Takehisa Sibata
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7 min readJan 31, 2019

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デジタル決済システムがつくる貧困問題への処方箋

1 .銀行口座を持たない世界の17億人

世界には銀行口座を持たない人が17億人(世界銀行推計)ほどいるとされる。銀行口座を保有することによって、貯蓄すること、事業運営のために融資を受けること、緊急事態に備え資金を準備することが出来る。貧困からの脱却において欠かせない。銀行口座もしくはモバイル口座を保有する成人の割合は、2011年の51%から2017年には69%(39億人)へと大きく向上した。グローバルフィンテックデータベースによると2014年から2017年には5億1千万人が口座を開設し、2011年以降には12億人にのぼる。

銀行口座を保有していない17億人のうち、3分の2の人は携帯電話を保有しているという調査結果がグローバルフィンテックデータベースによって報告されている。ブロックチェーン技術によるデジタル決済の普及はまさしくその風穴をあけるであろう。

ちなみに銀行口座を保有していない国の状況は以下の通りである。

・中国 2億2千4百万人

・インド 1億9100万人

・パキスタン 9900万人

・ナイジェリア 6270万人

・バングラディシュ 5790万人

・ブラジル 4870万人

多くは、発展途上国である。国によっては半分以上の人が銀行口座を保有していない。北アフリカ・中東では、男性の口座保有率は52%なのに対して女性は35%しかない。女性の口座保有率の上昇は、家庭での意思決定権の強化、女性の自立へと繋がる。

デジタル決済の普及はまさしく、アジア・アフリカ地域に住む々が金融サービスへのアクセスを容易にし、貧困問題を解決する突破口になるであろう。ブロックチェーン技術は、送金コストを格段に安く、信頼性の高いデジタル決済システムを可能にする。

2 ブラジルのモエダが示したもの

ブラジルでは、社会起業家のレイス・タイナー氏がブロックチェーンを活用した協同組合型金融システムを立ち上げた。ブラジルの農村の起業家、農協等の協同組合、NGO、女性に対して融資を行う仕組みを提供している。ブラジルの農村では多くの農民や女性が銀行口座を保有していない現実がある。またブラジルの農村では負債を抱えた協同組合や起業家が多く存在し、既存の金融システムから除外されている。そうした背景があるため、レイス・タイナー氏が小口融資、クラウドファウンディング、送金のプラットフォームを構築した。モエダアプリを開発することで、トークンの知識のない方でも簡単に利用出来る。

この協同組合型金融システムにより、ユッカと呼ばれる花の農場とカボチャ等の野菜の食品加工場を抱えるブラジルのフォルモサにある農業協同組合は、融資を通じて灌漑設備や食品加工機器を購入した。その結果として、生産高が5倍になり取引を拡大した。農協で事業をする零細の起業家に対して融資も行っている。

モエダトークンを発行し、主に中国の投資家や海外の協同組合型の金融機関(信用協同組合等)から調達した。協同組合がICOを通じて資金調達することは異例のことである。

モエダは、ゆくゆくは、世界中に拡大していく計画である。世界中の協同組合や新協同組合同士が資金を融通し、地域の問題の資金調達を可能にしていくスキームである。世界には17億人銀行口座を持たない人が存在しており、スマートフォンを利用したマイクロファイナンスの仕組みは需要が高く、発展途上国に送金システムやマイクロファイナンスを拡大して行く構想である。

ブラジルの農村に多く存在する口座を持たない農民と、既存の金融システムでは立ち行かない協同組合の資金調達をモエダは可能にして、貧困からの脱却を行うスキームを構築しようとしている。銀行口座を持たない農民と、農民と関わりの深い農業協同組合をセットで考え貧困問題に対して取り組んでいる。

3アリペイとジーマ信用が目指す未来

アリペイは、一帯一路構想に賛同しており、一帯一路構想に賛同する地域においてブロックチェーン技術を活用した決済システム、送金システム、金融サービスの展開を構想している。世界で初めてブロックチェーンを活用した送金システムを「アリペイ香港」が香港・フィリピン間で開始した。香港では、フィリピン人労働者やインドネシア人労働者が大勢働いており、外国人労働者向けに需要があるとされる。また、アリペイは、今年に入り、ブロックチェーンを活用した送金システムをマレーシア・パキスタン間でも開始した。

フィリピンは、世界第3位の送金市場である。フィリピンから海外へ1500万人が移住し、420万人が海外にで働いていると推計される。フィリピンの人口は、1億人であるため、海外労働者の比率は人口比に対してかなり高いと言えるだろう。世界の船員の4分の1がフィリピン人で占められ、サウジアラビアやクェートなどの中東の産油国や香港やシンガポールでは、フィリピン人の家事手伝いが多く活躍している。フィリピンの場合、か外労働者の送金によって、貿易赤字を補填し、経常収支が黒字転換しているという事情もある。そうした背景があるため、ブロックチェーンを活用した送金システムには注目が集まっている。

ジーマ信用は、アリペイの過去の支払い履歴に基づく個人の行動を信用スコアにしたものだである。

以下のようにスコアが決められる。

・公共料金を適正に支払いしている場合はプラス

・献血をしたりボランティアをしたりしている場合はプラス

・長時間オンラインゲームをしている場合はマイナス

・期日までに返却している場合はプラス、していない場合はマイナス

といったように個人の行動をスコア化している。信用スコアが高い場合は、ホテルをデポジットなしに予約できる、お金を借りることができる、街中で傘やスマートフォンの充電器を無料で借りることができる。逆に信用スコア低い場合には、ホテルの予約を拒否される、新幹線や航空機の予約ができない、ビデオのレンタルが拒否される、といったことがある。アリババが中国政府と近い関係にあることから、国家による監視に使われるのではないかとの批判がある反面、銀行口座を持たない発展途上国ではクレジットサービスの拡充に活躍するのではないかと言われている。世界には20億人ほど銀行口座を持たない人がいるが、そうした人向けにクレジットサービスや日常の行動を基に評価された融資の実施といったことができる。また、シェアリングエコノミーの分野では、決済システムによる信用スコア制度の導入は、これまでより簡単に審査することが可能となる。そして、信用スコア制度に基づく融資の審査などにはAIが活用される計画である。

ブロックチェーンを活用した決済システムと信用スコア制度は、多くの発展途上国における金融サービスや各種レンタルサービスの起爆剤になると考えている。海外労働者が多い国ではスマートフォンを用いてこれまでより簡便に送金することができる。また。信用スコア制度の導入は、銀行口座を持たないなどこれまで金融サービスから排除されていた人々が日頃の行動を基に、融資の審査や各種レンタルサービスの入会審査に活用し、融資などを受けることが可能となる。

4 デジタル決済システムと信用スコア制度がつくる未来

デジタル決済システムの普及は、発展途上国における海外送金、口座開設、金融サービスへのアクセスへと繋がって行く。発展途上国の場合、融資が必要な起業家には貧困層が多く、財産を持たないため、グラミン銀行がしたような無担保融資が中心となる。無担保融資の場合、人柄や事業計画が審査の対象となる。ジーマ信用のような信用スコア制度が融資の審査に導入されれば、融資の審査の信頼性・効率性が向上するのではないか、と考えている。アリペイの場合は、信用スコア制度の分析にAIが活用されるとのことである。

また、ブラジルのモエダは、農村における貧困問題に着目している。銀行口座を保有していない農民や農村の起業家、女性と資金繰りに困難を抱える農業協同組合を対象とし、協同組合と口座を保有していない農民へのマイクロクレジットを通じた貧困問題の解決を測っている。銀行口座を持たない個人と関わりの深い協同組合をセットで考える考え方は興味深い。

ブロックチェーン技術の活用による低コストで信頼性の高い決済システムが、世界の貧困問題に風穴を開ける未来が到来したと言えよう。

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