Takehisa Sibata
Commons OS
Published in
11 min readFeb 23, 2019

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フェアトレードに活用されるブロックチェーン

1日2ドル未満で暮らす農家が多いとされるコーヒー農家やカカオ農家。児童労働や長時間労働、危険な労働が横行する発展途上国のプランテーション農園。適正な報酬が農家に支払われ適切な環境でつくられることを保証するため、適正な価格で継続的に取引される仕組みがフェアトレードである。フェアトレードの分野でブロックチェーン技術が活用され始めている。

1 現状フェアトレードが抱える問題

まず、フェアトレードを取り巻く課題、問題点から書いていきたい。

第一に日本と欧米ではフェアトレードの認知度が大きく違うという問題がある。欧米では8割以上がフェアトレードを認知しているのに対し、日本における認知度は3割しかない。フェアトレードの購入率についても12%と低調だ。現状は話題先行で「意識が高い人」がやっているという状況である。

また、日本のフェアトレードはブーム先行だという事情がある。フェアトレードが普及している英国では、児童労働や低賃金労働が問題となっている企業の商品については不買運動も生じる。「ブライスマーク」という衣料ブランドがTシャツが1ポンドで販売された時、あまりに安いため各方面から問い合わせが殺到した。2008年にイギリスのテレビ局が取材し、インドの契約生産者を突き止め、「プライスマーク」が実はインドの契約生産者が児童労働させていることが発覚した。放送直後からイギリスで不買運動が起き、アメリカでも批判が殺到した。児童労働させている生産者と契約してまで、安さを追求する「プライスマーク」の方針に批判が集まった。フェアトレードが社会全体に普及している国では、生産者の労働環境や低賃金、児童労働などの問題に社会全体が批判的である。

また、まだまだ、フェアトレードそのものが「本当にフェアトレードが行われた商品なのか?」という批判がある。フェアトレードで作られたと表示されている商品を追跡したら、実は、フェアトレードになっていないというケースがあるとのことである。例えば、商品を追跡すると生産者に十分な賃金が支払われておらず、生産者との間に入った業者が吸い上げているケースがあるとのこと。フェアトレードは、特に、認証機関やフェアトレードを推奨するNPOなどの中間団体が介在するため、実際はその中間団体がお金を吸い上げてるという批判がある。

また、フェアトレード商品は、高い分、品質が要求されるため(例えばオーガニックであることなど)、危険を冒して材料を調達しているケースもあるため本当に適正な労働環境で生産されているか疑わしいケースもある。

今、フェアトレードが抱えている課題は以下のようになる

・フェアトレードを認知していく必要性(日本の場合)

・フェアトレードがファッションではなく、もっと消費者が賢くなってその背景にあるト レーサビリティや生産者の環境を考えていく必要性。(日本の場合)

・生産者が真に報われるようなスキームの構築。生産者が適正な報酬を得ていくスキー ムの構築

・生産環境が消費者がチェックできるようなスキームの構築

特に日本の場合は、消費者がもっと関心を持てるように、スマートフォンで生産環境や生産者の状況がしっかり確認できる体制、興味を持てるような仕組みが必要だ。

2 ウガンダでブロックチェーンを活用し収入がUP

上記の問題を解決するベンチャー企業が出てきた。

世界10位、アフリカ最大のコーヒー生産国であるウガンダ。ウガンダのコーヒー会社であるCaricoCaféConnoisseur社がコーヒーのフェアトレードにブロックチェーンを導入した。ブロックチェーン技術を用いてフェアトレードでつくられたことを証明する。クライアントは、農園、農園の所在地、豆の品種、気候等にこだわりがあり、信頼できる農園や卸業者からフェアトレードとして高く購入するシステムがある。信頼出来るトレーサビリティにとり農園は高い収入を得ることが出来る。CaricoCaféConnoisseur社は、ブロックチェーンの導入により収入が1割ほど向上する見込みであるとしている。

コーヒーの種類、農園の情報、収穫情報、出荷情報などのデータを出荷時にブロックチェーンに格納される。農園、農園の集荷センター、倉庫、出荷センター、検査センターへ豆の配達データ、輸出に至るまで情報を追跡することが可能となった。コーヒーの各袋には、トレーサビリティやコーヒーの種類、農園の情報などの情報が掲載されたQRコードを貼りつけられ、購入者はQRコードを読み取り、情報を確認することが出来る。

ウガンダはアフリカ最大のコーヒー生産・輸出国であるが、自国のコーヒー豆の加工能力に限界があるため生豆として輸出される。生豆として輸出された後のトレーサビリティも追跡出来る。

コーヒーのトレーサビリティが確認出来る上に、詳細な豆やコーヒー農園の状況も確認出来るからより高品質なコーヒーをつくる動機付けにもなり、ウガンダのコーヒー農家の収入の向上になる。

3 農家が適正な報酬を得るためのシステムづくり

世界中の多くのコーヒー農家が1日2ドル未満で働いている現状がある。デンバーを本拠地とするBext Holdings.inc社は、そうした問題を解決するスタートアップを行っている。

デンバーに本拠を置くBext Holdings.inc社は、ブロックチェーン技術を活用して、農家が瞬時にコーヒー豆の適正な値段を確認することが出来て、モバイル決済を通じて瞬時に支払われる、そういう仕組みを開発した。

Bext360というコンピュータビジョンで豆を選別する専用機械はを開発した。この機会は1度に30キロの豆の分析が可能である。そして、農家にその場で豆の品質にあった報酬額を提示する。コーヒー豆がトークン化され、モバイル決済システムをつかい即座に農家に前払いされる。米コロラド州のコーヒー豆販売企業「Coda Coffee」やウガンダのコーヒー豆貿易企業「Great Lakes Coffee」らと提携を結んでいる。コットン綿の流通プロジェクト、パーム油、ナッツ、鉱物資源や、林業にも拡大して行くとのことである。

フェアトレードやオーガニックに興味を持つ消費者は増えている。しかし、市場で流通しているコーヒーやコットンが本当に適切な流通経路で流通しているかどうか、本当にオーガニックの基準を満たした品質なのかどうかは不透明なのが実態である。そこで、ブロックチェーン技術を活用してトレーサビリティを追跡し、コーヒー豆やコットンの品質を即座に確認する専用マシンを開発し、即座に発展途上国の農家にコーヒー豆やコットンの品質に見合ったかブロックチェーン技術を用いたモバイル決済システムで支払われる。ブロックチェーン技術を用いて、消費者も生産者もともに幸せになるそうしたシステムである。

4 私たちの社会でどうブロックチェーンを活用するかー未来の流通、買い物

日本では、まだまだフェアトレードの認知度が低く、購入率も低い。また、生産環境にや生産者の状況について関心を払う消費者も少ない。

上記のスタートアップでは、生産者がしっかり報酬が支払われていること、一方でしっかりした品質を保証する、そうした枠組みを構築した。フェアトレードでは、高いからこそ、しっかりした品質を保証しなくてはならない。上記のスタートアップの取組が定着してくれば、「フェアトレードは、高品質を保証しなおかつ生産者も幸せになれる」そんな風に言われるようになるであろう。

認知度の低さ、購入率の低さについては、例えば、スマートフォンのQRコードで生産者の状況やトレーサビリティを確認できる、といった仕掛けが必要であろう。日本の場合、残留農薬の問題や食品添加物の問題、水俣病などに代表される公害の問題から食品添加物の問題や食の安全の問題が注目された。その過程で、農家の顔や農家の状況を見て購入する「産直」が普及していった。フェアトレードとは、その「産直」をブロックチェーンを通じて世界規模でやっていくそんなイメージである。もしかしたら、QRコードで生産者のメッセージや生産の様子などを動画やAR(拡張現実)で確認するそんな仕組みが必要かもしれない。

https://www.businessinsider.jp/post-262

実際、イタリアの生協がミラノにオープンしたスーパーマーケットでは、AR(拡張現実)と特殊センサーを用いて商品の物語(どういう過程で生育し、流通され、店頭に並ぶか)を確認するそんなスーパーがオープンした。消費者は、商品がどのように作られ、どんな物語があるかを確認できる。スーパーが商品について学ぶ場、博物館、アトラクションとなっている。オンラインショッピングが普及した時代だからこそ、リアルで買い物する意義は商品を学ぶ、楽しむといったことにあるかもしれない。

そうした仕組みをフェアトレードの現場に導入できたら消費者の理解が広がるのではないか、と筆者は考えている。

おわりに なぜギフテッドワークス がブロックチェーンを語るのか

Commons OSのチームの代表である河崎は、ギフテッドワークス という発達障害者にプログラミングとデザインを教える就労移行支援施設を経営している。ブロックチェーンと障害者福祉、そして、フェアトレードと障害者福祉、なかなか連想ができないかもしれない。

発達障害者は、脳の仕組みがただマジョリティと違うために、マイノリティとして浮いてしまう、ということ彼らに合った社会をつくることが、必要だと河崎は考えている。ブロックチェーンは、社会の仕組みや取引の仕組みをゼロから作ることができる、そして公正な仕組みを作ることができる、そうしたテクノロジーだ、と考えている。ブロックチェーンを使って発達障害者にとってあった新しい社会をつくる、それが河崎の考えだ。

現実、精神障害者の75%が非正規雇用である。健常者の平均年収は360万円であるが、障害者は250万円程度である。また、就労継続支援B型施設の場合1万5千円である。特に、精神障害者の就労は極めて大変だ。

ただ、私が以前お世話になった、福祉施設職員の言葉を聞いてもらいたい。

「自閉症の人がつくったパンって本当は美味しいです。彼らは、工程を一切ごまかさない、街のパン屋の職人だって実は細かいところは適当にやっている部分があるんです。一切誤魔化すことができない特性があるからこそ、街のパン屋にも引けを取らない美味しいいパンをつくることができるんです。

でも福祉施設のパン、という風に売り出してしまうと、本当は街のパン屋より美味しくとも市場では高くは売ることができない」

と語っていた。今、日本では、福祉施設の商品を買う動きが盛んである。ただ、それが健常者の市場でも高く売ることは難しい面がある。法律では障害者の服施設から買うように勧められているが、市場価値に比べ安く買い叩かれてしまうケースもある。

https://melike-guide.jp/melikechise-works/

B型施設のミライクチセさんが例ではあるが、一般のデザイナー顔負けのデザイナーが利用者にいる事業所がある。私が交流していた福祉施設にも3DCGのモデラーでプロとしても通用する利用者がいた。ただし、精神障害が原因で、昼夜が逆転したり、安定した納期がこなせなかったり、定時に出社することができなかったりするため、活躍することが難しい。また、仕事を発注するにしても、福祉施設はマーケティングが営利企業に比べ難しい面があるとのことであった。また、マーケティングを依頼することも費用がかさむので9割が赤字と言われている状況では難しい。

ブロックチェーン技術で、マイクロペイメント案件でも分割して発注することができるならば、そうした障害者が活躍することができる未来がやってくると考えている。小さな案件でも立派な案件をこなしている、という実績を積み重ねていくことができる、と考えている。また、直接、福祉施設が消費者と直接取引すること容易になる。今まで才能が埋もれてきた障害者が、ようやく活躍できる未来がやってきた。トレイサビリティによって、障害者が製造してから消費者に届く過程も明確になる。

ギフテッドワークス では、ブロックチェーン技術を教えている。それは、ただ技術を発達障害者に教えるのではなく、社会をつくっていく、障害者が活躍するインフラをつくっていくという願いを込めている。是非とも、賛同できる企業が広がって行ければいいと考えている。

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