Takehisa Sibata
Commons OS
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7 min readMar 31, 2019

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生協運動のルネサンスープラットフォーム型生協という考え方

1.生協運動の歴史から考える現状への違和感

http://www.doujidaisya.co.jp/book/b105821.html

パルシステムは、日本ではじめて個別宅配を行った革新的な生協である。その生協の元理事が、今の現状に違和感を感じるとのことである。少し古いが、毒入り餃子事件の際に書かれた本である。

毒入り餃子事件が起きた天洋食品の工場も見学し、衛生基準もチェックしたところ日本の基準と遜色はない。極めて厳しい基準で運用された。にもかかわらずなぜ起きたのか?被告となった労働者は、臨時工であり、会社の労働条件に不満があり犯行を下とのことであった。筆者である元理事は、そこにこそ、労働者や生産環境に向けなくなった生協のあり方に異議を申し立てているのである。元々は、消費者、生産者がともに繁栄しより良い社会を構築していくというところに生協の理念があったのではないか?そこへの違和感を表明したのである。

生協とは、どういった役割を戦後日本で果たして来たのか?戦後日本はいくつもの消費者・生産者合わせて様々な問題があった。

まず、高度経済成長期の急速な都市化とそれに伴うインフラの未整備が挙げられる。1960年代の東京等の大都市圏では、急速に開発が進み、大規模団地がつくられた。ただ、店舗や公園等のインフラが未整備であった。数千人単位の団地に食料品店がない、という問題があった。そこで、住民が自主的にお金を出し合い店舗を開いていくということを行った。

戦後日本では、様々な粗悪品が横行した。消化器の出血や喘息などのリスクを高めるサリチル酸を使用したお酒(防腐剤として使用された)、着色剤を大量に使った数の子やたらこ、表示とは異なる商品などなど。1960年には、牛肉の缶詰にはえが入っているので保健所に持っていったところ、その缶詰に使われていた肉が牛肉ではなく馬肉や鯨肉が混ぜられてあった。カネミ油症事件では、ダイオキシン類が食用油に製造過程で入れられており、患者が体調を崩す、真っ黒な胎児が生まれ二週間でなくなるという衝撃的な事件もあった。

そうした背景から、主に主婦が主体となった消費者運動が盛んとなり、生協運動が盛んになった。品質や栄養、賞味期限をしっかりした商品の販売、食の安全性にしっかりした商品の販売と行ったことをおこなった。市民が出資金を出し合い、市民による商品の販売と行ったことを行った。

高度経済成長期にはまだまだ、企業が価格の主導権を握っていた、また、70年代には、石油ショックに伴う物価の高騰、品物不足が発生した。そのときには、灯油の販売では、カルテルを結んだ便乗値上げも相次いだ。そうしたときに、市民が生協運動に参加し、産地や協力メーカーから共同購入・産地直送という形で直接仕入れるということを行った。「安くよりよいもの」をという理念で市民が様々なプロジェクトを行った。

他にも、公害が問題になったときには、合成洗剤の追放運動、環境に配慮した商品化初と行ったことが行われた。

戦後日本で、消費者運動や社会問題の解決の主体だった生協。しかし、その意義がだんだんと失われてきたのでは?という問いかけである。元理事は出資金を通じた、食糧の共同購入を通じた貧困家庭への支援や環境問題の解決のプラットフォームとしての新しい生協のあり方を考えるときではないか?と問題提起をしている。

2.カタルーニャにおけるフェアコープ

社会解決の主体としてのプラットフォームとしての生協。カタルーニャ地方で始まったフェアコープ。南欧全域やスイスにも加入者を拡大している。フェアトレード環境に優しい商品の開発、地域に根ざした特産品を製造する業者に対し認証を与えて、フェアコインで商品を購入することが出来る。また、フェアコインの経済圏に参加する企業は、ホワイト企業であることを条件としている。労働者を守るためである。フェアコインは、仮想通貨である。

また、フェアコインを通じた無利子による貸し付けを行う金融機関の構築、出資金で空き家を購入し住宅困窮者(スペインは若者の失業率5割前後と極めて高い)に分配するシステム、医療システムの導入等新しい社会実験が勧められている。

フェアコープに賛同する商店では、スマートフォンの決済で実際に購入することも可能である。フェアコープのバザールで実際に商品の購入ができる。

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フェアコープを受け入れているお店に貼られているラベルやTwitterで紹介された、フェアコインが使用出来るお店の写真である。

スペインは、金融危機が深刻で大きな被害を受けた国の一つである。銀行から家が差し押さえられるケースや会社が倒産するケースが相次いでいる。若者失業率が5割を超え、全体の失業率が14%と高い。そのため、リーマンショック以前の銀行の無責任な貸し付けに対する責任を求める声が相次いでいる。そうした声に対応して、市民による金融機関や通貨の管理と言う運動が発生しフェアコープの運動につながっているのである。フェアコープの目標は、資本家や銀行家からの自助を通じた自立とそれを目指すこと、共同体における直接民主制の実現、南北の富の公平な分配、利子の否定、循環型のエネルギーの実現を掲げている。この目標に賛同している企業の加入、その目標に掲げる会社の商品を買うときに使用出来るコインとしてフェアコインが用いられている。また、フェアコープは、世界中の地域それぞれが地産地消を行い、地域による経済の管理を通じた”真の独立”を目指している。

なぜカタルーニャ地方でこの運動が発生したのか?一つの原因は、スペインの中央政府への反発である。カタルーニャ地方は元々独立国家であった。15世紀にアラゴン・カタルーニャ王国とカスティーリャ王国が王族同士の婚姻でできた国家がスペイン王国である。当初は独立した政治体制を維持したものの、カスティーリャ王国の方が強かったため、段々と自治権が奪われてしまう、という歴史があった。20世紀のスペイン内戦では、フランコ率いるファシストの反乱軍とと共和派との間で凄惨な内戦が勃発した。共和派はカタルーニャの独立を擁護し右派やフランコ率いる反乱軍はカタルーニャの自治には反対であった。特に、スペイン内戦の時、カタルーニャはアナーキストが強かった。理由としては、中央政府・中央政権そのものへの反感と地域自治の擁護という考え方があったからである。

フランコ政権下では、カタルーニャ語の教育が禁じられ、地名も変えられた。また、経済政策では、投資は後回しにされた。激しい弾圧が加えられた。

そうした背景があるからこそ、アナーキズムの伝統、地域文化の振興、協同組合による地域に根ざした経済の創出という発想を持つのである。そして、地域の問題、貧困の問題、失業の問題、経済の問題に取り組む”プラットフォーム”としての生協を目指しているのである。

おわりに

プラットフォーム型生協という考え方は非常に斬新である。生協運動は、消費者の権利の拡大、消費者主権、消費者自身による商品の開発ということを実践してきた。運動の成果として、安心・安全な商品づくり、食の安全、食品表示と行ったことを実現してきた。

現代では、環境問題、南北問題、貧困問題などなど、国境を超えた様々な社会課題がある。そして、国内に目を向けても、独居世代の増加と社会的孤立、貧困問題、深刻な高齢化に伴う地域コミュニティの空洞化・・・などなど深刻な社会問題を抱えている。もう一度、協同組合が主体となった地域の問題の解決が求められる時代ではないだろうか?その点で、社会問題を解決するプラットフォームとしてのカタルーニャの生協は非常に参考になる事例である。

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