スタートアップの7つの成長プロセス #6 ビジネスモデル検証

Keita Matsuyama(松山馨太)
Code Republic Blog
Published in
8 min readAug 16, 2019

今回のテーマは『ビジネスモデル検証』です。

これまで熱狂的なファンに愛されるプロダクトを開発するために、複数のプロセスを経てきましたが、今回はプロダクトが持続的に利益を生み成長していけるかを検証していきます。

企業が成長するためには、持続的に利益を生み、利益を事業成長のために再投資するという循環が求められます。

そんな持続的に利益を生みすことのできるビジネスモデルかを判断するために、ユニットエコノミクスという概念が用いられます。

ユニットエコノミクスは、顧客1人あたりの経済性を意味しており、LTV(1人あたりの顧客が生み出す利益)とCAC(1人あたりの顧客を獲得するためのコスト)の関係性を表します。

1人が1万円の売上を生むのに対して、顧客獲得に2万円が必要な場合、そのビジネスは永久に黒字化しません。

ユーザーから愛されるプロダクトが開発できた後、セールス&マーケティングによりユーザー獲得を加速する『スケール』のプロセスが始まりますが、このLTVがCACを上回っていなければ一生赤字となってしまいます。

「そんなミスをするスタートアップなんて本当にいるのか?」と思われるかもしれませんが、Paul Grahamは以下のように述べ、大半の起業家が自分のビジネスのLTV・CACを理解していないと言います。

Default Alive or Default Dead?

また、多くの失敗事例もあります。

pets.com

投資家から3億$を調達したペット用品のECサービス。TVCMにより顧客は増加したが、利益率が低く、顧客が増えるほど損失が増加したため、営業停止へ。

Internet Archive

Groupon

大量の広告宣伝により急成長した共同購入サービス。バリュープロポジションが明確ではなかったため、競合の増加によりLTVが縮小、事業縮小へ。

Internet Archive

『ビジネスモデル検証』のプロセスは、このような失敗を起こさないためにあなたのビジネスのLTV・CACを算出、そして、ビジネスモデルの構造を分解して、LTVを最大化するKSF(成功要因)を見つけ、LTVの安定化を目指すプロセスとなります。

それでは、プロセスの詳細を見ていきましょう。

①LTV・CACを算出する

LTV・CACの算出方法は以下となります。数式は一般的な計算式となりますが、ビジネスモデルによって異なるため、本質的に1人あたりが生み出す利益・1人あたりを獲得する費用を考え、算出してください。

LTV=1人あたりの売上×粗利率÷解約率

CAC=顧客獲得コスト÷獲得顧客数

直近数ヶ月のLTV÷CACが3倍以上となることが、収益性の目安とされており、直近数ヶ月のLTV・CACが安定しておらず、LTV÷CACが3倍未満の場合はビジネスモデルを分解して改善方法を発見していきます。

②LTVを最大化するKSFを特定する

自社のビジネスモデルを数式へ分解します。最も簡単な数式は『利益=売上-費用』ですが、ここではLTVを最大化するためのキーとなる要素を見つけるためにKPIまで落とし込みます。

たとえば、一般的な広告収入のデジタルメディアの場合、ビジネスモデルは以下のような数式で表されます。

売上=PV数×CTR×クリック単価

さらに細分化すると以下のように分解することもできます。

売上=1コンテンツあたりPV数×コンテンツ数×CTR×クリック単価

マッチングビジネスの場合、以下のように表すことができます。

売上=出品者数×1出品者あたり出品数×平均出品単価×購入率×手数料率

また、B2Bの場合は以下のような数式で表すことができます。

売上=アポ数×商談率×成約率×平均購入単価

売上=PV数×お問い合わせCVR×月額料金

上記は一例となりますが、このように現在の流入経路・獲得経路を分析して、どのKPIがLTVを最大化する最重要KPIとなるかを特定していきます。

このプロセスでは営業マンの雇用や広告宣伝費の投下は行なっていないため、費用については割愛しますが、人件費やサーバー費・家賃等の必要最低限の費用が発生している場合は売上同様に費用を分解して、CACを最小化するKSFを特定しておく必要があります。

③LTVの安定化を目指す

最重要KPIの改善〜検証を繰り返して、LTVの安定化を目指します。

LTV÷CAC=3倍以上の関係で安定化した時点で『ビジネスモデル検証』は完了となります。あなたのビジネスのLTVが定まったタイミングで初めてCACの上限値がわかり、セールス&マーケティングにコストを投下することができます。

『ビジネスモデル検証』においても『プロダクト検証』同様に一気にスケールをしないことが重要です。LTV・CACを安定化させ、スケールに耐えることができるビジネスモデルの構築ができるよう地道な検証を繰り返して頂ければと思います。

本シリーズは全7回に分けてスタートアップの成長プロセスを紹介しています。各記事は以下よりご覧ください。

#1 市場選定

短期間で急成長するための市場の条件、選定方法を紹介します。

#2 アイディア策定

ビジネスアイディアを構成する4つの要素とその調査方法を紹介します。

#3 ニーズ検証

ビジネスアイディアという仮説をインタビューを通じて定性検証、ビジネスアイディアを磨き込むプロセスを紹介します。

#4 ソリューション検証

MVPを用いた「課題・ニーズが存在するか?」「その課題・ニーズを解決しているか?」の定量検証のプロセスを紹介します。

#5 プロダクト検証

MVPをプロダクトに落とし込み、愛されるプロダクトへと磨き込むプロセスを紹介します。

#6 ビジネスモデル検証

持続的に利益を生み出し続けるビジネスモデルを構築するプロセスを紹介します。

#7 スケール

愛されるプロダクトと持続的に利益を生むビジネスモデルを構築した後のスケールのための成長戦略・組織設計のプロセスを紹介します。

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