帰還が始まった浪江町でのマッピングパーティ

Hal Seki
Code for Japan
Published in
11 min readJun 5, 2017

浪江町の今を知り、今後のまちづくりについて考えるワークショップ

週末(6月3日〜4日)、Code for Japan で4年以上支援を続けている福島県浪江町で、地図を使ったワークショップ「マッピングパーティ」を実施してきました。

マッピングパーティとは、OpenStreetMap や LocalWiki、WikpediaTown といった地図を使ったワークショップで使われる言葉で、一般的には町の情報をデジタル地図やWikiといったオンラインツールを使って記録していくワークショップのことを指しています。今回の記事では、マッピングパーティの狙いや結果について、レポートいたします。

浪江町マッピングパーティ〜今こそ地図が必要だ〜

今回、イベントを企画するにあたり定めた目的や概要は以下のようなものです。

<企画の目的>
・浪江町の最新状況をデジタル地図上に反映させ、「今の」浪江町の地図を作る
・GISを使って、町が抱える課題(住民の生活状況の可視化、農業、漁業再開など)をどのように解決できるか、専門家のアイデアを貰う
・浪江町を応援したい外部のクリエイターと浪江町で積極的に活動している人達を繋ぎ、今後のプロジェクトの種を作る

<企画概要>
多くのネット上の地図では、双葉郡周辺の地図は被災前の状況のまま、時を止めてしまっています。通れないはずの道路も、営業をしていないショッピングセンターも、生徒がいない学校もそのまま残されています。しかし、街は時を止めていません。多くの場所で立ち入り制限は解除され、農業、漁業、商店も再開を始めています。
一方、今の地図のままでは営業再開したお店は探せません。
これからの街を作るには、いつまでも時を止めた地図のままではなく、「今」の地図を作る必要があります。
街のこれからを考える人と、GISの力を信じる人達が力を合わせ、今の浪江町の地図を作りましょう。これから街への帰還を考えている人や、街づくりを考える役場やコミュニティの人達が使える地図を。
さらに、その地図を使い解決できそうな町の課題について、皆でアイデアを出しましょう。

<具体的な内容>

1日目

  • OpenStreetMap, LocalWiki などの、「みんなで作る地図」について解説
  • OSM/LocalWiki 2班づつ4班に分けて街歩きを実施して調査
  • 調査結果を元にOSMとLocalWikiを更新
  • 町に関して話し合いたいことのアイデアを出す

2日目

  • 「フューチャーランゲージ」セッション
    まちの未来、現在の課題を洗い出し、課題と未来をつなぐアイデアを出し、「アクションプランのコンセプト」を作り出す
  • 地図を使ったワーク
    フューチャーランゲージセッションで出したアクションプランを、町の地図の上に具体的に表現する
  • 成果発表

参加者は、30名程度。町役場や地元住民が10名、外からの参加者が20名程度でした。

浪江町について知る

浪江町役場 清水中さんの発表

まず、浪江町の歴史や、震災の影響などについて、浪江町役場の方からお話してもらいました。かなり古くから浪江町の歴史を紐解いてもらいましたが、独特の語り口に会場は笑いの渦でした。地図好きは歴史についても好きな事が多いので、楽しくお話を伺えたと思います。

なぜOpenStreetMapを使うのか?

次に、OpenStreetMap Foundation Japan の飯田さんより、OpenStreetMapやLocalWiki、Wikipedia Townといったツールについての解説をしてもらいました。

OSMFJ飯田さん

公共測量というのは各地域の視点で見ると概ね5年間毎に更新をされています。その測量結果を基にした現在の商用地図も、それに引きずられてしまいます。見る人が多く商業的にも更新をすることに価値がある都会の場合は商用地図を提供する企業の調査による更新で最新の地図が保たれますが、離島や地方都市など、人口が少ない地域では、頻繁には更新されません。最近避難指示が解除されたような浪江町の場合は、多くの商用地図は震災前の状態のまま止まっています。また、商用地図はライセンスの制約が厳しく、実は印刷しての書き込みや配布について制限があったり、地図に書かれた地物のデータそのものは使えないことが多いです。

それに対し、OpenStreetMap は自由に使えると同時に、自由に編集を行うことができます。しかも、自分たちの町のことは、そこに住んでいる人が一番くわしいのです。ちょっとずつでいいから、みんなが町の地図を更新できるようになれば、いつでも最新の地図を使うことができます。これからどんどん町並みが変化していくであろう浪江町のような状況にはピッタリですね。

台湾のOSMコミュニティが言っていたことだそう。自分たちの地図は自分たちで書く

ちなみに飯田さんは、イベント開催が決まってから、毎日早朝の1時間を使って浪江町の地図を更新し続けてくれました。感謝。

LocalWikiとは何なのか?

さて、続いては、北海道森町の行政アーティスト、山形さんからのインプット。山形さんは森町の職員でありつつ、「ハウモリ」という、「ワクワク」×「IT」×「街」を提案するコミュニティでも活動している方です。

森町の山形さん。エモいぷプレゼンで一部で人気

ハウモリではLocalWikiを活用しているということで、LocalWikiを中心に解説をしてもらいました。LocalWiki は Wikipediaに似た仕組みで、ローカル情報に特化したWikiツールです。誰でも自由に、ローカル情報を書き込むことができるようになっています。日本の中では、室蘭市がかなり充実した情報を誇っています。

LocalWiki と、OpenStreetMap や Wikipedia との大きな違いは、「主観を入れられる事。」OpenStreetMap には事実情報しか書き込めませんし、Wikipedia には出典の明示など様々な制約があります。それに対し、LocalWiki にはほとんどルールはありません。主観的な情報が入れ放題なわけです。街への愛さえあれば、個人的な思いを綴ることができます。

一番重要なのは、街への愛。
史実はウィキペディアに書く

Drone による空撮

また、イベント前日に青山学院大学/DRONEBIRDの古橋さんにお願いしていた、ドローンによる浪江町の空撮についても解説をしてもらいました。

古橋先生

ドローンを使い撮影されたデータはGithub に公開され、マッピングの下地として使えるようにしていただきました。

撮影された画像群

楽しい街歩き

一通り説明を聞いたあと、OSM,LocalWikiそれぞれ2チームづつ計4チームに分かれて作戦会議をしたあと、いよいよ街歩きの開始です。

とっても良い天気でした!

OSMチームはお店の情報を調べたり、Mapillary というツールを使って写真を撮ったりといったことを行っていました。LocalWikiチームは、記事になりそうなネタ探しと取材です。

良かったのは、地元にとても詳しい方や、役場の職員が一緒に歩いてくれたこと。「昔はここの橋の上からモリを突き刺して、鮭を取れたんだよ」とか、「ここの場所の地名の由来はね」なんていった具合で、町のストーリーを山ほど聞くことができました。まちの再生にあたっての課題なども聞けて、Code for Japan としても参考になる話がたくさん。

マッピングパーティをやる際は、地元のお年寄りやボランティアガイドなど、その土地に詳しい人をチームに入れることをおすすめします。それによって、ただの何気ない橋やあぜ道が、ストーリーの宝庫になります。

楽しい編集作業

街歩きから帰ってきたら、いよいよ編集作業です。OSMの編集ツールには、iD エディタやJOSMといったツールがありますが、初心者でもGIS好きメンバーがやさしくやり方を教えてくれます。全員が編集をするわけでもなく、町の人が詳しい情報を伝えて、書ける人が書くということもよくやります。また、Mapillary のアップロードなども行います。少なくても、浪江においては、Google Maps より OpenStreetMapの地図を使う方が迷わないというレベルにはなりました。

かなり詳細になった浪江町のOpenStreetMap

一方、LocalWikiチームは編集会議を行い、サイトのカテゴリ分けや入れるべきストーリーを決めていきながら、実際に記事を書いていきます。OpenStreetMapに比べると、ブログを書くくらいの手軽さで記事がかけるので、何人かが実際にアカウントを取って書き込んでいました。

浪江町 LocalWiki

実際に、その場で浪江町のLocalWi が生まれ、いくつかの記事が掲載されました。

2日目:フューチャーランゲージ & 地図!

翌日はアイデアソンです。前日にあらかじめ出してもらった話し合いたいことを元に4チームを作り、将来の町の理想の姿をディスカッションしました。

2日目の模様

フューチャーランゲージという手法をつかって、未来のイメージと現在の課題、それを繋げるアクションと、「そのアクションのコンセプト」を決めていきます。

フューチャーランゲージ
みなさん活発に議論していました

そして、掘り下げたいコンセプトを決めたら、前日作ったOSMの地図を大きく印刷したものを活用し、イメージを膨らませていきました。

レゴなんかも使いながら

最後に、できあがった町のプランを発表して、フィードバックを出し合って終了しました。

発表シーン

地図とまちづくりのアイデア出しは相性が良い

今回わかったのは、マッピングパーティとフューチャーランゲージ、地図を使ったワークのが相性が良いこと。町の人と街歩きを行うことで、さまざまな気付きや情報が入ってきます。そして、翌日に未来を考える際にも、地図を下敷きにして考えると、かなり具体的なアクションプランが導き出せます。

今回のワークショップを通じて、ポジティブで引き出しの多い様々な人達と、町を本気で変えたい浪江町の人達が繋がりました。出てきたいくつかのアイデアは、役場としても実行に向けて検討をしています。しかし、いくらワークショップをやってアイデアをだしても、主体的に動いて解決をしていく人がいなければ意味がありません。Code for Japan も動きますが、次回は更に多くの町民に参加してもらいたいと思いました。

浪江町のまちづくりに関しては、まだまだ解決しなければならないことが山ほどありますが、明るいニュースもあります。浪江町は「なんでもチャレンジできる町」になろうとしています。浪江町にCode for Japan派遣してきたフェロー(外部人材)も、いよいよ3代目となります。一緒にチャレンジしたいかたはぜひご連絡ください。

また浪江町でのワークショップは開催したいと思いますので、ご興味を持った方はぜひご連絡いただければと思います。

最後になりますが、準備いただいたOSMやGIS関連のスペシャリストの皆様、町の方々、役場の方々、本当にありがとうございました!

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