AIの会社がデザイン起点で考える"ユーザーの本当の幸せ”とは?
世界をより幸せな場所にするために僕らが実践するUXデザイン
人々をより幸せにするという弊社のミッションを実行する上で、中心的役割を果たすのが、Experience Designerを務める福田基輔です。ユーザーを本当に幸せにする価値提供こそがExperience Designerの仕事だと語る福田。そんな彼はユーザーが製品を使わなくなった後も幸せであってこそ、良いUXが提供できているのだと言います。Experience Designerとして、デザイン界の課題からチャットボットのUXデザインの難しさ、さらに個人AIチャットボットTruffleを通して創造しようとしている価値までを語ってくれました。
Experience Designerとして高い評価を受ける福田。そんな彼が実践する、真にユーザーを幸せにするUXデザインとは?
経歴
1982年生まれ。早稲田大学芸術学校建築科卒業。株式会社コンセントで数多くの大規模BtoCサービスのリニューアルにInformation Architectとして携わった後、株式会社リクルートの事業開発部門に参画し、UX責任者として複数の新規サービスを立ち上げる。シフト管理サービス「Airシフト(店舗向け)」「シフトボード(スタッフ向け)」では、店長とスタッフの複雑なシフト調整業務をチャット機能によって解決し、自然言語で会話できる「パン田一郎 AIボット(LINE公式アカウント)」では、チャットで雑談を楽しみながらバイトが見つかる新たなサービス形態が利用者に広く支持され、グッドデザイン賞「GOOD DESIGN BEST 100」を受賞。企業勤務と並行して「立飲Bistro-SHIN(目黒)」での勤務経験を持ち、2009年よりFUJI ROCK FESTIVALにバー「Café de Paris」を出店。2018年よりUniversity of the Arts Londonに留学。
目次
- UX = ユーザーが製品を使い終わっても幸せである状態の設計
- UXの“正負”をデザインする
- ビジネス上の価値とデザインを結びつける
- UXデザイン=差別化の鍵
- ChatCenter AiにおけるUX
- 「初めまして」をより深く、もっと意味のある再会を
- 家事はロボットがすべきか、人間がすべきか
- デザイナーとしての役割を広げていく
- 最後に
追伸(CEO高橋より)
UX = ユーザーが製品を使い終わっても幸せである状態の設計
UXデザインはユーザーの体験をデザインすることだと一般的に言われていますが、具体的にユーザーの体験をデザインするとはどういうことでしょうか?福田さんにとってのUXデザインの意味を教えてください。
UXデザインは利用者が製品やサービスを認知する瞬間から、利用している最中、そして利用した後に至るまでの範囲の行動をデザインすることです。
一般的に、利用者がサービスを使い始めた時から使い終わるまでの体験のデザインがUXデザインだと理解されていることが多いですが、それでは充分ではないと思っています。利用者がサービスの存在をどのように認知・理解し、使い終わった後どのような行動をとっているか、そこまでのジャーニーを一貫してデザインすることができるかこそを、UXデザインの範囲として捉えるべきと考えています。“本当に利用者にとって何が嬉しいか”を考えた時、私たち企業が目指す結果は必ずしもサービスを利用している時に起こるものではありません。そのサービスを使わなくなっても利用者が幸せな状態であること、それを設計するのがUXデザインですし、だからこそサービスを使い終わった後の行動もUXデザインの範囲として考えるべきなのです。
UXデザインで最も重要なことは、利用者への深い理解です。私たち企業が提供したい価値を利用者の潜在ニーズと結び付けるために、私たち自身の思い込みを排除しつつ、利用者が言葉にできない或いは意識すらしていない課題を発見することがポイントになってきます。
利用者をより深く知るには、実際に現場に行ってみることも大切です。以前、飲食店向けのサービスに携わっていた時は、ある飲食店でアルバイトをしたこともあります。アルバイトをした目的は真の課題を抽出することでした。利用者の方々に業務上の何が課題かを正面から質問しても、その答えには利用者の先入観や解釈が含まれている状態で、なかなか本当の課題に辿り着けない。ある程度、成熟したサービスにおいては、数字から課題を見つけることも可能ですが、新たなサービスを構想する場合は現場に行かないと解決すべき課題が芯を食っているのか分かりません。また、当然のこととも言えますが、この課題抽出を怠ると、どんなにサービス作りに力を入れても、本質的に利用者の課題を解決するようなサービスを作ることができません。
UXの”正負”をデザインする
ユーザーをより幸せにする体験を設計していく上で、具体的にどのような状態を良いUXデザインと呼び、どう評価するのでしょう?
利用者がどういう状態になることを目指すのか、つまりUXデザインにおける正負を設計するのも仕事の一部です。これはKPI設計とも言えますが、私たち企業が提供する製品・サービスには目指すビジョンが必ずあり、そのビジョンを利用者の体験や行動の視点で翻訳して、計測可能な数値によって正負の評価をするわけですが、この点は非常に難しい部分でもあります。取得可能な数値を増やして利用者単位で紐付けていくことに取り組むことは不可欠ですし、サービス運営のあらゆる取り組みがその指標に向かっている状態を作るための、社内コミュニケーションやその環境作りまで考える必要があります。
ビジネス上の価値とデザインを結びつける
リクルート時代に関わられていたLINEボットの「パン田一郎」は高い評価を受けていますが、その際はどのようなUXを目指し、またどのような指標を使って評価していましたか?
リクルート時代に立ち上げた「パン田一郎」はアルバイト情報を提供するサービスの一部なので、アルバイト求人への「応募数」を増やすことが事業として求められることでしたし果たすべき「目的」でした。ですが、実際に計測する「KPI」としては、LINEという利用者にとって最も身近な場所で気心の知れた友達のような存在として利用者に寄り添えているか、という提供したい体験の評価軸として「会話数」や「継続率」を用いていました。
また、利用者の体験を一歩引いた視点から捉えると、アルバイトに応募した後に採用されたのか、採用された利用者はそのアルバイトを続けているのか、そしてもちろん採用した店舗や企業も満足しているのかなど、サービスを利用し終わった先にある体験にまで想像力を働かせること、評価できるように計測可能にする努力を続けることも重要です。これらは必ずしも事業の最重要KPIとして据えられていないこともありますが、僕らは大切な指標として置いていました。
プロダクトとしての「パン田一郎」を考えてみると、当時提供していた機能はアルバイトへの応募までのプロセスでした。もし、応募数だけを伸ばしたいならば、単純にアルバイト情報をプッシュ通知する回数を増やせばいいと考えがちです。しかし、それでは当然利用者に”ウザがられ”てしまうことがしばしばしです。短期的に応募数は伸びても、使い続けられるサービスには程遠くなってしまいます。利用者にとって気持ち良い体験は必ずしも事業が追う指標と一致しないということですね。
ここが難しいところでもありますが、事業として達成すべき目標とUXとして実現すべき状態を結びつけるということは、今日のデザイナーにとって大変重要な役割であると言えるのです。僕は、UXやデザインの視点が企業の全ての意思決定プロセスに入るべきと考えていますし、CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)やCXO(チーフ顧客体験オフィサー)が経営のボードメンバーに入ってきているのは、こういった潮流からです。企業としてデザインと事業の価値をいかに結び付けられるかが、真の価値を社会に提供できるかという点においてとても重要です。
UXデザイン=差別化の鍵
CDOやCXOのボードメンバーへの台頭を始め、近年さらにUXデザインの重要性が高まってきているように思いますが、この変化の背景にはどのような理由があるのでしょう?
ここ数年、デザインやUXが企業の中で重要視されてきているのは、業界の成熟という点が大きな理由ではないかと考えています。僕は学生時代に建築を学んでいましたが、建築の歴史は長いこともあり、言葉は違えど「利用者の体験をデザインする」という概念が当たり前のようにありました。近年、IT業界においてUXデザインが重要視されているのは、機能によって得られる利便性以上のものが求められているからだと思います。
また、他サービスとの差別化という視点でも、いかに提供したい価値を利用者の深い理解に基づいてデザインできているかが勝敗を分けると思います。UXデザインは魔法の杖ではなく、とても地道な作業です。広告・コピー・プロダクト・UIなど、利用者のサービス利用前から利用後までの全ての接点において一貫したサービスの性格で利用者とコミュニケーションを取ること、それを実現するためのプロセス設計や、その結果として生まれるアウトプット一つ一つにデザイン視点を取り入れていくことが重要です。この地道な作業こそが差別化のカギであり、自然に利用者に選んでいただける理由になるのだと考えています。
ChatCenter AiにおけるUX
ChatCenter Aiで最高のユーザー体験を提供する上で、どのようなUXデザインを意識していますか?
ChatCenter AiはBtoBtoCという特性があります。コールセンターを例に挙げると、サービスの利用者以外にも、意思決定をする経営陣、コールセンターをマネジメントするスーパーバイザー、利用者と対峙するオペレーターなど、すべてを「利用者」と捉えています。そして、それぞれの利用者が抱える課題も異なります。BtoBtoCのプロダクトには、そのサービスに関わる全ての人の体験が向上しなければ最終的なサービス利用者に価値を提供することができない、という構造を持っています。これを実現するのは容易ではないですが、デザイナーは利用者視点でニーズと課題を見極める素地のある専門家であるからこそ、重要な役割を担っていると思います。
「初めまして」をより深く、意味のある「再会」へ
現在開発に関わられているTruffleは、「AIの民主化」をミッションに掲げていますが、具体的にTruffleでどのような世界を創造しようとしているのですか?Truffleの開発にどのような意味があり、どのような社会的変化が生まれるのか教えてください。
Truffleが実現しようとしていることは、このSNS時代、広くて浅い繋がりが溢れる中で、意味のある関係性を人々が見つけるアシストをすることです。Truffleを通して「初めまして」から2回目の意味ある「再会」を促せるか、それが私たちの取り組んでいることです。初対面ではなく再会こそが意味のある出会いだと考えています。
例えばカンファレンスやミートアップなどでは大勢の方とご挨拶して名刺交換をする機会が得られますが、その最初のきっかけを意味のある出会いに昇華させることはとても困難であり労力のかかることです。「初めまして」からお互いに関心を持ち魅力を感じるまでの会話のステップを、Truffleを使ってショートカットすること、そして意味のある再会を増やすこと、それがTruffleで実現しようとしていることです。
家事はロボットがすべきか、人間がすべきか
AIを個人レベルで使えるようにすることはAppSociallyが現在取り組んでいることでもありますが、この実現に当たって何が重要になってくるのでしょうか?
これからAIを個人が利用するようになっていく時に私たち企業は、利用者のそれぞれの人生という文脈に合った価値を提供できているかを考える必要があると思います。
AIや新しい技術によってできることが増えたことは、利用者がやらなければいけないことが増えたという見方もできます。また、ロボットが代わりにやってくれることで利用者のやることが減り続けていくこともどう捉えるべきでしょうか。例えば、家事をしている時間がストレス発散になるという人もいれば、家事はわずらわしいからロボットにやってほしいという人もいるでしょう。何をロボットに任せ、何を人々がすべきかの切り分けがとても難しいところなのです。この切り分けの思想を私たちがどう持つかは、AIやロボットが個人の生活により深く入り込んでいく中でとても重要なことだと思います。
デザイナーとしての役割を広げていく
時代や市場に合わせデザイナーの役割が変化していく中で、今求められているデザイナー、またはデザイナーの能力とは何でしょうか?
デザイナーは、企業が製品やサービスを作る過程において、理想的には全ての意思決定に関与するべきです。
特に大規模な企業では多くの部署が異なる役割を担ってサービスを運営しているため、部署間で目指す方向に差異が生じることも少なくありません。今求められているのは、利用者に提供する体験の指針を部署を超えて示すことのできるような資質や能力です。意匠としての美しさを追求するこれまでのデザイナー像とは期待される役割や成果が変わってきているのだと考えていますし、変わって行く必要があると考えています。いかにデザイナーとして、サービスの根幹に一貫した利用者視点のデザイン思想を植え付けられるか、これが最終的に利用者に提供する価値を左右しますし、デザイナーの仕事として重要になってきているのです。
デザイナーの役割が重視され、CDOやCXOを据える会社も増えてきていますが、まだまだ企業内でデザイナーの権限は限られていることが多いです。これは僕自身がデザイナーとして実感していたことでもあります。僕がやりたいことは平たい言い方ですが利用者の生活にとって本当に意味のあるものを作ることです。そのために、デザイナーの役割を社会や企業の中で広げていくことは継続的に取り組んでいきたいですね。
最後に
いかかでしたか?今回はチームメートインタビューの第三弾として、UXデザイナーの福田がUXという観点から、ユーザーを本当に幸せにするエクスペリエンスデザイン、デザインの課題、そしてAppSociallyで創造している価値までを語ってくれました。
何が本当にユーザーにとって価値のあるもので、何が本当にユーザーを幸せにするのか?これは最も重要なことでありながらも、プロジェクトが拡大・進行していく上で忘れてしまいがちなことでもあります。福田が語ったように、AppSociallyでは本当にユーザーを幸せにすることだけを考え、日々製品開発に取り組んでおります。私たちのミッションは“世界を、より幸せで、より健康で、より生産的で、より人と人のつながりを感じることのできる場所にしていく”ことです。私たちのミッションに共感していただける方、興味を持っていただけた方、是非お気軽にご連絡ください。私たちの部室で一度お話ししましょう。ここまで読んでいただきありがとうございました。
Interviewed and written by Haruna Tanaka
追伸(CEO高橋より)
僕がアジアトップUXデザイナーの1人と考えている @motosuke が、弊社のようなテクノロジーとAIの会社が、プロダクト・デザインの視点から、技術力だけでは超えられないような方法で、どのように顧客満足度を高めていくかについて語ってくれました(シリコンバレーの友人たちを思い浮かべても同じようなトップレベルと言えると思います)。業界トップ評価LINEボットの”パン田一郎”を世界に産み出し、Town WorkやAirRegiのプロダクトのUXも手がけてきて、現在は、ロンドンから帰国し、弊社のプロダクトデザインに大きな価値を提供してくれています。そして、何よりも、福ちゃんは僕が友人として大好きな人なので、ぜひ記事を読んでみてください。