スタートアップの7つの成長プロセス #1 市場選定

Keita Matsuyama(松山馨太)
Code Republic Blog
Published in
9 min readAug 16, 2019

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今回のテーマは『市場選定』です。

市場選定の前に前提として「スタートアップとは何か?」ということを理解しておくことが重要です。Paul Grahamはスタートアップを以下のように定義しています。

Startup=Growth

起業には大きくスタートアップとスモールビジネスの2種類があります。

スタートアップは、大規模な初期投資により短期間で急成長を目指すビジネスモデルであり、株式で資金調達をする代わりにIPOやM&Aにより投資家に対してリターンを返さなければなりません。

一方でスモールビジネスは、長期間で安定的に売上の増加を目指すビジネスモデルであり、融資による資金調達が主流となっています。

そのため、スタートアップはIPOを実現できるだけの規模がある市場を対象としなければなりません。

アメリカではM&Aが主流となっていますが、日本においてはまだまだM&Aの件数が少なく、売却額も小さいため、Code RepublicにおいてもIPOを目指すスタートアップを対象としています。

それでは、IPOを目指せる市場とはどのような市場なのでしょうか。

以下は、2018年の東証一部・東証二部・マザーズのIPO企業の売上・経常利益の実績です。

あずさ監査法人 2018年のIPO動向について

新興企業を対象とするマザーズの中央値が売上 約20億円・経常利益 約2億円となります。仮にビジネスアイディアのターゲット数 100万人・月額 1000円の場合、最大の売上(TAM:Total addressable market)は120億円(100万人×1000円×12ヵ月間)となりますが、市場には同様の価値を提供する競合が存在するため、シェア100%を獲得する可能性は極めて低く、シェア10%とすると売上12億円となってしまいます。

このため市場選定の際は、市場規模と競合の2つの観点を意識しなければなりません。競合との競争を踏まえ、最低でも1000億円以上の市場規模が望ましいと考えます。

以下の図のように市場規模が大きく競合数が少ない市場は、売上を獲得しやすい可能性のある市場と言えますが、競合が少ないということは独占企業の存在や法規制など新規参入に対する障壁が高い市場である可能性もありますので、調査が必要です。

一方で、短期間での急成長が求められるスタートアップというビジネスモデルの特性上、Paypal・Palantir創業者でありFacebookやスペースXの投資家として知られるPeter Thielは、今後急成長が予測される小さな市場を見つけ、独占して拡大を目指すことを推奨しています。

How to start a startup

今後成長が予測されるが今は小さい市場は、競合が少なく、少数の特定の顧客層が集中しているため独占しやすい、さらに市場の成長と共にスタートアップ自体も急成長することが期待できます。

そのため、スタートアップにとって競合が少なく、今後成長が予測される小さな市場が最適な市場と考えられます。

しかし、気をつけなければならないのは、安易に今後の成長が予測される市場を選ぶのではなく、独自の切り口で市場を定義することが重要です。

たとえば、VR市場は今後の成長が予測される小さな市場ですが、現時点で参入企業が多く、競争優位性のないサービスは淘汰されると考えられます。一方でVRの○○市場というように細分化した市場であれば、独占できる可能性があります。

では、どのように市場を見つけるのか?

市場の選び方は人それぞれではありますが、以下参考までにいくつかの方法と情報ソースを紹介します。

①既存市場から探す

既存産業の市場規模から、業界構造を分析して、テクノロジーにより効率化などのイノベーションを起こせる領域を発見する。

②既存企業から探す

既存の上場企業を分析して、テクノロジーによるリプレイスやセグメント特化・業種置換により成長できる領域を発見する。

③メガトレンドから探す

今後の成長が予測される技術・トレンドの周辺市場から領域を発見する。

④海外スタートアップから探す

日本では展開されていない海外のビジネスモデルの輸入やセグメント特化、業種の置換により成長できる領域を発見する。

市場調査は、答えがない中で多くの時間を要するため、苦痛の時間となりますが、多くの業界や企業を構造化して理解することにより、ビジネスアイディアのヒントをたくさん学べる機会にもなると思います。そんな前向きな姿勢であなただけの市場を見つけてもらえればと思います。

本シリーズは全7回に分けてスタートアップの成長プロセスを紹介しています。各記事は以下よりご覧ください。

#1 市場選定

短期間で急成長するための市場の条件、選定方法を紹介します。

#2 アイディア策定

ビジネスアイディアを構成する4つの要素とその調査方法を紹介します。

#3 ニーズ検証

ビジネスアイディアという仮説をインタビューを通じて定性検証、ビジネスアイディアを磨き込むプロセスを紹介します。

#4 ソリューション検証

MVPを用いた「課題・ニーズが存在するか?」「その課題・ニーズを解決しているか?」の定量検証のプロセスを紹介します。

#5 プロダクト検証

MVPをプロダクトに落とし込み、愛されるプロダクトへと磨き込むプロセスを紹介します。

#6 ビジネスモデル検証

持続的に利益を生み出し続けるビジネスモデルを構築するプロセスを紹介します。

#7 スケール

愛されるプロダクトと持続的に利益を生むビジネスモデルを構築した後のスケールのための成長戦略・組織設計のプロセスを紹介します。

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