帰属意識の多様化は、小さな経済圏を生みだす。

Koyo Uem
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6 min readMar 15, 2018

シリーズ「2045年に向けて」は、今起こりつつある変化についての話をしていきます。前回のエントリーでは、価値創造の担い手や経済の中心がコミュニテイへと移っていく話をしました。第2回目は、コミュニティが社会的価値を生み出す時代において、人々がどのような帰属意識を持つのかについて考えたいと思います。

人は誰でも、家族・故郷・国などに帰属意識を持っています。入学すればそのクラスに、入社すればその会社に、引っ越せばその地域社会に、趣味を楽しめばその趣味仲間に、それぞれ帰属意識を持ちます。おたがいの情報を知りあい、愛着を持ち、利害関係を共にすることで、帰属コミュニティ内の課題は徐々に人ごとでは無くなってきます。

突然ですが、あなたは、何のために働いていますか?どうして頑張っているんでしょうか?お金のためでしょうか?自分のためでしょうか?家族の住宅ローンのためでしょうか?会社のためでしょうか?それとも。。

ネットの発達で個人間の関係性が重層的・多元的なものになってきている。

もちろん、自分のため、お金のために働いていると答える人が最も多いでしょうが、果たしてそれだけなのでしょうか?

私たちは、普段、帰属しているコミュニティを、世界の中の日本。日本の中の自社。自社の中の部門。部門の中の私。というように、ひとつの価値軸に基づいた階層的な社会の中にいると意識しがちで、社会の制度設計も階層的な構造で設計されています。

しかし、私たちは、実際には重層的にコミュニティと関わっており、色々なコミュニティから影響を受けている、コミュニティに影響を与えている存在でもあります。日本社会の一員であると同時に、地域社会の一員でもあり、会社の一員でもあり、Facebook のイイネ!コミュニティの一員でもあり、チェックイン機能で滞在する位 置を同じくする一員でもあります。もちろん、アジア人の一員でもあり、世界の一員でもあり、地球の生命体の一員でもあります。

2010 年代、ライフスタイルや就労に対する価値観の多様化に、企業も国も、ひとつの価値軸に基づいた既存の制度設計では対応できず、「会社のため、評価 (お金)のために頑張れ!」という一様な動機づけが有効でなくなる流れは止まりません。会社への帰属意識が低下することは、労働に対するモチベーションの低さや労働生産性の低さの原因にもつながっているのではないでしょうか?ただ、その状況を課題として捉えるのではなく、帰属コミュニティの割合についての歴史の変遷を見ていくと、会社への帰属意識が高く、利害関係を共にしていた当たり前が、実は永続的なものではないことに気がつきます。

上のグラフは、正確な調査に基づいたものではありませんが、たとえば、高度経済成長期の1970 年頃は、家族のためというよりも、会社や日本経済発展のために働くとい う価値観が当たり前した。しかし、時代をさかのぼって1900 年頃(日露戦争前後、小説「坂の上の雲」の頃)は、日本国のために働くという価値観はようやく生まれ始めた頃で、イエのために働くという価値観がまだまだ一般的でした。さらにさかのぼって1800 年頃には、藩(殿)やイエ、ムラのために働くという価値観が一般的でした。帰属意識や利害関係に基づくコミットメントは、時代の変化とともに移り変わるものです。20 世紀、特に戦後に成立した帰属意識や慣習にとらわれて、雇用をはじめとした制度設計を維持するよりも、地域や世代の持つ帰属意識や働き甲斐にあわせて、仕組みや制度を再設計したほうが、よりモチベーションも生産性もあがるのではないかと考えています。世代による価値観のズレは大きいですが、この現状を直視して対策を打たないと、企業や自治体自体の継続性も望めないのではないでしょうか?

「ワンピース世代」の反乱、「ガンダム世代」の憂鬱』を書いた鈴木貴博氏によると、現在20代の「ワンピース世代」は自由と仲間に価値を置き、40代「ガンダム世代」は理不尽 な組織にとらわれ逃場がないと分析しています。これまで私たちに安定と安心を担保してきた家族・会社・地域社会は変質しています。先行きの見えない不安定感が増すと、そのまま頼ることができず、人々は不安になり、何か頼るものを求めようとします。例えば、どこかのコミュニティに帰属し、仲間の一員になることで、 心を安定させようとします。人は、自分をとりまく環境が安定している時には、個を主張し、仲間との関係に気をくばらなくても生きていけま すが、自分をとりまく環境で不安が大きくなるにつれて、個人として生きる自信を失い、新たに仲間を求めるか、既存の権威や規範に過度に服従するようになります。自由を求め行動する人は、これまでと違ったコミュニティや、SNS やネットワーク上を越境し、価値観の合う 仲間と新たな関係性を求めるようになります。逆に、これまでの帰属コミュニティにのみにとらわれている人は、より自分自身の自由を奪い、過度に規範に従い、より保守的に収縮するようになります。若い世代の行動を見ていると、不安定な時代に向けて、誰よりも早く適応し、必要な 能力を身につけはじめているとも考えられます。

チープ革命による情報コストの低減と、インターネットによる緩いつながりの登場は、人々が複数のコミュニティに帰属することを可能 にしました。私たちは、これから、家族、会社、趣味、興味、地域、国、そして地球と、重層的な帰属意識を持つようになるのではない かと考えています。生まれた育った故郷に愛着を持つように、地球の裏側で起こった事にも、人ごとでないと言う感覚を持つようになるか もしれません。メディアの多様化がもたらす新たな価値観との出会いや、多様な人々との出会いは、これまで人々が切り捨てようとしてきた、家・会社・地域社会などの 帰属コミュニティの再評価と再生を行うようになるトリガーにもなります。時代の流れ・日々接するメディアによって、人の心の拠りどころは変化していきます。そして、ブロックチェーンをはじめとしたテクノロジーのさらなる進化で価値交換はより低コストになり、経済圏の民主化が進んでいきます。これまで、私たちは、一元的な価値軸と信用によって生まれた経済圏の中で暮らしてきましたが、コミュニティが独自にトークンを発行することで、多元的な共感による経済圏を構築することが可能になりました。多様な人々のモチベーションや生きがいを、独自通貨の流通と普及によって高められる時代がやってくる可能性が、社会の価値観の変化の面からもテクノロジーのによる実現の面からも高くなってきていると言えます。

初出:2012年
ブロックチェーン部分を加筆:2018年

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Koyo Uem
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前のIDは佐久間東洋。未来学者。人々とAIが協調する社会の中での、ライフスタイルや幸せについて考えを巡らせながら、ライフシフトを実践しています。著作権はCC「表示-継承」 https://twitter.com/SakumaTouyou