ウェザーニュースの会員限定「6本の台風予測」が伏せている話

「本数が多い」から「良い」わけではない

ほりまさたけ (Masatake E. Hori)
気候はいま
5 min readOct 29, 2017

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台風21号に、22号。二週間連続で台風が通過する週末となっていますが、そのとき気になるのが「いつ」「どこ」を台風が通るのかという進路予測です。

最近はスマートフォンのアプリで台風の情報を得る人も多いと思いますが、人気の「ウェザーニュース」アプリにしばらく前からとても気になる有料会員限定の機能「6本の進路予測」があります。

一見、気象庁だけではない、海外の予測モデルの経路図が加わることで価値が増しているように見えます。だって、一本ではなく、6本もあるのですから!

しかしここには、実は説明していないカラクリがあります。あなたのみている情報は増えているどころか、かえって減っていて、わかりにくくなっているかもしれないのです。

ウェザーニュースのこの6本の予測モデルは、ウェザーニュース独自のもの、気象庁、JTWC、ECMWF、中央気象局(台湾)・KMAなどから構成されています。「モデルによって異なることがあるので、あらゆる可能性を知ることによって備える」という説明書きがあります。

私たちがよく知っている台風予測は、いわゆる「予報円」で表示されています。丸で表示されているので、台風の形を表現していると勘違いされがちですが、この白い丸のなかに入る可能性が70%という範囲なのです。

たとえば上の白い予報円の軌跡は、円が小さく、細くなっています。これは台風が小さいということではなく、かなり正確に行き先を予報できているということなのです。

私たちが注意すべきなのは、この線よりもむしろ赤と黄色の範囲、つまり暴風・強風域なのです。

ではこの予報円はどのようにして計算しているかというと、実はすでに予報の段階で6本以上のいくつもの軌跡を描いて、その広がり方で予報円は描かれています。

それだけではありません。コンピュータモデルのなかで計算された台風は実際の場所や勢力とは異なる可能性がありますので、予報の精度を向上させるために、入ってくる台風の実況情報にあわせて必要に応じて補正を行うという作業もしています。

「でも、ウェザーニュースの6本には海外の情報もあるじゃないか!それと比較するのも有益では?」と思われるかもしれませんが、実は気象庁側でそれも背後で行なっています。

6本どころか、さまざまな機関の提出するデータのアンサンブルも用いて、気象庁の結果とずれている場合などにそれらを参考にしているわけです。

バラバラであることに価値はない

もう一つ、わかりにくいのは、6本であろうと、100本であろうと、本数が増えるとより正確になるわけではないという点です。

そもそも、なぜコンピュータモデルは条件を少しずつ変えながら何回も計算するかというと、私たちが気象状況のすべてを知っているわけではないという「情報の欠如」から来ています。

完璧な予報ができるほどの情報はそもそもありませんし、小さな誤差が急速に大きくなって予報が外れるのが気象予測の根源的な限界です。

そこで、あえて誤差をいれて何本も経路を描かせることによって:

  • 多少の誤差があっても台風は全部同じ方向に向かっているぞ、つまり予測はおおむね正しいはずだ
  • 誤差のせいで10本の経路がバラバラになってしまった。これは、どれかが正解ということではなく、とても予報しにくい気象状況だからどこにきてもよいように警戒情報を出そう

ということができるようになるのです。バラバラになっている経路は「どれかが正解」というわけではないというのは、とても重要な点です。本数は円をより正確に描くためのものであって、本数が多いとどれかが正解というわけではないのです。

6本どころではない経路を描き、常に補正をし、海外の情報も参照して、最大限考慮した上でこのバラバラ度合いを「この円内には70%の確率で入るはず」とわかりやすく表示したのが予報円なのです。

結論だけをいうなら, 一秒で状況を理解したいなら予報円最強、というわけです。

ウェザーニュースの有料会員限定の「6本の進路図」が間違っているといいたいわけではありません。海外のモデルの経路をみることで学べることも多いでしょう。

しかし、6本あるから一般のユーザーにとって何がいいのか? 予報円に比べて決定的にメリットのある情報を得ているのか? 誰むきの情報なのかといった肝心なことを伏せているのは、あまり感心しません。経路図なんて、気象学者のひとがもらって喜ぶもののような気が。

アンサンブル予測についてはまた別の機会に紹介しましょう。

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ほりまさたけ (Masatake E. Hori)
気候はいま

Blogger, Writer, Scientist in Japan. Editor of Lifehacking.jp. Tech, Culture, and Lifehacks in Japan. IT ツール、ガジェット日常を楽しくすることについて書いています。2011年アルファブロガー・アワード受賞