シビックテックソリューションを成功させる3つの方法

Hal Seki
Code for Japan
Published in
12 min readNov 1, 2016

Code for America の元フェローで、Code for Pakistan の創設者でもある Sheba Najmi さんが、3 ways to build Civic Tech solutions that succeed というタイトルの記事を書いていましたので、ご紹介します。

彼女は、米国のヤフーで勤務した後、2012 年に Code for America のフェローシップに参加し、市役所のメンバーと共に勤務することで、彼女の職業感が変わるほどの経験をしました。その後、2013 年に Code for Pakistan を設立。コミュニティーオーガナイズ、デザイン思考、オープンソース及びオープンデータの推進、シビックエンゲージメント、政府との橋渡し、プロダクト創出及びディレクション、ボランティア管理、マーケティング、組織運営など、Code for Pakistan が成長するために必要な事をなんでもやってきました。

Code for Pakistan は、Code for All というシビックテックに関する国際ネットワークのパートナーでもあります。(私が主催する Code for Japan もパートナーの一つです。)彼女のシビックテックとユーザーエクスペリエンスに関する仕事が評価され、ヨーロッパのカンファレンスなどにも登壇しています。

  1. Personal Democracy Forum (PDF) — Poland-Central & Eastern Europe in Gdansk, Poland
  2. CityOS Smart Cities Conference in Dubrovnik, Croatia
  3. The Impacts of Civic Technology Conference (TICTeC) in Barcelona, Spain

彼女は、これまでの経験から、以下の3つの事柄がシビックテック推進にとって重要だと書いています。下記に、記事の一部を要約します。

1. 問題ではなく、人々から始める

(Lead with people, not problems)

掛け金が高いときには、失敗のリスクを減らすことが重要です。公共サービスというものは、基本的に民間サービスに比べ失敗に対する許容度が低いものです。利用者は市民で、顧客では無いのです。プロダクトは人々が依存する公共サービスなのです。あなたの購入した本が時間内に届かなかったという事態に比べると、消防車が現れなかったらあなたの人生は大きな危険に晒されます。このような高い掛け金は、行政サービスに革新的な取り組みが推奨されない文化を作っています。

多くの民間企業がソリューションを生み出す際の失敗リスクを軽減するためにユーザー中心設計の手法を取り入れているのに対し、公共団体はその採用に関して遅れを取っているのは、この文化の影響です。

ユーザー中心設計の肝は、ソリューション設計の全ての段階で、エンドユーザーのニーズや制限にフォーカスするという哲学に基づいた設計プロセスにあります。ユーザーがシステムを学習するために態度や振る舞いを適用させるのではなく、プロダクトの方がユーザーが既に持っている信念や態度、振る舞いをサポートするよう設計されるべきなのです。

Image Credit: Stanford d.school

ニーズや使い方についての完全な背景情報の理解が無ければプロジェクトは失敗します。ユーザー中心設計プロセスの最初のステップは、共感です。共感とは、単に他人の状況についての同情ではなく、彼らのような生活をした場合にどのように感じるかに関する深い洞察であり、彼らのニーズや望み、問題を理解することでもあります。ユーザーが置かれている立場から発生する問題に没入することで、あなたの今までの先入観や経験知を捨て、真の意味のニーズや、人々からの助けが必要なことがらを理解する必要があります。

あなたがターゲットユーザーのニーズや痛み(pain point)、目標を理解して初めて、あなたは解決すべきニーズの定義を始め、どんなソリューションがあるべきかを考え始めることができます。

ガーナで行われたIDEO社の家庭内公衆衛生プロジェクトに、このアプローチの良い事例があります。(筆者注:この後IDEOがユーザーインタビューなどを通じて都会の貧困層のニーズを把握し、家庭内トイレを作った話を省略)

公共のニーズに関するユーザー中心設計に関して興味がある方は、私のPersonal Democracy Forum in Poland の17分間のトークをご覧ください。

2. プロトタイプを作り、本当のユーザーにテストをしてもらう

(Prototype and test with real users)

あなたのソリューションが正しい方向に向かっているかを知る唯一の方法は、可能な限り早い段階でターゲットユーザーにテストをしてもらうことです。これは、プロトタイピング(Prototyping)と試験導入(Piloting)との大きく違う点です。

試験導入では、伝統的には国際開発組織のアプローチですが、あなたはしばしば多くの労力を完全なソリューションを開発することに使い、最後にそれがうまく機能しないことを学びます。そこから、あなたはこれまでのすべての努力を放り出して最初からやり直すか、あまりうまくいかない可能性が高くてもかまわず先に進めることになります。

一方、プロトタイピングでは、あなたはあなたの欲しい部分だけをプロトタイピングします。あなたはソリューションの中で、ユーザーに使ってもらい何らかの気付きを得るために必要な、最も小さく基本的な機能のみを作ります。そしてあなたはそのプロトタイプを早めに、頻繁にテストします。試験導入に比べ、拡張性、持続性、素材についての検討などを後回しにできます。そして、失敗のリスクを大きく減らすことができます。

事例を一つ示しましょう。ボストン市の公共交通局が2つの異なった公共parklet(駐車スペースを公園にした場所)を設置しました。そこには人々が腰掛け、おしゃべりを楽しんだり、読書をしたり、コーヒーを楽しんだり、井戸端会議ができるような小さな公共スペースがあります。それぞれの公共parkletには、1万5千ドルから2万5千ドルのコストがかかりましたが、誰もその場所に座る人はいませんでした。なぜこの取組が失敗したか予想できますか?

Boston parklet. Image Credit: MIT Center for Civic Media

人々が利用をためらったのは、快適でないベンチ(曲がっている形)と、通りの直ぐ側という立地のせいだということがわかりました。実際には、ちょっと座って誰かとおしゃべりするなんてことはできなかったのです。彼らは、ベンチというよりも、アートかなにかに見えたのです。そもそも、市は事前にテストをするために多くの労力を払う必要もなく、実際のスペースに厚紙やプラスチックのベンチを置いてみて、人々に、それに座るかを聞いてみればよかったのです。

一方、サンフランシスコ市は、少なくとも51箇所に公共のparkletを作りました。そして、今はそれらはとても人気があります。サンフランシスコではそのプロジェクトは多くの隣人をひきつけ、地元の商店や利用者も、parkletを作る過程に参加しました。彼らはフィードバックを元に変更可能な、低いコストで仮のキットを使ってプロトタイプを作ったのです。地元の人々にデザイン過程に参加してもらう付属的なメリットとして、このプロジェクトの盛り上がりや支援が自然と生まれました。

そもそも政府という概念は本質的にユーザー中心であるはず(市民に仕え、コミュニティの繁栄を助けるための存在)なので、行政サービスがユーザー参加型であり、ニーズ発見や解決策のプロトタイプテストが行われることはとても重要なのです。

ニーズ発見やユーザーテストをどのように指揮するかについて知りたいかたは、私が協力したWhite House’s Opportunity Project のトークを見てみてください。

3. “ともにつくる”ために市民参加を促す

Get citizens engaged in co-creation

最も効果的なソリューションは、トップダウンではなくボトムアップで作れられます。ニーズ発見とユーザーテストは我々にボトムアップのアプローチを取ることを可能にします。そして、ニーズ発見とユーザーテストを通じて市民参画(citizen engagement)に向かうことができます。

私達の都市が市民中心の社会になるためには、それらは草の根から作られる必要があります。都市をよりスマートにするのは、センサーではなく、人々なのです。ドゥブロヴニク市で開催されたSmart City OS conferenceにて、私はスマートシティを実現するためにはどうすれば良いかを話しました。それには、スマートで参加意欲のある市民の参加とコミュニティ感覚が必要です。そして、スマートなソリューションを作るには、私たちはユーザーニーズの理解に集中し、ボトムアップからのリーンスタートアップ(lean startups)的にスマートシティを扱って行く必要があります。

(筆者注:以下、Code for America Fellow として、2012年にホノルルに派遣され、Honolulu Answers というQAサイトを作った際、”ライタソン(writeathon)”を実施し市民にコンテンツ作成をお願いした時の話。多様な年齢、職業の人達が参加し、市民の帰属意識や権限移譲などを高めることができた)

まとめ

Takeaways

21世紀において私達のニーズに合った行政サービスを作る肝は以下の3つです。

  1. 問題ではなく、人々から始める。(Lead with people, not problems)
  2. プロトタイプを作り、本当のユーザーにテストをしてもらう(Prototype and test with real users)
  3. “ともにつくる”ために市民参加を促す (Get citizens engaged in co-creation)

共感、早いプロトタイピング(rapid prototyping)、そしてプロセスに組み込まれたユーザーフィードバックという強力なツールを使うことで、あなたは市民をお客さんとして扱うのではなく、ソリューションの一部として受け入れることができます。更に広範には、政府の一部として。あなたは更に彼らのスキルをボトムアップの共創プロセスとして受け入れることもできます。これにより失敗のリスクを減らし、政府に対する信頼を取り戻し、ステークホルダー間の共創のための力強い基盤を作ることができます。

これら全てを行ったとしても、まだまだ不確実なことは山のようにあります!全てを正しく行ったとしてもプロジェクトがうまくいかない時は何をすべきでしょうか?私は次の記事でそれについて語ろうと思います。

Sheba Najmi はCode for Pakistan の創始者であり、Exygy の Senior User Experience Strategist。Matt Luedke もこの記事に貢献している。オリジナルはExygy blog にも投稿されている.

翻訳終わり。

いかがだったでしょうか。問題ではなく、人々から始める、プロトタイプを作り、本当のユーザーにテストをしてもらう、“ともにつくる”ために市民参加を促すという3つは、Code for Japan が福島県浪江町で行ったプロセスでも重視しました。ご興味のある方は、下記スライドをご確認ください。

共創を実現するためのIT活用:神戸市職員研修資料

今 Code for Japan では、40もの地域で Code for ◯◯が立ち上がっており、各地でシビックテックの推進を行っています。

Code for Japan のコミュニティ

例年行っているシビックテックの祭典、Code for Japan Summit 2016 が、今年も11月19日〜20日にかけて行われます。どなたでも大歓迎ですので、日本国内での事例に興味を持っていただけましたら、是非お越しください。Code for America で User Researcher をしている、Monique Baena-Tan さんも来日します。

本ポストは、Code for Japan の記事にも投稿されています。

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