シリコンバレーにおけるアクセラレーターの役割

Keita Matsuyama(松山馨太)
Code Republic Blog
Published in
9 min readAug 26, 2019

アメリカのアクセラレーターの調査を目的として、シリコンバレーのアクセラレーター・VC・スタートアップを訪問してきました。

今回の訪問では、シリコンバレーのエコシステムにおけるアクセラレーター・VCの役割を知る機会を得られたことに加え、現地で活躍する日本人に多くの刺激を頂くことができ、改めてCode Republicが起業家の皆様に対してどのような貢献ができるか考えさせられる機会となりました。

ご協力頂いた皆様、ありがとうございました。

本ブログでは、今回の視察を通じて学んだアクセラレーターの役割、スタートアップが育つ土壌となる文化、個人的に関心が高まったビジネス領域を紹介したいと思います。

アクセラレーターの役割

今回の訪問では、シードVCの500 Startups、Draper Associates、アグリテック・フードテックに特化したアクセラレータープログラムを展開するSVG Ventures、スタートアップと企業のオープンイノベーションを推進するPlug and Playを訪問してきました。

500 Startups

74カ国2200社以上への投資を行うアクティブシードVCであり、ポートフォリオの50%はアメリカ以外、Distro DojoやHell Week等のプログラムを通じてセールス&マーケティングの専門性高い知識を提供しています。対象領域は、ソフトウェア90%・ハードウェア10%、バイオテック・ファーマテックのような専門領域には参入しないそうです。

Draper Associates

Draper Fisher Jurvetson(DFJ)の創設者Tim Draperが設立したシードVC。HERO CITYと呼ばれるコワーキングスペースでは、スタートアップ・VCが複数入居しており、毎週木曜のハッピーアワーでスタートアップとVCが触れ合えるそうです。

通りの向かい側にはDraper Universityがあり5週間の起業家育成プログラムとして、著名起業家やVCが講義するプログラムを提供しています。Universityでスタートアップの基礎知識を習得した後にYC・Techstarsへ応募する流れとなっているそうです。

Draparに入居するEmi CoupleのTakeuchiさん・Horiさん

Plug and Play

スタートアップと提携先・投資先となり得る大企業とのマッチングを支援するアクセラレーター。50種以上の業種テーマ単位のアクセラレータープログラムを開催、スタートアップと企業の投資部門等が利用できるコワーキングスペースやDemo Dayの提供に加え、複数の大学・VCとの連携により、スタートアップの成長を支援しています。

SVG Ventures

AgriTech・FoodTech特化のアクセラレータープログラムTHRIVEを運営するベンチャーキャピタル。10万$の投資に加え、週1回のオリエンテーションと世界約6000社以上の農業関連事業者やVCの紹介を行う4週間のアクセラレータープログラムとなっており、業界を特化することにより専門性の高い知識・ネットワークの提供を行っているそうです。

各社主な機能としては以下のような役割を担っているようです。

特に印象的だったのが、500 StartupsのパートナーMarvinさんがおっしゃっていた「VCにおいて資金はコモディティだから、アドバイスと専門性が重要だ」「VCは業界の専門家ではないため、事業アイディアをつくることはできない、アイディアを正しい方向へ導くための質問をする力が重要だ」という言葉。500の場合はセールス&マーケティングにおける知識の専門性を高めるとともに起業家に気づきを与えられるような質問をしているそうで、私自身「正しい質問をする力」を磨かなければならないと強く感じさせられました。

また、各社に対して投資の際の評価基準を聞いたところ、チームを重視しているケースが多く、Marvinさんは「投資評価は80%がチーム、20%がマーケット、マーケットもプロダクトもピボットできるので重要ではない」、そして、どのような観点でチームの優秀さを測っているのかという質問に対しては「GRIT(やり抜く力)と市場&顧客の理解の深さ。どこまで市場・顧客を分析しているかで、この2点がわかる」とおっしゃっていました。

500 StartupsのMarvinさん

Fail fastの文化

もう一点の今回の視察における学びは「Fail fast.」という考え方です。

スタートアップは、ビジネスアイディアという仮説から、検証の繰り返しにより不確実性を取り除き、PMFを目指すというプロセスを踏みますが、限られた時間・資金の中でいかに多く、早く、検証を回せるかが勝負となります。しかし、このような検証のプロセスを行わずプロダクト開発を進めてしまうケースに多く出会います。

シリコンバレーの複数のスタートアップに共通して感じたことは、この仮説検証のプロセスが一般的に浸透していることです。

たとえば、現地で活躍する日本人起業家Cosme Huntの高橋クロエさんは、「Fail fast.」という言葉を話されてました。

高橋さんは、アントレプレナーシップとプログラミングを学ぶことのできるプログラムMake Schoolの第1期生、唯一の日本人として参加された経験があり、現在は英語圏のユーザーに向けて日本の化粧品に特化したキュレーションECを展開しています。

Cosme Huntの高橋さん

Make Schoolでは、「Ship fast, fail fast.」という言葉が使われており、とにかく早くプロダクトをリリースして仮説検証を繰り返すことが重視されていたそうです。

高橋さん自身も多くの人種が暮らすアメリカにおいて、人種によって肌の悩みが違うという課題を解決するために世界中の化粧品の口コミデータベースを構築していたそうですが、リリース〜検証の繰り返しから現在は日本の化粧品に特化したキュレーションECへとピボットをしています。

高橋さんは「アメリカでは失敗はネガティブに捉われず、就職においても何をして何を学んだかが重視されている」と言い、同じくPlug and Playでスタートアップと大企業のマッチングを支援している石井さんからも「アメリカでは大企業の社員でもどんなイニシアティブを実行したかが重視されている」「自ら行動を起こし、失敗してはじめて学べる」という言葉がありました。(石井さんは、日本で金融機関に就職しましたが、学生の頃から度々訪れていたシリコンバレーのチャレンジ精神旺盛な環境への憧れ、日本だけでなくグローバルに変化を生み出す次の時代のテクノロジーを見たいとの想いから、本国のPlug and Playへ入社を決めたそうです。)

Plug and Playの石井さん

このように、アメリカでは失敗をネガティブに捉えず、むしろ失敗を賞賛する文化が土壌にあるからこそ、仮説検証というサイクルが一般的に浸透していると感じました。

また、石井さんは「スタートアップのワークスタイルが996(午前9時から午後9時を週6日間働く)から007(24時間を週7日間働く)と変化している」とおっしゃっており、よりスピードが勝負となってきていると感じました。

注目の領域

最後に今回各VC・アクセラレーター・エンジェルの方々からお話を伺い、「オンラインとオフラインが融合したB2Bサービス」という領域が面白いと感じています。

たとえば、IoTカテゴリでは、カメラやコネクティッドカー等のセキュリティサービス。シリコンバレーで40年以上活躍するエンジェル投資家の平強さんよれば、PCやスマートフォンに接続された安価なカメラが普及したことにより、カメラをハッキングしてPCやスマートフォンに侵入するという問題が起きており、IoTにおけるセキュリティ領域へ投資を行っているそうです。

ARカテゴリでは、カスタマーサポートの効率化・ヒューマンエラーの防止を図るサービス。GFR Fundパートナーの古森さんによれば、災害時の写真を撮ると3D化して保険請求できるサービスや故障した家電の写真を撮って作業員の訪問工数を削減するサービスのようなARのB2B利用が現実的に進んでいるそうです。

音声カテゴリでは、電話での応答〜オペレーションまでを自動化するサービスが生まれてきていました。

いずれもこれまでのインターネットというオンライン世界だけでなくオフライン世界を跨いで、効率化を図るサービスとなっており、インターネットによるイノベーションから、インターネットと先端技術の融合によるイノベーションへとシフトが加速していくと感じました。

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