Takehisa Sibata
Commons OS
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7 min readMar 17, 2019

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仮想通貨?暗号資産?ー呼び名から考える今後の展望

1.仮想通貨から暗号資産に名称を変更

https://blogos.com/article/364531/

https://toyokeizai.net/articles/-/271407

仮想通貨という名称を暗号資産という名称に変更。G20をはじめとする国際会議でも仮想通貨を暗号資産という名称に変更しつつあるとのことである。

円やドルとの法定通貨と混同されることを防ぐこと、仮想通貨という名称が法律で通貨としてお墨付きを与えたような誤解を与えること、交換の容易性、価値の安定、保管の安全性などにおいて欠点も露出しており、通貨と呼ぶにはふさわしくないとの判断が働いたと見られている。

まだまだ、仮想通貨の価格は乱高下していること、国家がお墨付きを与えたものではないという点からは、通貨に程遠いという面がある。通貨としては、まだまだ信任を与えたのではなく、金や銀、株券などの資産として考えられているというメッセージとも取ることができる。

貨幣の歴史から考えれば、仮想通貨がそもそも”通貨”足りうるか、考えて見たいと思う。

2.古代からのお金の歴史

もともと、お金とは何であったか?太古の昔、物々交換が行われていた。例えば、野菜と魚、というようにである。物々交換では、希望の物と中々交換できない、という欠点があった。そこで、抽象的な価値を持つ交換ツールとして「貨幣」が発明された。

ミクロネシアのヤップ島では、今でも石貨が使われている。また、石器時代に一番近いと評されているパプアニューギニアでは、今も貝貨が用いられている。

ヤップ島の貨幣。話がそれるが、現代のビットコインと不思議なほど共通点がある。ヤップ島の石貨は、持ち運びができない。大きいものは直径3.6メートル、5トンに達する。この石貨、実は、所有の記録によって価値が決まる。取引をすると、所有の移転の記録が残され、それで例えばAさんは「このサイズの石貨を持っています」というように石の貨幣に記録される。ただ、Aさんはその石貨を持ち運びできてないため、記録だけが残る。実は、ブロックチェーンの仕組みとそっくりである。ヤップ島一番の金持ちは、一番大きな石貨を持っていたが、嵐で海に沈んでしまった。ただ、石貨を持っていたとする所有の記録だけで、村一番の金持ちと信頼していた。

石貨そのものに価値があるのではなく、ヤップ島の住民が「石貨に価値がある」と価値観を共有した上で、譲渡・交易のツールとして活用していた点が、今の管理通貨制度やビットコインと考え方が近いのだ。

とはいえ、古代において、ヤップ島は例外。布や金銀などの貴重品で持ち運びに便利なものが貨幣として用いられた。金や銀が、時代が下るに従い、貨幣として選ばれたのは、価値が安定している上に、分割しやすく、運搬に便利だからである。紀元前6世紀の小アジアに成立したリディア王国で初めて金貨が用いられた。造貨幣は、金属の希少性と発行する国家のへの信頼によってその価値が担保された。貨幣は持ち運びも便利なため東西交易にも利用された。ただし、産出量によって左右されるという問題がある。例えば、東ローマ帝国のソリドゥス金貨は重量と純度が高くイスラム圏からヨーロッパまで基軸通貨として使用された。

しばしば、歴史上、貨幣の質を落として鋳造量を増やすという措置がインフレーション措置が取られた。(「悪貨が良貨を駆逐する」)鋳造貨幣の時代においては、金銀の採掘量が多くなおかつ国家の信頼度すなわち軍事力の強い国が覇権を握った。

10世紀の中国の宋王朝の時代になると、世界で初めて紙幣が発行された。塩やお茶は、当時の宋王朝では、専売制度がとられており、お茶や塩との交換レートによって紙幣の価値が担保された。北方の遊牧民族の王朝との戦争や経済の活性化により紙幣は不足した。乱発されしばしばインフレーションが発生した。

現代では、管理通貨制度が採用されている。管理通貨制度は金の価値を裏付けにしたものではなく、政府の信用力によって価値が定められた通貨制度である。通貨の発行量は当然ながら金の発行量に拘束されない。政策の恣意性によってインフレーションもしくはデフレーションになるリスクが伴っている。通貨は金属そのものが価値を保障していたものが政府によって保障されるものとなったのだ。管理通貨制度においての勝者は強い軍事力と生産力を持つ国家である。

3.仮想通貨はどうなるのか?

現状、仮想通貨は、暗号資産とも呼ばれるように、まだまだ資産の一つとして見なされる傾向が強い。ビットコインの暴騰と暴落から示されるように、通貨としての安定性にかけると見なされている。

ただ、投機の手段を超えたところに仮想通貨の未来があるのではないか、考えている。

ベネズエラで仮想通貨による年金の支払いが発表された。ベネズエラは、暴動が発生し、国家がデフォルトし、破綻寸前である。

https://cc.minkabu.jp/news/1461

ベネズエラは、政治的な混乱が続いている。ハイパーインフレーションも進行している。自国通貨が暴落し、ベネズエラからの移民がアメリカに大勢いるためアメリカからの送金に頼っている。その際にビットコイン が用いられている。

とは言え、超国家的な通貨が自国の政治体制よりも通貨よりも信頼される事態は政府としては避けたい。そこで、国ごとICOをした上で、石油価格と連動したペトロという通貨を発行し、ベネズエラ・ソベラノとは別立ての安定した通貨を発行するという手段を取っている。安定資産として通貨を保有したい人はペトロ、中央銀行が発行する通貨としてのベネズエラ・ソベラノという風に二本立てするという考え方だ。ペトロによる年金支払いを実施しようとしているが、年金は老後の生活のために定期的・継続的に定額給付される性格上、インフレーションに非常に弱い、とする特徴を持つ。石油価格と連動した仮想通貨であるペトロは、石油価格と連動しているという性質上、モノを担保としているためインフレーションには強い性質を持つ。年金の支払いという面において、ペトロは非常に相性が良い。

ペトロの動向は今後注目されると筆者は考えている。理由としては、経済制裁下にある国や経常赤字が問題になっている国においては、資産流出が問題になっており、その対策として、国ぐるみのICOとそれに伴うインフレーションに強い性質を持つ仮想通貨の流通は、一つの資産流出対策として参考になる。その際、仮想通貨は石油などのモノの価格と連動させるという手法を取るであろう。

経済制裁下のイランでは、通貨が大暴落を繰り返し、自国のイラン・リアルよりも中古車の方が資産として安定性が高いために、中古車で資産を持つ人が増えた。中古車とモノを交換する人まで現れた。そうした際に、何らかのモノを担保として仮想通貨を発行し、モノの価格を仮想通貨として連動させるといったことが可能となりかもしれない。

https://toyokeizai.net/articles/-/204182

「仮想通貨は物々交換の時代に近く」とする説を唱える方もいる。物々交換の通貨と比べたメリットは、通貨は政府の信頼を基に価値の尺度として流通されるが、物々交換は政府がなくとも交換する価値尺度として利用可能な点にある。仮想通貨は、政府による信頼をベースとはせず、恣意的な発行ができないという希少性ではゴールド(金)と一緒である。ただし、それだけでは、土地などの資産と同様に乱高下を繰り返しやすい性質を持つ資産となる。そこで、日常的に流通されているモノの価値を基盤として、仮想通貨を流通させるというアイディアが存在している。そうなると、どうなるか?

物々交換に近い、モノのを担保とした通貨の時代が到来するのである。それが一つの仮想通貨が通貨として用いられる、一つの在り方であろう。そうなった時に、暗号資産でも仮想通貨でもない、「モノ」の一つとしての通貨に仮想通貨は収斂するのではないか?と考えられる。

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