Code for Numazuレポート(1)地域のハブとしての役割と苦労、Code for Youthの活動における学び

Shota Onishi
Code for Youth
Published in
13 min readDec 4, 2017

こんにちは!Code for Youthの大西です。先日、静岡県沼津市を拠点に活動するCode for Numazuの市川さんご夫妻にお声がけいただき、11月17–19日の3日間、沼津市に出張をしてきました。そこで見たもの、学んだもの、考えたことについて、メンバーが順番にCode for Youthの出張レポートとして書いていきたいと思います。

第一弾は初日に参加した、自治体の方との打ち合わせとウィキペディアタウンについてのレポートを書かせていただきます。よろしくお願いいたします。

Code for Numazuの活動に参加した経緯

僕は現在大学院でシビックテックコミュニティにおける技術者と非技術者の協働に関する調査をしています。

その経緯で各地のシビックテックコミュニティの方とお話をさせていただくことが何度かありCode for Youth発足前からCode for Numazu代表者の市川さんとの面識がありました。

そして、Code for Youthを立ち上げ(立ち上げの経緯については https://ubi-s13.naist.jp/ubistpage/ubiblog/archives/2670 をご覧ください)、これからどんな活動をしていこうかとメンバーで話し合っているタイミングで市川さんからお声がけしていただいたため、出張Youthとして11月17–19日に静岡県沼津市でCode for Numazuの活動見学とイベントへの参加をさせていただきました。

自治体の方とのやりとり

まず、見せていただいたのは次の日に開催される予定だったハッカソンについての沼津市情報政策課の方との打ち合わせと、まちづくり政策課の方との今後の活動に関するディスカッションの現場でした。

情報政策課の方々のとの打ち合わせ

情報政策課の方との打ち合わせでは、毎年決められた予算で活動しなければいけない自治体とシビックテックコミュニティとの協働の難しさを垣間見ることができました。ここで最も学びになったのは、自治体とシビックテックコミュニティという活動のスピード感も内容も異なる2つの組織の方々の「お互いに歩み寄る議論」を見ることができたことでした。シビックテックコミュニティがやりたいことがどんなに論理的で正しくても、自治体が出せる予算は決まっており、企画をして予算を通して…とやっていると1年くらいの時間がかかってしまいます。しかしそうした状況に対して不満や意見を言うのではなく、それを受け入れ議論を進めて行くCode for Numazu代表の市川さんの姿勢、それに対して自治体の方もどの部分に協力できるかという現実的な視点から議論をするという「歩み寄りの時間」は、シビックテックと自治体との協業の重要な一部分であると感じました。

自治体の方への質問

ここでは、せっかくの機会ということでCode for Youthから行政の方に向けていくつか質問もさせていただきました。それらをQA方式で示します。

Q. 沼津市がオープンデータに取り組むようになった背景を教えてください。

A. 元々は国が官民データのオープン化を進めていく中で、沼津市もしなければという意識はあったが、なかなか手が回っていませんでした。また大学などのオープンデータ公開の推進力となるアクターが沼津市にいませんでした。そうした中で、Code for Numazuが声をあげ、オープンデータ化が始まりました。そうした意味では、Code for Numazuは他の地域での学校の役割を果たしています

Q. 町中に市が作っているチラシがたくさんありましたが、なぜ紙媒体を使うのですか?

A. 市民の中にはウェブを使えない人が多くいるため、そうした人に対応する必要があります。広告紙やチラシがあまり宣伝効果を持たないことはわかっているますが、市民のことを思うと仕方がありません。

Q. 行政の中でのオープンデータやシビックテックに対する理解をどうやって深めているのですか?

A. 行政は予算で動いているため、基本的に予算が無い活動はすぐにはできません。そのため、シビックテックコミュニティと行政との相談を早くから行い、距離を縮めるところからはじめました。また議員さんと一緒に活動していくということも重要です。

Q. 行政の方にとってシビックテックの価値は何ですか?

A. 市民との対話の場が生まれるところです。以前も東京大学が千葉レポやfix my streetの沼津版を作成したことがあります。現状はまずはスモールスタート、それから全町的に展開していくという流れで行いたいと思っています。

まちづくり政策課の方との会議

次に見学させていただいたまちづくり政策課の方とのディスカッションでは、これまでの活動の報告と分析、そして次のアクションプランを練るというかなり早い展開での議論がされていました。ウィキペディアタウンと教育を絡める話や市川さんが各地でされている活動やその結果の分析など、個別にたくさんの参考になるお話がありましたが、最も大きな学びになったのは、実際に活動して実績を積んでいるから話を展開できるという「成果の裏づけ」が話の中に多く含まれていたということでした。自治体の方とオープンデータやシビックテックに関するお話をさせていただく際にとてもよく聞くのが、「うまくいくかわからないのでできない」という意見です。市民の予算を使うという大きな責任の伴う自治体にとって、うまくいく確証のない活動に参加しない・できないというのは仕方がないことだと思います。今回の議論ではそうした部分を多くの実績による裏づけでクリアしていたことに感銘を受けました。地域とともに活動する、それによって自治体を動かし、地域を動かすということを実際に現場で行なっておられるところを見せていただいたことで、活動に対する僕自身のモチベーションも大きく向上しました。

自治体は予算や地域に対しての影響力、シビックテックコミュニティはフットワークと市民ならではのニーズとアイデアというそれぞれにない強みを持っている一方で、それらを掛け合わせることはとても難しいということ、そして掛け合わせることによって発揮される力や可能性を感じることができた時間でした。

ウィキペディアタウン

初日の夜には、沼津市のウィキペディアタウンに参加させていただきました。今回のウィキペディアタウンは沼津市の図書館に置いてある郷土史の情報を元に古墳の情報に関するウィキペディアの情報を編集するというものでした。ウィキペディアタウンへの参加を通して学んだことは大きく分けると2つあります。

1つ目は、デジタルデータ作成の意義です。今回のイベントで郷土史を読んだ際に、ページが古くなって文字が見えづらくなっている箇所や、破れている箇所などが多く見つかりました。「本」という形で保存されていた情報をデジタルアーカイブに移すというデータの整備を早くしなければ、貴重な情報が消えてしまう、今はそういう時代になっているのだということを作業を通じて痛感しました。また、シビックテックはアプリやサービスを作る活動だと思われ、プログラミングができない人から敬遠されがちですが、「アプリ」ではなく「データ」を作るということもシビックテックであり、それはするためには技術者だけではなく、その地域に住み、地域のことを知っている非技術者の参加も必要であるということに改めて気づき、こうした活動がもっと広く周知されることが市民参加を進めることに繋がるなと思いました。

2つ目の学びはデータ作成がとても大変だということです。これまではデータを使う側しか見てこなかったため、頭の片隅で「自治体はなぜデータを公開しないのか。サボっているのではないか」という考えを持っていました。しかし、今回データの打ち込みをしたことで、膨大なPDFや紙のデータを「出せ」と言われたからすぐ出せるものではないということ、職員の負担を考えて、そこから出すべき最適なデータに絞り込むために「過去の成功事例や使ってもらえるという確証」が欲しいということを理解することができました。「データを出せ」というのではなく、今回参加したウィキペディアタウンのように、データを一緒に出すということがシビックテックらしい素敵な方法なのだなと感じました。ただ、打ち込みが辛かった分、自分が編集したデータがWeb上に公開された時はとても嬉しかったです。紙のデータをウェブに移し、誰でも見れるような形にする、データの救助活動とも捉えることができるウィキペディアタウンに、機会があればまた参加してみたいと思います!

ハッカソン

土日は静岡と台湾の友好ハッカソンでした(台湾とは市川さんが交渉されたらしいです、本当にすごいです…!)。このイベントで最も驚いたのは、技術者だけではなく、自治体の職員さん(しかも3自治体から参加)や、高校生(片道1時間半かけて参加)、企業の方などといった多様な参加者層だったということです。前日の自治体との交渉の席やウィキペディアタウンでお会いした方も多く、まさにCode for Numazu、そして市川さんが繋いだご縁の場所だなと、とても感動しました。

また今回のイベントはエンジニアの比率がそこまで多くなかったのですが、ハッカソンの条件として「絶対に動くものを作り上げる」ということ、できたものは年始にあるアーバンデータチャレンジというコンテストに出すよう指示がありました。ただ人を集めるだけではなく、共同作業を通して1つのものを作り上げることを経験させ、さらに長期的なゴールも設定して背中を押すという設計は見習う部分が非常に多かったです。

ハッカソン終了後に行われた懇親会では、異なる自治体の方同士の意見交換会が行われていたことが印象的でした。地域とともに動き、地域の中の人をつないでいくというシビックテックコミュニティの持つ力の大きさを知ったイベントでした。

ちなみにハッカソンではドワンゴのデザイナーさん、裾野市の職員さん、高校生さん、Code for Youthメンバー2人という多様なメンバーで、沼津市への愛を込めたネタアプリ「ヌマヅッコミ」を作成して市長賞と市川電産賞をいただきました。普段一緒に物作りをする機会がない方と一緒にアイデアを形にしていく、やっぱりハッカソンは楽しいですね。(でも徹夜は辛かったです。笑)

市川ご夫妻への質問と回答

そうした活動に取り組まれておられるCode for Numazu代表の市川ご夫妻に、沼津の町を案内していただいている時やご飯の時間を活用し、これまでの活動の経緯や活動に取り組まれている理由についていくつか質問をさせていただきました。質問と回答をQA方式で示します。

Q. Code for Numazuを始めたきっかけを教えてください。

A. Code for Numazuを始めたきっかけは、スマートシティが世界的に進んでいく時代の中、地元である沼津市のオープンデータがほとんど無い(当時2つ)という現状を知った時でした。この時、このまま情報が元になったまちづくりをしなけれ沼津が世界から遅れてしまうと思ったことと、自分が子供の時技術を教えてくれた近所のおじさんのような人間が地域に必要だと思ったことがきっかけで、Code for Numazuを立ち上げました。

Q. 活動を進める上でコツがあれば教えてください。

A. 活動を進めるコツは「当たり前のことをすること」です。近所の清掃活動や草取りを当たり前にするように、データの整備を市民がするのは当たり前、それに寄り添い繋いでいくのがCode for Numazuの役割であり、そのために各地を飛び回って活動をしています。

Q.地域に溶け込む上で工夫したことがあれば教えてください。

A. 沼津市はNPO等の市民団体が活発に活動しているため、そうした組織とも連携して会場を借りる、コラボするなどの形で活動しています。また、現在の沼津市長も元々Code for Numazuのメンバーであり、そうした背景から地域に溶け込むことができました。

Q.活動をする上で現在抱えている問題点を教えてください。

A. 現在抱えている問題としては、下記のものが挙げられます。

  • 活動がなかなか広がっていかない
  • 市民の参加が少ない
  • 町に若者が少ない
  • 自治体間の連携が取れていない

こうした問題を解決するために、私たちが自ら各自治体に出向いて活動しています。

まとめ

3日間の遠征で様々な活動を見せていただきましたが、まとめると「自らが地域に溶け込み、溶け込んだ地域の中でステークホルダー同士をつなぎ、繋いだ人同士が協働して新たなものが生まれていく」というCode for Numazuによる協働の場づくりの現場を見せていただいたなと感じています。特に、地域への溶け込みやステークホルダーとのやりとりの部分はなかなか見ることができないので、とても貴重な体験をさせていただきました。

Code for Youthとして、研究者として地域の外からシビックテックを見て、動いてきましたが、今回の出張で地域の中に入らないと作り出せない価値があるということを学びました。これからそうした視点もCode for Youthの活動に活かしていきたいと思います。

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