Takehisa Sibata
Commons OS
Published in
11 min readFeb 22, 2019

--

「最底辺の10億人」から考えるアフリカの悲惨な現実とブロックチェーンが解決する未来

1「最底辺の10億人ー最も貧しい国々のために本当になすべきことは何か?」が示すアフリカの貧困の現実

「最底辺の10億人ー最も貧しい国々のために本当になすべきことは何か?」は、アフリカの貧困を考える上で非常に興味深い本である。2008年と少し前に書かれた本ではあるが非常に参考になる。世界銀行のディレクター、オックスフォード大学教授を歴任したポール・コリアーさんが執筆した。

本著によれば、過去30年間、サハラ以南のアフリカ諸国にはGDPを1%〜2%を押し上げる程度の援助額が投じられた。ところが、現実には過去30年間のGDPの成長率は0%もしくはマイナスであった。つまり、これらの援助は、経済成長をもたらしたのではなく、崩壊を食い止め、現状維持をさせるという効果に留まった。

2005年、イギリスのグレーンイーグルズで開催されたG8の会合では、アフリカの援助を2倍に増やすことを決定した。援助額を2倍に増やすならばGDPの成長率は2倍になるのだろうか。援助は、一定の額を越えると援助の効果が落ちるという「収穫逓減の法則」というものがあり、GDPの16%を越えると援助の効果は落ちるとい研究結果もある。現状の枠組みでは、援助の効果が限界に達してしまうのではないか、と本著では述べられている。

本著では、アフリカの貧困の原因にいくつか挙げている。一つは、内戦や政情不安。アフリカは、本来、為替レートが安いため、輸出の競争力を求めて先進国などから企業が進出し、経済成長はしていくといくのが経済学の理論上はそうなるとされる。ところが、内戦や政情不安が多いためそのようにはならない。例えば、マダガスカルでは、2001年の大統領選では与野党が開票結果を巡り対立し、政情が混乱し、野党支持者が首都を支配し、与党支持者が首都への物資輸送を停止するといった事態に発展した。。マダガスカルは、経済特区を設置し、ナイキなどを誘致して、外資主導で7%の経済成長を達成をしていたが、一連の政治的混乱で多くの企業が撤退し、経済成長率が大きく落ち込んだ。そうした不安があるため、なかなか、企業を誘致しにくい、誘致したとしても安定した操業への不安がある。

援助についても色々問題があることを指摘する。例えば、不採算部門について、アフリカ諸国を守る、という観点でNPOが援助金を受け取ることで、結果的に不採算部門に援助が続けられてしまう、という問題がある。援助を受けた国や国民よりもNPOが利益を受けてしまうという問題である。

政府が腐敗しており、多額の援助をしても効果がないのではないか、という批判もある。アフリカ諸国の中には、原油やダイヤモンドなど資源が豊かな国も多い。ただ。著者は、2000年代前代の石油価格の高騰がどの程度経済成長率に寄与したかを調査するために、アフリカの石油輸出国の非石油部門部門の経済成長率と非石油輸出国の経済成長率と比較した。2004年のIMFの資料では、その両者の成長率が一致していた。つまり、石油から得られた棚からぼたもちの収入が実は、有益には使われていない、ということがこのデータから言える。軍事費や公金の横領など色々考えられている。

学校建設に使われた援助が適正に使われたかどうか調査した際には、9割以上のお金が現地有力者への賄賂など学校建設以外の資金に使われていたこともあった。フランス企業の場合は、海外ビジネスにおける賄賂は税項目上、経費として認められている。これらの背景から、アフリカ諸国への債務削減、援助額を増やしても効果が薄い、と筆者は結論づけている。

この章をまとめると以下のようになる。

・政情不安が原因で、安定した投資を受けることが難しい

・援助が適正に使われているか、しっかり監視する仕組みが必要

これらを改善する仕組みが必要である。

2 ソマリランド共和国とブロックチェーンの親和性

政情不安を解決しているアフリカの例として、ソマリランドがある。

1988年から今日まで内戦が続くアフリカのソマリア。氏族対立と、バナナや動物の輸出やアデン湾に面した交通の要衝となる良港を持つ豊かな北部(ソマリランド)と貧しい南部の経済格差などが原因で起きた。北部のソマリランドリは1991年に事実上ソマリランド共和国として独立した。元々イギリス領ソマリランドであり、ソマリランドの氏族が結束し内戦には参加せず、氏族指導の下で民主主義を導入した。ソマリアは世界最貧国な上に内乱が続いているが、ソマリランド共和国は非常に安定している。

ただ世界のどこの国からも正式には承認されていない。特に、宗教対立や部族対立を抱えるアフリカ諸国は、ソマリランド共和国の独立を承認した場合、自国にも独立運動が波及することを非常に恐れている。独自の通貨を持ち、複数政党制である。公衆衛生も行われ、日本人の経営学者である米倉誠一郎氏が学長を務める起業家を育成する大学院「Japan-Somaliland Open University」も開学した。アメリカ人社会起業家であるジョナサン・スター氏が、投資会社社長を辞めてまで、ソマリランドに行き寄宿学校を開いた。その学校からはMITやハーヴァードなどの名門校に続々合格している。

アフリカの多くの国では女性の性的暴行が社会問題になっているが、ソマリランドでは女性のレイプを禁止する法律も制定された。女性の一人旅行も可能である。

とはいえ、輸出額のうち75%がらくだの輸出が占め、道路は舗装されておらず、水道は普及していないあたりは、まだまだ発展途上国。アフリカにあってはトップクラスに政治的には安定している。

ソマリランドでは、キャッシュレス化が世界でもトップクラスに進んでいる。携帯電話のキャリアの競争が激しくアフリカで一番携帯電話料金が安いとされる。モバイルバンキングが普及し、ソマリランドでは数ヶ月間現金を触ったこともない住民もいるとのことである。ソマリランドの世界各地に多く居る離散民がDahabshiilという電信・送金サービスを用いてソマリアにドルを送金している。ソマリランドには、またATMやクレジットカード、キャッシュカードはほぼ存在しない。(テレビ番組やガイドブックの中にはない、と明言するものもあるが、2014年にホテルに設置されたとのこと。)国全体がキャッシュレス化が進行している。

正式な国家として、国際機関からは援助が受けられないことがこの国の難点であり、資金調達に苦労している、とのことである。援助を受けられない厳しい状況があるからこそ、教育を改善するために起業家育成の大学院やアメリカの名門大学に合格者を出す寄宿学校を起こした社会起業家がやって来た。

ソマリランド共和国のような動きは、ブロックチェーンテクノロジーが普及すれば加速するのではないか?と筆者は考えている。ソマリランド共和国は水道や舗装道路がほとんどないインフラ面では後進国。銀行インフラも整っていない。だからこそ、固定電話より先に携帯電話が普及し、携帯電話料金を支払う手段としてモバイル決済が普及した。

ブロックチェーンで、より簡単に安全に送金が可能となり、かつ各種社会保障サービスを構築出来るようになる未来がやってきている。また、ブロックチェーンによる通貨は恣意的な発行が難しいため、ジンバブエで起きたようなハイパーインフレーションのリスクが極めて小さい。アフリカでは、国家よりも部族や宗教に帰属意識を持つ人々が非常に多い。となれば、ブロックチェーンによる統治機構をソマリランドのように構築する動きがでてくるのではないか?と予測している。

また、アフリカでは、海外に移民などで先進国に暮らす人が祖国の親族にアメリカ・ドルを大量に送金している。ブロックチェーンで送金手数料が安くなるため普及することも想定されている。

また、ICOやSTOに見られるようにブロックチェーンによる大規模な資金調達は容易になっている。ソマリランドが国際機関から援助を受けられず、国家の運営面で資金難を抱えているという課題も、ブロックチェーンによる資金調達でだいぶ改善することができる、と筆者は考えている。

こうしたことテクノロジーが、アフリカにおいて部族や宗教を基にした共同体やソマリランドのような事実上の独立国家を形成する動きを加速させると考えている。不安定な国家ではなく、同一・友好関係にある氏族・部族による共同体をつくったほうが、より安定した国家・地域をソマリランド共和国のようにつくることができる。

この章をまとめると以下のようになる。

・ソマリランドでは、地域の同一、友好関係にある氏族が結束し政情不安を収集し、事実上の独立国家をつくったこと。

・ブロックチェーンなどのテクノロジーがその動きを加速させるのでは?

・ソマリランドなどアフリカではモバイル決済システムが普及している。

・ブロックチェーン技術で送金システム、決済システム、税制・社会保障のシステムまでつくることが容易。

・ICOなどの資金調達手段で国際機関から援助が受けられないという問題も改善出来る可能性がある。

3 ブロックチェーンを援助に活用する動き

「最底辺の10億人」で述べられてる通り援助を取り巻く状況は非常に厳しい。債務削減、援助額の拡大では、貧困問題が解決されないのではないか?と指摘している。むしろ、発展途上国の政府の汚職やガバナンスの問題を解決することの方が先ではないか、効果があるのではないか、と言える状況である。国連では、援助に関わる汚職や腐敗の問題、児童労働など様々な発展途上国の課題を解決する「ブロックチェーン・ミッション」をスタートした。ブロックチェーン技術の活用分野は、公的な身分証明を持たない難民などに対する虹彩や顔認証技術を利用したID付与、20億人ともいわれる銀行口座を持たない人々の金融へのアクセスを可能とする「金融包摂」、人身売買や児童労働、“現代の奴隷制度”ともいわれる強制労働の防止、公共サービスの向上など広範囲に及ぶという。

また、WFP(世界食糧計画)はブロックチェーン技術をシリア難民の食糧援助に活用する実証実験を行った。お金の流れを追跡出来るため、不透明なお金の流れもしっかり記録される。そのため、透明性と効率性が大きく増したとのことである。

実際、途上国の人道援助にブロックチェーン技術を活用するスタートアップ企業も現れている。人道支援や援助にブロックチェーン技術を活用できないか、ということで世界5大陸のNGOや基金など42の人道支援団体が参加するネットワーク「Start Network」が結成された。イギリスに拠点を置くブロックチェーンを用いた送金技術を開発する会社であるDisberse社が「Start Network」とタッグを組み「新しい人道支援」の枠組みを開発するとのことである。

従来の人道支援では、「非効率」「不透明」ということがつきまとっていた。金融機関、それに加えて現地政府や有力者が仲介者として介在し、高い手数料が取られてしまうことや着金まで時間がかかることがあった。お金の流れを追跡することが難しく、必要な人に資金が本当に届いているか不透明であった。また、フランス政府が海外ビジネスの場合においては、賄賂は必要経費として見なされているケースから分かる通り、援助の場合現場では賄賂が横行している。

そこで、Start NetworkとDisberse社が共同で人道援助のプラットフォームを開発した。資金が送り手にきちんと届けられているか、不正やエラーがないかどうかをブロックチェーン技術を用いて確認されるとのことである。オランダからアルバニアへの送金テストが行われ成功を収めた。国際送金が一瞬で行われただけではなく、着金に至るまでの過程を確認することができた。

なかなな、援助を取り巻く情勢が不透明であり、援助額が受け手に届いているか調査したら9割以上の資金が仲介料や手数料で消えているケースもあった。他にも資源輸出で獲得した資金が、政府の腐敗によって有効活用されていない事例も示されている。ブロックチェーンによる国際送金の枠組み、と資金の流れを追跡する枠組みができれば、援助資金や資源輸出で獲得した資金が、社会で有効活用できていないという問題を解決できるのではないか、と考えられる。

この章をまとめると以下のようになる。

・アフリカの多くの国では、開発援助や資源輸出で獲得した資金が有効に活用されていない。

・金融機関や現地政府、現地有力者など仲介者を多く挟み、賄賂が横行しているため受け手に十分な額が届かない。

・ブロックチェーン技術により仲介者を挟むことなく送金できること、資金の流れを追跡できることで、そうした問題を解決できる。

終わりに

長年貧困に苦しんできたアフリカ。ブロックチェーンによるテクノロジーが、腐敗した政府のガバナンスや開発援助などの問題を一挙に解決できる可能性が出てきた。それどころか、ソマリランド共和国のようにモバイル決済が先進国以上に普及している事例も出てきた。Commons OSはその先駆けとなるよう頑張っていきたいと考えている。

--

--