードなどをお届けします。

株式会社Toreru 代表取締役 宮崎 超史さん

弁理士業と並行し、未経験で開発したサービス

企業が自社の商品やサービスの価値を確立するためには、その価値や情報を抽象化し、ブランドとして市場に認知させなければなりません。これはすべての企業の命題であるブランディングそのものであり、事業を継続的に成長させていくためには避けられない道とも言えるでしょう。

そのブランディングの一助となるのが、商品のネーミングやロゴです。しかしこれらを独占し、永続的に使うためには権利を取得しなければなりません。これが商標登録です。

商標登録は自らの対応も可能ですが、一般的には弁理士を介して手続きを実施します。しかしながら弁理士への依頼は、登録できるかどうか調査する時点で費用が発生し、また出願・登録費用も加えると費用が高額になる場合もあります。

高額な費用、あるいは自前で手続きするにはリスクを伴う商標登録に多くの企業は足踏みし、後回しにしてしまうことも少なくありません。しかし、商標登録のない商品やサービスは、常に他人に商品名やロゴを使用される危険を併せ持ちます。さらに、商標登録を先にされてしまっては、自社の商品やサービスが排除されてしまうケースもあります。

こうした企業の現状を解決するためには、よりリーズナブルで効率的に商標登録ができるサービスが必要。この課題を発見し、自らそのサービスを提供しようと行動したのが、Toreruの代表取締役を務める宮崎さんです。

Toreru宮崎氏(以下宮崎):父の国際特許事務所で働いていた経験から商標登録の課題を知り、商標登録を効率化するサービスの必要性を感じました。ただし、その当時は起業を考えておらず、父の事務所の仕事の一貫として、ウェブサービスを作り始めました。

東京・世田谷にある自社オフィスにて

大学では海事科学を研究し、トヨタでは改善業務に従事。その後、新たに弁理士資格を取得して弁理士となった宮崎さん。その経歴のなかにIT領域との接点はなく、当然エンジニアリングスキルもありませんでした。

宮崎:過去に少しだけプログラミング言語を学んだことはありましたが、ウェブ制作については未経験でした。どのような仕組みでウェブサービスが動いているのか、Toreruを作るためにゼロから学んでいきました。

弁理士業務を続けながらウェブ制作について学び、システムを作る。この過程は生半可なものではありませんでしたが、柔軟な改善をするために外注はせず、エンジニアと二人きりでToreruのプロトタイプを完成させました。

宮崎:Toreruというサービスが必要とされているのかどうか、正直自信がありませんでした。リリース当時は広告も一切打っていません。しかし、あるユーザーがFacebookでこのサービスについて投稿してくれて、そこから口コミでユーザーが増えていきました。
私の場合、何かがきっかけで起業を志したというよりも、多くの方に利用されていくうちに事業の価値というものを自覚していったのです。

東京・世田谷にある自社オフィスにて

起業を決意した矢先に出会ったOnlab

Toreruはクラウド上で商標登録を行えるサービスです。利用者は登録フォームの入力を行うのみで商標登録を済ませることができ、従来の書類やメールのやりとりに手を煩わせることはありません。

Toreruの最大の魅力は、料金の安さにあります。コストを抑えるために、弁理士の人件費削減につながる効率的なシステムを構築しました。

従来の事前調査では、特許庁の商標検索サービスを利用するのが一般的な調査方法でしたが、これは弁理士にとって多くの時間を要する業務です。ToreruはAIやクラウドを活用することで、この調査にかかる人件費を無料化。さらに、調査時に自動で報告書作成のプロセスを進められるため、弁理士の業務時間を約10分の1まで削減することに成功しました。

宮崎:2014年からサービス開始、2016年には新たに独学で学んだディープラーニングを採用し、より効率化されたサービスを提供できるようになりました。

特許事務所在籍中もサービスそのものは順調に成長していたのですが、事務所をはじめ様々な弁理士の声を聞きながら、どんな方法であれば、旧態依然の業務フローをもっと効率化ができるのか、日々模索していました。そんな時、出会ったのがOnlabのプログラムでした。起業家を支援するプログラムということで、即応募して、Onlab14期に選ばれ起業の道を歩み出しました。振り返れば本当に偶然の重なりですが、迷わず応募してよかったと思います。

弁理士資格取得もウェブサービス開発も、宮崎さんのキャリアはすべてゼロから学び、行動することで形になってきました。そしてOnlab採択を機に、宮崎さんはまたゼロからスタートアップの道を歩み始めたのです。

宮崎:実は、スタートアップという単語を知ったのも、Onlabに出会ったときです。まるで何も知らない状況だったからこそ、すべてを学びに変え、課題を超えていこうと思いました。

東京・世田谷にある自社オフィスにて

価値を具体化することで、よりユーザーに愛されるサービスに

当時、宮崎さんがOnlab採択時に提出した事業アイデアは現在のToreruではなく、新たに企てた特許取得の弁理士とのマッチングサービスでした。しかしユーザーヒアリングの結果、求められているのは商標登録サービスであることがわかります。その結果を受けて、宮崎さんはまずはこの事業を進めていくことを新たに決意します。

当時すでにToreruは一定数のユーザーを抱えており、収益も発生していました。そこでプログラム中はユーザーヒアリングを中心に行い、事業の方向性を確認しながらピッチに向けてサービスの精度を一層高めることが指針となりました。

宮崎:ユーザーヒアリングを通じてわかったことは、Toreruは意外とユーザーに愛されているサービスだったということです。大きく事業の方針を変えることなく進む確信が持てました。

よりサービスの価値を高めるために、「効率化」と一言でまとめてしまっていた部分を具体化することに。弁理士のどの業務を、どれほど軽減できるか数値化するところまで突き詰められました。

これは前職で改善業務に携わっていたからこそ感じることですが、効率化というものは一つのアルゴリズムで大々的に実現するものではありません。例えば、フローのなかにある100ものタスクのうち、1つひとつの小さなタスクを自動化する。そういった小さな改善の積み重ねこそが、「効率化」なのです。

この考えのもと、弁理士のどのタスクを自動化すべきか見極め、改善を重ねたことが、よりToreruを成長させていきました。

東京・世田谷にある自社オフィスにて

Onlabで宮崎さんは貪欲に周囲の意見を聞き、スタートアップとしてどのように事業を確立していくべきか吸収していきました。その途中、Toreruが誰を幸せにするサービスなのか整理できたことも、事業の基盤を固めた一つの出来事です。

宮崎:私自身、Toreruは一般企業を助けるための商標登録サービスだと思ってきました。でも本当は弁理士の課題を解決するサービスなのだということを、Onlabでのヒアリング経験や事業についてのディスカッションを通じて、改めて認識することができたのです。弁理士の課題解決が、結果として商標登録をしたい一般企業のメリットになる。Toreruは少しだけ特殊な構造のビジネスモデルなんです。壁打ちをしながら、こうしたサービスの根幹に関わる部分をOnabのプログラムで整理できて良かったです。

現在、Toreruの主な顧客は中小企業、全体の約4割がリピートユーザーです。リピート率の高さは、一つずつ事業の方向性を調整し、ユーザー視点で最適化を重ねてきた結果ともいえるでしょう。

Toreruは2019年、より気軽に自分自身の手で商標検索ができる「Toreru商標検索」をリリースしました。一致するテキストや、特徴の類似する画像をそれぞれ検索し、所定の商標登録の有無や類似の登録内容を事前に調べられます。

これまで、特に中小企業にとってハードルの高かった商標登録。そして商標登録にまつわる、弁理士にとって手間のかかるタスク。双方の課題を、Toreruの浸透は徐々に解決しつつあります。

当時の宮崎さんが日々繰り返し議論を続けていた事業の根幹部分を整理する作業は、「誰の」「どんな課題を」「どうやって解決するのか」正解を確かめにいくのではなく、間違っていないか、他の可能性がないかをユーザーヒアリングで確かめていく作業です。宮崎さんのように事業領域の当事者でもあり、強い想いがあるとなかなかその視点に気付くことは難しいですが、貪欲に周囲の意見を求め吸収する姿勢が現在のToreruを作り上げているように思います。

そんな宮崎さんも体験した事業に関する壁打ちや整理をしたい方は、Onlab事業相談会でご相談ください!

ToreruとOnlabのより詳しいエピソードと、今後の事業の展望については別記事で詳しく掘り下げます。お楽しみに!

< プロフィール >
株式会社Toreru 代表取締役 /
特許業務法人Toreru
代表社員 宮崎 超史
神戸大学大学院海事科学研究科卒業。トヨタ自動車株式会社にて工場の改善業務に従事した後、弁理士資格を取得、特許事務所へ入所。 書類作成やアナログ作業の多さが課題だと感じ、トヨタ自動車での改善を弁理士の業務にも活用。プログラミングとディープラーニングを一から学び、オンライン商標登録サービス「Toreru」を構築。 2017年 株式会社Toreru、特許業務法人Toreru設立。

(執筆:宿木 雪樹・写真:taisho・編集:pilot boat、Onlab事務局)

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BLUE DOTS(ブルードッツ)は、Open Network Labのオウンドメディアです。

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「世界で通用するスタートアップ育成」を目的としたアクセラレータープログラムの運営やスタートアップコミュニティ活性化のためのイベントを運営しています。 プログラムへはFond, ラクマ(旧Fril), Qiita, WHILL, SmartHRなど120社を超えるスタートアップから参加いただいています。 #on_lab

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