Takehisa Sibata
Commons OS
Published in
10 min readJan 30, 2019

--

ブロックチェーン、サイバー空間において覇権を狙う中国ー一帯一路構想とブロックチェーンー

1.ファーウェイのCFOの逮捕が示すものー中国がAI、ブロックチェーン、インターネットで覇権を握る世界

ファーウェイのCFOがアメリカによる対イラン経済制裁違反により逮捕された。ファーウェイは、スマートフォンや基地局の通信製品でシェアを握る中国企業だ。組織的に技術を盗んでいる、軍事部門に技術が転用される懸念が報じられている。また、最近は、ファーウェイがアメリカの司法省により、技術剽窃の容疑で告発された。組織ぐるみで行われたことや、技術を剽窃した際には特別ボーナスが支給されたことも報じられた。ポーランドでもファーウェイ幹部がスパイ容疑で逮捕された。

ファーウェイは、人民解放軍の通信研究部門を担っている情報工学校のトップを務めた任正非氏によって1987年に創業された。そのため、人民解放軍との強いつながりや人民解放軍に技術が流出している可能性が疑われている。次世代技術の5G技術の分野で、ファーウェイはトップを走っており、日本の官公庁でもファーウェイの通信製品は利用されている。アメリカ政府などから、ファーウェイがファーウェイが通信プラットフォームに抑えられた場合、盗聴や情報流出のリスクが指摘されている。オーストラリアは既に一部分野でファーウェイの商品の使用が禁止され、ドイツやイギリスではファーウェイ製品についてセキュリティ調査を行なっている。

また、中国では、AI技術を活用したデジタル監視社会や決済システムの履歴を基礎とした信用スコア制度が導入されている。公安がつけるサングラスには、手配中の被疑者データと合致する場合は職務質問可能となってるとも報じられた。民主化活動家が、信用スコアで減点され、新幹線の切符が買えない事態も発生している。

中国政府の戦略には、以下の狙いがあるのではないかと指摘されている。

・中国がサイバー空間における軍事・情報分野において、覇権を握ること。

・GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)を超えたプラットフォームの創出

・中国の「管理されたインターネット」という考え方、政治経済システムを世界に広げていくという面。(西側の民主主義に対抗)

・全体主義的なITのプラットフォームの輸出

中国は、一帯一路構想を提唱しており、中国からヨーロッパまでの海のシルクロードと陸のシルクロードを結んだ経済圏をつくることを目標としている。後述するように、中国は、ブロックチェーンを通じてアジアからヨーロッパまでの経済圏を創出する構想を進めている。

2.一帯一路とブロックチェーンによるプラットフォームの創出

一帯一路構想とは、習近平国家主席が2013年に提唱した構想である。一帯とは、中国西部から中央アジア、ヨーロッパまでの「シルクロード経済ベルト」であり、一路とは中国南部、東南アジア、アフリカ東部を結ぶ「21世紀海上シルクルード」で、インフラ整備、物流網の整備、貿易促進、資金の往来、交通網(高速鉄道など)を整備していく構想である。以下のようなプロジェクトが行われている。

・欧州-中国貨物鉄道の整備

・スリランカのハンバントタ港の整備

・アジアインフラ銀行(AIIB)による世界各地のインフラ整備への投資

・中央アジアにおける資源開発、交通インフラの整備

・中央アジア、東南アジアに設置された中国と協力した自由貿易地区の設置。

海のシルクロード、陸のシルクロードをつなぎ、交通、物流、貿易を繋いで経済圏をつくっていく構想だ。一帯一路の経済圏をブロックチェーンで結んでいく構想も進んでいる。一帯一路構想は、アジアからヨーロッパ、アフリカにかけて加盟国が69カ国にのぼる。

一帯一路構想を受けて、デジタル一帯一路構想というプロジェクトも中国政府と賛同するアリババなどの企業が進めている。ブロックチェーン技術を用いられる。以下の構想が進められている。

・eWTP(世界電子貿易システム)の設立。スマートコントラクトなどの技術を用いた、電子貿易システムのプラットフォームづくり。大幅な税関手続きなどの簡素化。

・一帯一路構想の地域におけるトレーサビリティの確保や貿易手続の分野の簡素化。

・一帯一路構想の地域に多いイスラム教徒に配慮した、金融システムのプラットフォームの構築。

・一帯一路構想の地域に多い発展途上国の人々向けのスマートフォンを用いた決済システムや信用評価システムの導入。これらを通じた金融市場の活性化。

・将来的な一帯一路地域の貿易決済に活用される仮想通貨の導入。

中国のオンラインショッピング最大手のアリババは、一帯一路構想に合わせて、ブロックチェーンの決済システムや貿易システムの分野でブロックチェーンビジネスの海外展開を進めていく。世界電子貿易プラットフォームをつくり、中小企業が一帯一路構想に参加し、貿易展開できるような枠組みをつくることを提唱した。世界電子貿易プラットフォームでは、電子決済システムやオンラインの金融サービスの提供、クラウドシステムの構築をしている。そのモデルケースとして、マレーシアのクアラルンプールにマレーシア政府と協力しデジタル貿易地区をつくった。現在、eWTPの拠点は、アフリカのルワンダ、ヨーロッパのベルギー、マレーシアにある。電子版の一帯一路である。貿易決済システム、金融システムのブロックチェーン技術を用いた大幅の簡素化で、中小企業が参加しやすい貿易プラットフォームをつくるとのこと。

香港に拠点を持つMatrix AI Networkと言うブロックチェーン企業は、一帯一路地域のブロックチェーンを用いたインフラ事業に乗り出している。Matrix AI Networkは、中国政府系の一帯一路構想のリサーチセンターと契約を結び、ブロックチェーン技術とAI技術導入の支援を行うとのことである。一帯一路地域の貿易において、農業や鉱産物のトレーサビリティの分野でのブロックチェーン技術の活用、貿易に関わる手続きのスマートコントラクト技術を用いた簡素化を進めている。

一帯一路構想には、多くの発展途上国が参加している。銀行口座すら持たない人々も多く抱えている。そうした人を対象とした、決済システムや決済システムのビッグデータを基とした信用評価システムを導入する。信用評価システムを導入することで、金融サービスの拡充を図っていくとのことである。

ブロックチェーンを基盤とした、電子貿易システム、電子決済システムの構築、それらを通じた69カ国を一つの市場とした新しい経済圏をつくるのが中国政府の狙いである。

3.中国とロシアが目指すインターネットの路線

中国とロシアは「管理されたインターネット」という考え方を採用している。以下の似た政策を採用している。

・GAFAの利用規制、自国プラットフォームの育成。

・海外のIT企業が中露でビジネスをする場合は、政府への個人情報の提供や自国内のサーバーの設置など 政府に協力を強いることを要請するなど、政府への協力を強いる点。

・サイバー空間を通 じた国家の安全・栄誉・利益への損害、国家政権 や経済・社会秩 序を乱すデマ情報の伝播を禁止。

・自国主導の仮想通貨の導入と、個人がビットコインなどの仮想通貨を保有することへの規制。

サイバー空間を国家や社会秩序のために管理するという考え方を採用している。アフリカやアジア諸国には、独裁国家や権威主義的な政治システムを採用する国家が多いため、中国やロシアの考え方に賛同する国家も多い。一帯一路構想に該当する地域には、中央アジアやアラブ諸国には、独裁国家や権威主義的な国家が多くあり、中国・ロシアが提唱するプラットフォームに賛同するであろう。

ロシアは、ユーラシア経済連合全体で利用できる決済システムとして、仮想通貨を導入することを検討している。ユーラシア経済連合は、ベラルーシ、カザフスタン、ロシア、アルメニア、キルギスタンが加盟しており、旧ソ連の構成国家である。ユーラシア経済連合は、中国が進める一帯一路構想に協力していくことで同意している。ユーラシア経済連合と自由貿易協定を、イスラエル、ベトナム、大韓民国なども希望している。

カザフスタンやキルギスタンは、一帯一路構想に積極的に賛同し、資源開発や交通インフラの開発、自由貿易地区の設置といったプロジェクトが進められている。一帯一路構想では、ブロックチェーンによる貿易システムの簡素化、貿易決済ツールとしての仮想通貨の導入が進められている。中国とロシアには対立点があるものの、ドルを使わない仮想通貨による決済システムの導入、イランやベネズエラなどの反米諸国との仮想通貨を通じた連携を模索している。中央アジア諸国は、人権問題などでアメリカとの対立がある。

ユーラシア経済連合と一帯一路構想に賛同する国家、イランやベネズエラなどの反米を掲げる国家との間で、仮想通貨を用いた決済システムやブロックチェーン技術を用いた貿易手続きの簡素化が行われる可能性がある。

4.日本とCommonsOSの動向

以前、筆者が一帯一路構想とどう向き合うかという政策の勉強会に出席したことがある。日本と中国との間で、インフラ建設や高速鉄道の受注を巡って対立があり、日本がどのようにインフラ建設や高速鉄道を輸出していくかという趣旨の話であった。中国が、インフラや交通網の整備とセットで、ブロックチェーンによるインフラ構築や決済システムの導入を進めている話をすると、参加者が一堂に驚いていた。日本政府はまだまだ、インフラ建設とオンラインによるプラットフォームの構築がセットとなるという発想は弱い、ということであった。中国は、交通網とインフラ設備の建設とブロックチェーンによる各種プラットフォームの創設セットにしていること考えると雲泥の差があるように感じた。

一方で、ヨーロッパでは、GAFAなどの巨大企業でも従来の国家でもない、協同組合を通じた市民主導の経済システムを世界規模で構築する動きがある。以前紹介した、フェアコープ やブラジルのモエダがその例である。全世界で協同組合の加入者数は、10億人にのぼっており、公正・安全な経済システムをつくることをモットーとしている。そうした既存のインフラを基に、発展途上国の商品が公正な条件で作られたことをブロックチェーンで証明する動きや、発展途上国の非営利事業に送金するシステムを導入する動きがある。

日本では、まだまだ政府が世界規模でどのようにブロックチェーンでインフラを構築するかという戦略も市民が主導でどのように公正なプラットフォームを構築していくかという議論が少ない。Commons OSはそうした議論を提起していき、実現していく起爆剤となっていくことを考えている。

--

--