『思考のエンジン』(奥出直人)

「書くこと」についての思想。

最初に書いておくと、本書は非常に面白い。「僕たちの筆記具は僕たちの思想に影響を与える」というニーチェの言葉から始まる本書は、書くための道具、私という書く主体、そして書かれるものという三つのオブジェクトについて言及し、その関係性を考察している。

タイプライターからはじまり、ワードプロセッサー、アウトライナーと書くためのツールは広がっているが、そのことは書かれる内容に影響を与えるのだろうか。もし与えるのだとしたら、パソコンに向かって行われる口述筆記(「Hey Siri!」)にも同様のことが起こりうるに違いない。そのとき、私たちとテクストの関係性はどのように変化するのだろうか。また、ツールによって、「書くこと」が次々に民主化されていった先に待つものとは何か。本書を読んでいると、そのような射程にまで思考は及ぶ。

反面、何か今すぐ使えるようなノウハウが含まれているわけではなく、使おうと思えば自分なりに掘り下げることが要求される。さらに、本書の言葉遣いは部分部分に「思想的」なものが含まれているので、それに慣れていないと「バロールって何?」とか「エリクチュールの意味が取りづらいんですけど」みたいなことになってしまう。

が、それはそれとして、本書は「書くこと」について示唆に富む本であることは間違いない。うんうん唸りながらページをめくる楽しさがある。

奥出直人 [青土社 1991]


Originally published at honkure.net on October 19, 2016.

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