職 員 の 数 だ け 、働 き 方 改 革

Hiroki Sunagawa
Code for Japan
Published in
9 min readDec 16, 2017

Code for Japanを通じて、神戸市役所で約3年間の任期付職員として働き始めたのが今年の7月3日。早いもので、もう半年です。

CfJ関さんから「半年間の振り返りの意味で、Civic Tech Advent Calendar書きませんか?」と勧められたのが3週間ほど前の定例ミーティング。早いもので、気づけば今日が締め切りです。

せっかくの機会をいただいたということで、私がいま神戸市役所で取り組んでいる”働き方改革”と呼ばれる取り組みについてご紹介しようと思います。

地方自治体で働くということ

政府主導でバズワード的に使われている”働き方改革”。私が神戸市役所でやるべきことは、職員の方々の職場満足度を高めることで、結果として市民サービスの向上を目指し、さらにその取り組みを地域全体にも波及させることです。

“これから市役所の仕事が減っていくことは基本的にないし、日々の膨大な仕事に忙殺されている職員のあいだには閉塞感が漂っている”

これは私が採用される直前に、上司にあたる方が仰った一言です。

「ブロックチェーン(スマートコントラクト)と、ベーシックインカムがあったら自治体ってほとんどいらないよね〜」と考えていた北欧かぶれの私は、「またまた〜。役所の仕事ってクラウドサービス使えば、ほぼほぼ自動化できるでしょ」と上司の言葉に対して(頭の中で)ツッコミを入れたことを覚えています。

しかしながらご想像の通り、現場で必要とされるのはそんな机上の空論ではないことを思い知らされます。実際に配属されてみた時の衝撃は、初めて吉田寮を見た時の衝撃に近いものがありました。

「膨大な紙の資料から、目当ての情報を必死に探しだす若者」

「紙資料とゴミ(のように見える何か)で埋め尽くされた暗いオフィス」

「いつも忙しそうな隣の人。何しているかはみんなよくわかっていない」

「情報を提供する側が、伝えたい情報を乱暴に羅列するイントラ」

「固定電話がひたすら鳴り響くオフィス。〇〇課長はただいま不在にしております、と繰り返す人力の留守番電話」

「インターネット分離という名の、情報隔離措置(中国人留学生が、国に帰ったらfacebook使うのにVMware使わなきゃダメなんだよー、と言っていたことを思い出す)」

その他にも色々と驚いたことは多々あり、同時期にCfJのフェローとして神戸市役所に派遣されたYahooの高橋さんと驚きを共有したものです。

神戸市役所で起こっていること

当初私たちが思い込んでいたのは「職員の方々は、自分たちが盲目的にやっている非効率な業務を、課題として認識できていないのではないか」という仮説でした。そのため、”future language”という手法を使ったワークショップを開催し、職員の方々に今の職場の課題を認識してもらい、理想の働き方を実現するために取るべき解決策を検討してもらいました。

それはそれなりに意味のあることだったと思います。ただ、成果の発表を聞いた市長からは「まだまだ批評家のレベルです。当事者意識が足りませんね」という手厳しいコメント。仰る通り、ワークショップの結果を以って、明日から何か具体的なアクションを起こせるかというと、少し物足りないことは明らかでした。

ワークショップの反省会を実施し、さらに、多くの職員の方々や、私が師と仰ぐ人たちとお話することで、私たちが解決すべき課題はもう少し根本的な、別の所にもあることに気づきはじめました。

  1. いまの働き方の課題とそれを解決する方法はなんとなく分かっているけど、今までのやり方を変えるにはとてつもない苦労が生じるので、自分から動く熱量はない。
  2. 上から押し付けられる働き方改革案は、ワクワクしないし、楽しくない。自分が何かやるべきだとも思わない。そもそも、何のために働き方改革をするのか、共感できない。

ざっくりいうと、上記の2点が神戸市役所で起こっている根本的な課題な気がしています。(2017年12月時点)。

これは何も働き方改革だけに限ったことではなく、役所や大企業の至るところで見られる光景だと思います。業務のオペレーションが高度に発達した組織においては、個人の意思や意欲を尊重することは組織の不確実性に繋がるため、これまでは極力排除されてきたわけです。それが、”トップダウンと忖度”、”延々と続く決裁”、”強すぎる現状維持バイアス”などに繋がっている気がします。

それがいきなり「働き方改革だ!個人の働き方に多様性を!」などと言われても、組織はついていけないわけです。

神戸市役所でやろうとしていること

そんなことを言っても、私は自分の仕事を全うしなければなりません。何とかして神戸市役所を前進させるために、私は雇われているわけです。各部門の個別の業務改善を日々の仕事としてやりつつ、先ほどの大きな課題に対しては以下の方法を取っています。

  1. 試行という名目で、どんどんプロトタイプを作って持って行く。そして誰でもプロトタイプが作れる環境(クラウド環境)を着々と整備
  2. 職員の方々が、思わず参加したくなるような働き方改革のブランディング

1.については、Civic Tech関係の方々ならご存知の通り、昨今のICT環境があればエンジニアでなくても比較的簡単かつ安価(ほぼタダ)で業務を効率化できるツールのプロトタイプは作れるわけです。プロトタイプを用いて業務の改善を”体験”できる準備ができたら、あとはみんなに体験してもらうだけ。

「今までのやり方を変える」ことはひとりではものすごく大変です。ただ、仲間がいれば心強いものです。信じられないほど水を吸うタオルを目の前で見せられたら、ついつい買ってしまって友達にも勧めるのが人間の性。プロトタイプは実演販売みたいなものです。

今後は、自分たちで実演販売ができる人を増やすべく、その環境を整えていくのが私たちの仕事です。

2.については、私の友人のデザイナーが語った下記の言葉が全てです。

人間は、本能的な欲求や快楽を満たしてくれそうなものに惹かれる

つまり、働き方改革に取り組むことが欲求や快楽に繋がることを伝えて行くことが大切なんだと思います。例えば、以下のようなことでしょうか。

「もっと寝たい。在宅勤務だったら、通勤時間のぶんだけ余計に寝れる」
「もっと褒められたい。自分で考えたアイデアを実行してみよう」
「もっと人と繋がりたい。職場の人に、どんどんありがとうと言ってみよう」

これらは職員ひとり一人違う考えを持っているはずです。なので私たちは「職員の数だけ、働き方改革」というコピーのもと、職員の方々が出演するおもしろポスターや、読みたくなる文章の庁内ブログ、どう転ぶか分からない民間コラボなどのブランディング活動に取り組んでいます。

イントラ内の働き方改革 庁内ブログ

前のめりに参加するから、楽しい

Not Invented Here(NIH)”という言葉をご存知でしょうか?

端的に言うと「俺の知らないとこで作られたものなんて使わないよ」という自前主義を指します。「そんな話、俺は聞いてない」と拗ねてしまうオジさんも広い意味でNIHに当たる気がします。

これの逆をいくのが、Co-Designサービスデザインの基本的発想であり、人を巻き込むことでよりよいサービスを生み出していくことを目的としています。昨今Civic Tech界隈でもよく聞かれるようになってきており、特にパブリックセクターにおいては世界的に流行っている手法です。

私もしれっとサービスデザイン的な要素を盛り込みながらプロジェクトを進めています。その一例がオフィスレイアウト改善プロジェクト。ただし、流行りのオフィスレイアウトにすることが主目的ではありません。

  • 普段は自分で何かを決めることが少ない若手が、自分たちで意思決定をしながらプロジェクトを回す機会をつくること
  • 職場の誰もが話題にしやすいトピックを提供すること
  • 目に見える形で働き方改革を進めていくこと
  • 自分たちだけでなく、職場を訪れる人たちの気持ちを考えてみること

以上が私たちのオフィスレイアウト変更の目的なわけです。若手の有志には何かしらの手段で普段の業務を1~2時間/週ほど効率化してもらった上で、業者に頼むよりもかなり面倒なやり方(自分たちでアイデアを考え、都度職場の人たちに理由を説明し、意見を聞いて回る)を取ってもらっています。

不思議なもので、最初は私のことを「お手並み拝見」とばかりに冷ややかに構えていた若手や他の職員も、徐々に自分たちが関わっていくことで、(そして、意見の対立があったりしながら)明らかに前のめりになってきているようです。私の上司も「〇〇君がこんなにしっかりした子だと思わなかった。彼の真摯な態度は、すごく頼もしい。」と呟いていました。まだプロジェクトメンバーにアンケートを取っていませんが、横から見ている限り楽しそうにやっています。

最近導入した格安スタンディングデスクでの打ち合わせ

これから

以上が私が神戸市役所で取り組んでいる活動の紹介でした。ワークショップの件もそうですが、この半年は思ったよりうまくいかなかったことがほとんどです。今も、とある案件で予想外のNGを食らっていたりします。とは言え、そういった試行を繰り返すことでしか、今までのやり方を打破することはできないのも事実です。こういった取り組みの自治体カンファレンスなんか面白いかもしれないですね。

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Hiroki Sunagawa
Code for Japan

Born in Kobe, Japan. Kyoto University→Panasonic→Aalto University in Finland→City of Kobe→Code for Japan. Embedded Engineer/ICT Strategist/Service Designer.