シビックハッカソンに関する海外論文の和訳と感想

Shota Onishi
Code for Japan
Published in
16 min readMar 31, 2017

自己紹介

こんにちは。北陸先端科学技術大学院大学修士課程2年生の大西翔太と申します。僕は地元が田舎なこともあって地域づくり活動への関心がとても強く、今は大学院でコミュニティの持続性や地域住民と技術者の協働といった観点から、ITを使って地域の課題を解決する「シビックテック」という活動に関する研究をしています。またその傍らで自分もシビックテックに参加させていただき様々な立場で活動をしている方と話す中で、これから何をしていくかについて考える日々を送っています。

ポストを始めたきっかけ

先日アメリカに行った際に、たまたまシビックテック先進地域と言われるシカゴ市で活動をしている方とお話をさせていただく機会があったのですが、その際にシカゴ市でのシビックテックが地域社会を巻き込んだムーブメントになっていることに大きな衝撃を受けました。帰国後自分はこの経験を生かして何かできないか考えた結果、少しでもシビックテックの重要性や今起きていることを発信していく必要がある、また自分自身のシビックテックに関する知識の少なさや乏しい語学力(Google翻訳無しで会話したい…)もなんとかしたいと思ったので、勉強も兼ねて気になった海外の翻訳記事を時々ポストさせていただくことにしました。翻訳を中心に、自分の意見も少し入れていきたいと思います。

ポストに関して、僕なりにシビックテックの面白さや重要性、解決すべき問題点などを伝えられるものにしたいと思っていますが、シビックテックは「こうあるべき」とか「こうでなければいけない」といったルールが決まっておらず、僕はその多様性がこの活動の面白いところだと思っています。ですので僕の発信する情報やWeb上の情報に固執せず、皆さん自身が自分の暮らす地域のために「自分ならこんなことができるな」とか「こんなことしてみたいな」といったことを考えるきっかけにしてもらえれば幸いです。

また、先ほども少し書きましたが、英語はあまり得意な方ではなくシビックテックに関しても間違った解釈をしている部分があるかもしれませんので、翻訳内容の間違いや感想などがあればお気軽にコメントをいただければ嬉しいです。

今回翻訳した記事

Civic Hackathons: Innovation, Procurement, or Civic Engagement?

翻訳を経ての感想

この記事を和訳する中で最も驚いたのは、シビックテック先進地域と言われる米国でも日本と同じように、「目に見える利益を生み出していない」というシビックテックに関する課題を抱えていたことでした。僕自身これまで米国の取り組みに対して、どうすればうまく行っている部分を取り入れることができるかという表面的な視点でしか見ることができていなかったように感じます。これからは米国で行われている先進的な取り組みは様々な失敗の積み重ねでできてきたものであるということ、現在も模索している部分があるということを念頭に置き、結果や概要だけでなく構造やプロセスに着目して米国の取り組みを学んでいきたいと思います。

翻訳内容

Abstract

At all levels, governments around the world are moving toward the provision of open data, that is, the direct provision to citizens, the private sector, and other third parties, of raw government datasets, controlled by a relatively permissible license.

世界中の様々な階層の政府は市民に直接提供や,民間部門,またその他の第三者へ向けてなど自分たちが持つ生のデータ群を,相対的に許されるライセンスによって管理された形でオープンデータとして公開する方向へ動いている.

In tandem with this distribution of open data is the promotion of civic hackathons, or “app contests” by government.

オープンデータの流通と連携して広まっているのが,政府によるシビックハッカソンやアプリコンテストである.

The civic hackathon is designed to offer prize money to developers as a way to spur innovative use of open data, more specifically the creation of commercial software applications that deliver services to citizens.

シビックハッカソンは, 開発者が市民にサービスを届けるアプリケーションの作成などといったオープンデータの革新的な用途を見出すことに拍車をかけるため,賞金を提供する.

Within this context, we propose that the civic hackathon has the potential to act in multiple ways, possibly as a backdoor to the traditional government procurement process, and as a form of civic engagement.

こうした中で,私たちはシビックハッカソンにはおそらく従来の政府の調達プロセスの裏口や市民参画の形といった様々な用途で利用できる可能性があることを提案する.

We move beyond much of the hype of civic hackathons, critically framing an approach to understanding civic hackathons through these two lenses.

私たちはこれらの2つのレンズを通した枠組みハッカソンを理解するアプローチを行うことで,多くの誇大な宣伝を超えて動く.

Key questions for future research emphasize the emerging, and important, nature of this research path.

将来の研究の鍵となる質問は,新しく重要なこの研究経路の性質を強調している.

Summary

Conclusion(この論文の結論)

シビックハッカソンが革新的な政府の新たな獲得手段または市民参画活動となるためにはその効果を実証するための研究が必要である.

Evidence&Logic(結論を示す証拠と理論)

ハッカソンは革新的な活動であると近年ブームになっている一方で,その効果を証明する研究が無い.

ハッカソンで生まれた成果が政府の既存のサービスに取って代わった例が無い.

Premise(論文を通して著者が伝えたいことについての考察)

政府がオープンデータ戦略を進める手段の一つとしてシビックハッカソンを用い続けるのであれば,現在の根拠のない人気や可能性が持つ危険性を把握し,その効果を実証するための研究を行うべきである.

Introduction

オープンデータとシビックハッカソンに関する政府の動き

背景

世界中のあらゆる国・自治体などの政府が市民の開発コミュニティを雇い,オープンデータを用いたアプリ制作コンテスト等のイベントを実施している

政府はデータの提供により新たなアプリが生まれ,政府と市民の関係性が改善されること,それにより透明でオープンな政治を実現することを狙っている

現状

シビックハッカソンは研究対象としての注目を浴びていない事例である.

特に現在までハッカソンイベントの短期利益と長期の意味を評価して観察するような立ち位置の研究はほとんど無い.

問題提起

このイベントの未来を考えた時,いくつかの疑問が生まれる.

  • ハッカソンは,政府がアイデアを獲得するために行ってきた伝統的な手段と比較し,役立つものなのか(政府はシビックハッカソンに大きな投資をしている)
  • 生まれたアイデアが本当に政府のサービスに影響を及ぼすのか
  • ハッカソンへの参加や,そこで生まれたサービスを使うことにより,政府と市民との関係性に何か影響が出るのか.

本稿の概要

「資源の獲得」と「市民との関係」という対のレンズを通して市民のハッカソンへの評価を提示する.

この2つの軸の間で評価を行うことにより,急速に広がっている市民のハッカソン熱の先にある未来へ向けた,キーとなるものの軌道を確認する.

Characterizing Open Data and Civic Hackathons

オープンデータの概要

インターネットの日常生活の中での偏在性が高まったことにより政府と市民間の取引がオンラインに移行し,電子行政(e-government)が進歩した.

政府のオープンデータとは

政府が集めた生のデータから不純物を取り除いてパッケージ化したもの

自由に利活用できなければオープンデータではない

政府がかつてクローズにしていた情報を市民と共有すること

Open Knowledge Foundation によるオープンデータの宣言書

利用する人は誰でも入手自由であり望む時にはいつでも再利用,再発行でき,その活動を許可する明白なオープンライセンスで管理されている必要がある

データ出どころの近くで頻繁に集められ,オートメーション化した処理ができ,登録商標のフォーマットが自由である必要がある

オープンデータは既存の電子政府発議とオンラインのサービスに透明性を付与する

シビックテックの高まり

オープンデータを提供した多くの政府に対して,技術者たちはデータを用いたアプリを作成し市民の役に立つサービスを作ることで応えた

そうした動きと近年のモバイルアプリの爆発的な普及により,シビックハッカソンの人気が高まってきた

シビックハッカソンについて

概要

内容:特定の場所,限られた時間の中で行政職員やエンジニア,一般市民が政府のオープンデータにアクセスし共同で作業を行う.

ゴール:市民が抱える問題を解決するものを開発し,オープンデータを推進すること

扱う問題:現実にある特定の問題またはテーマ

  • 後援している政府が必要とするアプリの開発に参加者を巻き込むため

問題点

「民主主義のためのハッカソン」(2008.ワシントンD.C)

  • 初めて行われた大規模なシビックハッカソン
  • 50000ドルの費用に対して2300000ドルの利益が生み出された(同じソフトウェアを民間企業が作ったときの費用との比較)

実際にサービス化されたわけではない

  • 長期的な影響,利点,継続性は現在でも不明なまま

世界規模での広がり

パキスタンのペルシャワル

  • 「ハッカソンは民間部門にテクノロジー革新を起こすことにより新しい技術の学び,知的な人々との出会い,都市の利益をもたらす」

サンフランシスコ

  • 健康,住宅,教育と民主主義の質に関する公的なデータを使用

Civic Hackathons as Procurement

政府の狙いと現状の成果

狙い

サービス提供における政府のコストを減らす

参加者が起業家としての価値を見出すきっかけとなる

ソフトウェア関連の経済発展につながる

→「オープンデータは政府の立場を,サービスの提供者から,プラットフォームを提供する自由論者へと変えるであろう

現状

多くの成果物が製品化されず経済価値を生み出さないまま残されている

シビックハッカソンの持つ可能性

政府のデータを用いた,政府自身が管理をする必要のないサービスが生まれ,成長していく可能性がある

政府が技術やソフトウェアを用いることを外部に委託することが容易になる.

  • 参加者に賞金を払って成果を得るやり方は政府にとって革新的なのか
  • 革新的であるという可能性に捕らわれているのではないか

これまでハッカソンによって生み出されたものが,政府が実際に作ったサービスの代替となった例は無いが,今後生まれる可能性がないとは言い切れない

シビックハッカソンへの疑問

現状を踏まえると,シビックハッカソンに政府が獲得を行うための非公式な手段となる可能性があるかどうか問う必要がある.

政府のサービスとして持続可能なものであるかどうか(比較の必要性)

  • 費用,監視の必要性,信頼性

この問いには,誰が成果物に関する利益を得るかという問いが内在している

  • 参加者の労働に対する「公平な」報酬

ビジネスモデルからみた問題点

民間には,ビジネスモデルが外注されたものである多くのベンチャー企業が存在する.

アイデアの共有と価値

  • 契約により知的所有権の保持を行う代わりに,マーケットでアイデアを共有する
  • Dandyの例(起業家によりアイデアの質を上げ,マーケットに出す)

ハッカソンにおいて政府が果たすべき責務について

  • 市民はアイデアが表に出ないリスクを冒して参加している
  • それらを招集する政府が果たすべき責任は何か

→参加者の努力に対する補償,参加者の存在価値

シビックハッカソンが持つ危険性

シビックハッカソンをする上で,利益について考える必要がある

  • 誰がどんな形で得るのか
  • 均一に共有されるものなのか
  • 非現実的な利益予測になっていないか

シビックハッカソンは,政府が真面目な市民から不相応な経済価値を不当に引き出す「仮想搾取工場」になりつつあるという危険性がある

Hackathons as Civic Engagement

市民参画活動としてのシビックハッカソン

政府はシビックハッカソンを市民参画活動にするため,以下の方法を使っている

  • 参加型イベントの主催
  • 市民が政府のデータを用いて,自らが使用するためのアプリを設計する

シビックハッカソンを「市民参加」または「市民社会参画活動」とするとするための定義が近年作られている.

  • 「シビックハッキングは市民権の行為として市民によって都市で行われる,新たなツールや手法で地方政府の仕組みや過程を素早く改善する活動である」
  • シビックハッキングは新たな市民参画活動として普及している

市民参加の核となる価値・目標

シビックハッカソンには,市民自身が評価するための多くの指標が必要である

国際交流協会が作成した「市民参加を進める上での核となる7つの価値」

  1. 決定によって影響を受ける人は決定するプロセスの中に含まれる権利がある
  2. 市民の貢献が決定に影響を及ぼすという契約を含んでいる
  3. 全ての参加者のニーズと興味を知り,伝えることで持続可能な決定を促進する
  4. 決定により影響を受ける,もしくは決定に関心を持つ人の参加を促進する
  5. 参加者自らが参加の仕方を設計,提案する
  6. 参加者は意味のある方向で参加するために必要な情報を受け取る
  7. 参加者に対し,彼らの意見がどう決定に影響を及ぼしたのかを伝える

市民参画の視点で見たシビックハッカソン

シビックハッカソンが最も強くフィットするのは価値6である

シビックハッカソンが市民参画活動ならば,その価値を全て満たしているはずである.

指標を満たしているかどうかの確認

  • もし参加者が地方の人間だった場合,参加者にとってより直接的な問題の解決につながる可能性(価値1.4)や,作られたアプリを通して彼ら自身の社会参画の仕方を多用にする可能性(価値5)がある
  • もし作られたアプリが使用されるのであれば,参加者は未来の決定に影響を及ぼしたことになり(価値2),参加者は自分たちの成果が及ぼす未来への影響を直接見ることができる(価値7).
  • 彼らの成果が社会に長期的なインパクトを残すものであるか,それとも短期的な「曲芸」に過ぎないのかは不透明である(価値3)

データを公開する多忙さや雑多な興味から,データや成果物の価値に対する考慮や評価が失われていないだろうか

市民参画の視点からの研究の必要性

ハッカソンを,データの公開や市民参加の向上に活用することは決して簡単なことでも,直接的なことでもない.

この疑問は「現在や未来の市民社会参画の実践にとって効果的で価値のあるツールである」というシビックハッカソンの立ち位置に多くの懸念を生む.

現在政府は様々な場面で市民参画を進めているという背景があるため,ハッカソンが今後市民参画のツールとなるためには,より慎重に調査を行う現実的な必要性がある.

市民参加型予算など,その他の社会参画活動と同様の評価プロセスが利用可能

  • 誰がなぜ参加したのかを調べることで,参加者の性質と動機を分析する
  • イベントの参加者が政府との結びつきが強くなったことを実感したか調べることで,ハッカソンが持つ影響力を評価する
  • それらを時間経過とともにたどることによって,持続性を調べる

Conclusions

ハッカソンに対する世間の評価

ハッカソンはもはや目新しいものではなくなった

ハッカソンに関して批判的な意見が出る場が増えてきた

  • 大衆紙での「シビックハッカソンは馬鹿げているか?」という議論
  • 学術的な研究の欠如により議論が水掛け論になっている

ハッカソンに関して行うべき調査

ハッカソンの持続と成長のため,その影響や成果,将来性を評価する研究が必要である

記述統計学を用いる方法の提案(「low-hanging-fruit」調査)

  • 開発されるアプリや参加者の種類と人数,メディアを通した報道

調達や報酬といった要素がハッカソンにあることが明らかになれば,ハッカソンへの注目が正当化される

市民参画を進めるという曖昧な可能性より,政府と市民間の関係性に影響を与える可能性に焦点を絞って調査をするべきである

ハッカソンは市民にとってニーズに応えて利益のあるものを生み出さなければならないが,現状では実装や評価が,限られた時間に生み出されるものに終止している

設計と実装の間のギャップを埋め,ハッカソンの成果を時間とともに追跡することが重要である

シビックハッカソンで生み出される成果がイベントの枠を超えて価値のあるものでなければ,政府は市民を使って不誠実な従事活動を行なっていると見なされ,今後行われる新たな活動に参加したいと思う欲求を市民が無くしてしまう危険性がある.

全体のまとめ

ハッカソンについてその短期・長期両方の影響をたどる研究が必要である

この研究は政府がこのイベントを,市民参画を促進するために計画しているということも踏まえなければならない

ハッカソンによって市民や政府が得る価値に関する疑問に答えることや,成果の時間的な変化をたどることで,それが市民の期待に応え,政府と市民の間の関係性を変える革新的な手段であるか,それとも単なる曲芸に過ぎないのかを識別することができる.

たとえハッカソンが現在人気のあるイベントだとしても,主催者と参加者が余興と意味のある機会とを識別するために,さらなる研究が必要である.

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