スタートアップスタジオとしてのコワーキング、ことはじめ。

ビジネスを「考案」し「開発」し「納品」する仕組みについて

ito tomio
cahootz
13 min readDec 9, 2017

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今年は、今後カフーツを起業創業の場としてどう運営していくのか、その試行錯誤の一年だった(と、もう締めようとしているのもアレだが)。

いくつかやり方は見えてきたが、単に起業塾をやるだけではダメで(起業のためのカリキュラムは動かすけれども)、実際にそのビジネスが起ち上がるところまでどうサポートしたらいいか、そのことに集中しなければならないとあらためて感じている。

そんなところへ、主にヨーロッパで始まっている「スタートアップスタジオ」という取り組み方を知った。そのことを簡単に書いてみたい。が、その前に、まずはこの記事を先に読まれたい。

監督は映像作品の製作の仕方として、どういう組織形態が理想かを話してるのだが、ポイントをいくつか引用しておくと

“スタッフには会社を見るのではなく、作品を見てほしいし、関与してほしいんです”

“組織が創造するのではなく、創造が中心にあって、そこに人が集まり、それが組織になるのだと”

“コアメンバーがいて、あとは作品ごとに外部のプロフェッショナルが出入りをする。分福は集う場所であり、かつ風通しのよい場所でありたいという気持ちがあります”

“会社にはそれぞれのカラーや長年培ってきた社風というのがあって、だからこそ信頼もあるし、方法論や倫理観が継承され、醸成されていく良さがあった”

“でも派遣化が進むと、会社は半年でいなくなる人に何も教えなくなるし、派遣される側も自分が関わっているものに対する責任を感じなくなる。それであちこちでトラブルが起き、しかもノウハウが蓄積しないという悪循環に陥っている”

この「作品」や「創造」のところを「事業」または「ビジネスプラン」と置き換えてみたらどうだろうか。

つまり、ひとつの、あるいは複数のビジネスプランに能動的に関わるプロの集団として機能し、皆の専門能力を結集して事業の起ち上げをサポート、実行する、そういう組織ってできないものか。いや、できそう。

で、この本ですが、

チームで起業することに関心があるのなら、ご自分でお読みになることを強くオススメするが、話の進行上、簡潔にまとめられたこちらのページもリンクしておくのでチラッと参照されたい。

こっちもポイントを引用すると、スタートアップスタジオとは

“同時多発的に複数の企業を立ち上げる組織”

“スタジオにあるさまざまなリソースを使いながら、次から次へとイノベーティブな商品を生み出していく”

“商品やスタートアップを生み出す重要な機能をスタジオ内に有し、内製化している”

そういう組織のことを言う。これが、「欧州、北欧、中南米など世界中で同時多発的に増殖し続け、すでに150社以上も存在している」んだそう。スゴイな。

その「スタートアップを生み出す重要な機能」というのは、

・ビジネス開発
・ソフト・ハードウェアに関するエンジニアリング
・UI/UXのデザイン
・プロダクトデザイン
・PR、マーケティング
・人材獲得のためのリクルーティング
・ファイナンス
・法務

等々、ビジネスを起ち上げるためのさまざまな専門能力を指していて、これらをスタジオが実装している。こうしたリソースを起業家は活用できる。カシコイ。

ビジネスのアイデアは、スタジオのメンバーが起案することもあれば、起業家が持ち込んできたり、大企業の社内起業家や新規事業開発チーム、あるいは大学の研究者が持ち込む場合もある。ビジネスプランによっては、起業家やCEOすらも外から呼んでくる。

一言で言えば、

スタジオ自体が新しい商品を次々に生み出し、事業化し、会社化していく

ということ。これは投資を目的とするベンチャーキャピタル(VC)や、メンタリングを業とするアクセラレーターとは一線を画している。自らが事業開発に取り組むのだ。そこがいい。

聞くところによるといままでのVC主導のシリコンバレー方式の起業サポートでは、ファウンダーが製品開発からリクルーティングからファイナンスから、とにかく何から何まで全部やらなくてはならないので、途中で力尽きるケースが結構あるらしい。それは勿体ない。

そこへいくとスタジオ形式だとかなりの部分を役割分担できるので、まずスピードが速いし、各自の高い専門能力に依存できるし、何よりチームとしてスタートしやすい。この「チームで起業する」というところに、ぼくなんかは強く共感する。

ビジネスプランごとにチームを編成し、時には20ものプランを同時並行に走らせる。イケそうとなったらスタジオからスピンナウトして別会社を設立する。この時、スタジオは平均で50%の株式を保有する。

なんと!50%!と思うが、それまでにつぎ込まれたリソースの価値から考えたら極めて妥当ということらしい。スゴイ。こういうインセンティブが期待できるならやり甲斐もあるというものだ。

一方でこれはダメかなとなったら、そのチームは解散するが、そこでメンバーが得た知見や能力などのリソースが無駄にならないよう、スタジオ内の他のチームにあらたに参加する。実に合理的だが、このあたり、先の是枝監督の説く組織形態と微妙に被って見える。まあ、もともと映画制作スタジオがヒントだったらしいので当たり前といえば当たり前か。

これらのスタジオは、自身もスタートアップの経験があり、それを売却してひと財産を築いたけれど、そのまま投資家になるのではなくて、それ以降も新しいイノベーティブな事業プランにコミットしたいという起業家が開設するケースが多いようだ。

例えば、エバーノートの元CEOであるフィル・リービン氏も、AIをテーマにしたスタジオを開いた。

その他、有名どころをあげておくと、

あたり。

一方で、大企業もスタートアップスタジオに取り組み始めている。自社の持つあらゆるリソースを起業家+コアメンバーに提供して、新しい事業領域を開拓しようという狙いだ。グローバル企業のユニリーバもそのひとつ。

この記事によると、スタートアップ30社がシンガポールのUnilever Foundry に参加した。「Foundry」というのはスタートアップスタジオとほぼ同じ意味。

シンガポールの他に、インドネシア、イスラエル、マレーシア、オーストラリア、ドイツ、インド、アメリカなどから集まってきている。残念ながら日本からはいない。

ちなみにユニリーバは、今年2月に2,040㎡もあるLevel3というコワーキングもオープンさせていて、Foundryに参加するスタートアップはそこを使う。各社はユニリーバのさまざまなリソースを使い倒してビジネスを成長させる。

大企業は単に資金を出すだけでなく、またスタートアップとお見合いするだけでなく、ビジネスを起こすそもそものところから全面的にコミットしている。

その実行の場として企業がコワーキングを開き、スタートアップが使う。理にかなってる。日本でも増えると思う、というか、増えればいいなと思う。

で、あそうか、と。

ぼくは是枝監督の言う

“コアメンバーがいて、あとは作品(=ビジネスプラン)ごとに外部のプロフェッショナルが出入りをする”

そのための拠点として、コワーキングスペースがそうなり得るんじゃないか、でそれはスタートアップスタジオのスタイルを踏襲できるんじゃないかと思いついて、徐々にカフーツをスタジオ化しはじめている。いや、うちの場合、ミニスタジオ、いや、ミニミニスタジオですけど。

まあ、よくよく考えてみると、規模は小さいながらも自分もこれまでそういうスタイルでやってきたことでもあったわけで。それを思い出した。

コワーキングは、コワーカーが受託している仕事をこなすために使われることが多いが、そういうコワーカーの中にも、チャンスがあれば自分の能力を活かしてスタートアップに参画したいという人も案外多いと感じている。さっきの『スタートアップスタジオ』でもそう書かれていて、あ、どこも同じか、と。

いわば、コワーキングで仕事をして受託案件を納品するのではなく、ビジネス開発チームに参加して、自前で開発した「ビジネスという製品」を納品する、それを実行するための仕組みがスタジオであり、コワーキングがその場となる。

だから、アイデアは自前で起案してもいいし、どこから持ち込まれてもかまわない。「オモシロイ」となったら、初期メンバーを集めて、まずはリーンキャンバスなどで慎重にアイデアの検証からからはじめる。

このへんの手順は『起業の科学』に詳しいので、こちらも、絶大にオススメする。内容が濃すぎて鼻血が出ること必至なのでそこは要注意。

ただし、課題がないわけではない。

実はこのスタジオのコアとなるメンバーは社員として雇用されている。だからそのための財源が必要だ。それを、受託案件を取り回して収益の一部を開発に充てるという方法もなくはないし、そうしてきたこともあるけれども、そこが課題。

前述のように成功した起業家が運営している場合や大企業がバックにある場合はそう負担ではないだろうが、そうでない者がスタジオをやるには、さて、どうしたらいいか。

ちなみに、海外ではVCがスタジオに投資しているケースも結構あり、VCのスタジオに寄せる期待が大きいことも伝わってきている。実のところ、アクセラレーターの輩出したスタートアップよりも、スタジオが生み出したスタートアップのほうが投資効率が高いというデータもある。

だがそれは、零細なコワーキングには望むべくもない話だ。いまのところ。

で、また先の是枝監督のインタビューを振り返ると、

やはりつくる側が企画開発をしないと、つまり請負だけになると、映画の面白さは失われていく。だから企画開発にはこれからもこだわっていきたい。企画開発費をもらえれば、それだけでコアメンバーのスタッフのギャランティをおおかたまかなえますし、オリジナル企画で勝負することを下の世代にもチャレンジさせられます。

もし「企画開発費」という切り分け方ができたら、コトを前に進めることは可能だ。ここ、実は、「誰のどういう課題か」を考えていくと、自ずと見えてくることに気づいた。

かつ、コアメンバーは『起業の科学』でも説かれているように、サイドプロジェクトの一員として参加する。(この話も含めて、いずれ『起業の科学』勉強会をやりたい)

で、その企画をうまく製品化できたら、そのビジネスを納品する。つまり、

スタジオ志向のコワーキングは、ビジネスを「考案」し「開発」し「納品」する組織として運営される。

カフーツはそこを目指している。

当面、カフーツの取り上げるテーマは、「旅」と「食」だ。「旅」には「移働(リモートワーク)」ももちろん含まれているし、「食」ではまずは「農業」をやる。すでに素案はあって、じわじわ始めている。

もちろんハードルは高い。課題もまだまだたくさんある。でも、やる価値はある。ぼくにとってのコワーキングの次のフェイズとして取り組んでいきたい。

と思ってたら、来年は、これがらみでいろいろイベントや仕事のお話もいただいていて、なんとなく流れが来ている感もしなくはない。うまくこの流れに乗って、しかし調子には乗らないで、ぜひとも成果を出したい。皆さん、よろしくお願いします。

あ、そうそう、「こんなビジネスアイデアがあるんだけど、どうかな」という方は、いつでも連絡ください。アイデアの検証からコミットします。

ということで、最後までお読みいただき有難うございます。このブログは、ブログJelly Vol.81で書きました。

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他にも、「カフーツ式BlogMagazine」に書いていますので、よろしければチェックください。

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ito tomio
cahootz

コワーキング・プロデューサー。メディア企画、執筆、翻訳、編集。2010年、日本で最初のコワーキングスペース「カフーツ」を神戸に開設。2012年、経産省認可法人コワーキング協同組合設立、代表理事就任。2014年、コワーキングマガジン発行。2016年、コワーキングツアー開始。訳書に『グレイトフルデッドのビジネスレッスン』他