Takehisa Sibata
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9 min readFeb 25, 2019

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2040年には公務員が半減ーいかに効率的な政府をつくるかー

1.2040年に公務員が半減?ー総務省の研究会からの報告

人口減少社会に突入する日本。深刻な少子高齢化は、労働人口を激減させる。

「自治体戦略2040構想研究会」では、自治体職員が半減しても行政サービスできる体制を構築していくことを2040年代に構築できるように、と言うことを提言した。

2040年代には、団塊世代(1947年〜1950年)が90歳代を迎え、団塊ジュニア世代(1971〜1974)が65歳以上になる。この世代はベビーブームの世代であり、介護の問題、老々介護の問題がますます深刻化する。

以下のようなことが生じるとされる。

・深刻な若年労働者の不足

・高度経済成長期に造られたインフラの老朽化

・過疎地域の自治体の維持が困難になってくること

・それに伴う行政サービス、教育水準の低下

・東京における深刻な介護・医療施設の不足

2017年の出生数が95万人であり、団塊ジュニア世代の出生数が1年あたり平均200万人であった。団塊ジュニア世代が2040年には、各年齢約198万人である。2017年前後に出生した人が社会人になるのはちょうど2040年前後である。また。2019年現在、団塊ジュニア世代は40代後半と生産年齢の中で重要な役割を担う世代でである。単純比較はできないが、若い世代がある世代より半分の人口で、社会を運営していく必要に迫られる。高齢者の割合も大きく増えるため、行政への負担は今より格段に増えていく

どうやって効率が良い政府、自治体をつくっていくかが日本の緊急の課題である。そのため総務省の研究会は以下のように提言した。

・従来の約半分の人数で自治体を運営できる仕組み

・AIやロボティクスが処理できる事務作業は全てAIやロボティクスが処理する体制の構築

・自治体の情報システムや申請処理の標準化・共通化の実施

特に、自治体の行政窓口では、各地域ごとに裁量が認められており、求められる書類が異なったり、申請書類の様式が異なったりすることがある。こうしたことも、見直されていくであろう。

2.ローカルルールという問題

自治体・政府のAIやロボティクスの導入を阻むものは何か?その大きなものとして筆者は、ローカルルールの問題が避けて通れないと考えている

https://kaigonews.joint-kaigo.com/article-10/pg367.html

小泉厚労部会長が、介護の事務負担の問題を社会保障制度に関する行政手続きの改善を図る「国民起点プロジェクトチーム(PT)」にてヒアリングを実施した。介護保険は地方自治体が執行するため、国で基準はつくっても現場の裁量に任されていることが多い。

・東京都二十三区内のある区では、 独り暮らしの高齢者でも区内に家族が住んでいれば同居とみなして生活援助を提供してはならないとして、集団指導を実施したケース

・大阪では、お散歩 介助は一律認めないというケース

・福祉サービスの場合、通所費用の手続きに求められる書類が自治体で違う、求められる書類も少し異なるというケース。

そうしたケースがあり、自治体ごとにまちまちに運用されている。その結果として、市区町村を超えて、介護施設を運営する企業にしてみれば、事務を標準化することができず、市区町村ごとの運用ルールがあるため、それが現場の事務を負担しているということが議論されている。

国の行政手続では、雇用保険・社会保険・労働保険の現場でもそうした問題が根強くあった。1947年の地方自治法が制定された際に、社会保険関係事務や職業安定事務(ハローワークの事務)は地方事務官と決められた。国家公務員でありながら、都道府県の事務に従事し都道府県知事の指揮監督下に置かれるという扱いであった。労働安全行政もそうである。そのため、議員とのパイプがある事業所や官公庁と信頼のある事業所が書類が軽減され、逆にコンプライアンスに問題がある事業所は裁量の範囲で書類が増える、といったことが生じた。00年に地方事務官が廃止されるまで、社会保険関係事務と職業安定事務は都道府県知事の指揮・監督下にあった。

地方事務官制度の矛盾としては、雇用保険や社会保険は、例えば地方によって年金制度が異なることがないにも関わらず、地方自治体の指揮下に置かれるという矛盾である。消えた年金問題の背景には、地方事務官制度によって、中央官庁が地方の事務所を統制できなかったことが背景にあるという指摘がしばしばなされている。

雇用保険・社会保険の分野では、外部連携APIが導入され、社会保険労務のソフトウェアから直接電子申請ができるが、地域によって求められる添付書類が異なる、という問題がある。例えば賃金台帳が求められるハローワーク、省略していいハローワークなど添付書類が異なるため業務を本社で一括して行うことができない、問題がある。そのため、結局は地域ごとのルールに合わせてやるためには、紙で手続した方がいいという問題がある。地方事務官制度で長く運営してきたため、ローカルルールが根強く残っている。

ただ現場の言い分としては、ブラック企業が多い地区、そうでない地区、期間工が多い地区そうでない地区など、現場に合わせた運用が必要だ、という声もある。自治体のローカルルール問題も同様である。

なお、ローカルルールの問題とロボティクスの問題は、国だけではないようだ。以前、お世話になったある大企業のシステム担当経験者によれば、

「いやあ。驚いたよ。大阪に転勤したら、会計の事務フローが異なっていた。省略していい書類そうでない書類が本社と異なっていたんだよ。大阪ルールで運営されていて、一律のシステムの導入の障害になった」

とこぼしていた。民間企業でも、東日本と西日本で違ういう問題があるようだ。

ロボティクスやAIを現場に導入するにあたっては、こうしたローカルルールを整備していく必要がある。事務を全国で規格化することが、必要不可欠である。行政の手続にシステムを導入してもローカルルールがあると二度手間になってしまう。こうした、ローカルルールを整備して、全国の事務を規格化していくことで、効率の良い行政ができる。

3.なぜ政府の電子化が進まないのか?政省令から考える

日本政府は、エストニアや韓国の電子政府をモデルにしながら何度も行政手続の電子化が頓挫してきた。行政手続を全部オンラインでもできるようにしたことがある。事実上、数十年にわたり利用されていない行政手続があり、そもそもそんなものまでオンライン化する必要があるのか?という議論が存在した。

また、役所の手続は、法人の開設、社会保険・労働保険の手続、介護の手続にしても膨大な添付書類が必要で、窓口が複数まわらないといけないものもある。なぜ、オンラインで利用しないかを企業の担当者に聞くと、

「役所の手続は複雑だからやっぱり、事務の人に聞きながらやる方が安心」

と言われてしまう。

http://www.e-gov.go.jp/help/shinsei/doc/pdf/05_H26material_practice_SUPPL02.pdf

社会保険・雇用保険の手続では、賃金台帳、契約書、就業規則・・・膨大な添付書類をPDFやjpgで添付して提出する必要がある。書類作成の手間の他に各種添付書類が求められる。手続によっては、添付書類を省略出来るものの、ハローワークの管区ごとに異なる(上述のローカルルールの問題)ため、本社が支社の分を全て一括でやろうにも結局、管区ごとのローカルルールへの対応で苦慮してしまうケースもあるという。とは言え、賃金の支払い。、就業規則などが適切に会社に守って行く必要もあるため、添付書類の削減は四苦八苦するポイントである。

また、法律が制定された当時の状況と電子化した際の状況があっていないものもある。2020年から大企業については、社会保険・雇用保険の手続についてはオンラインの使用が義務化されるが、その際に健保組合や労働保険事務組合に加入している企業にとって果たして効率化されるのか?という問題がある。健康保険事務組合、労働保険事務組合に入っている企業では、厚生年金の手続が電子申請、健康保険と雇用保険の手続は紙で実施するという事態になりかねない。厚生年金と健康保険は長らく社会保険庁が担当しており、申請書類のフォーマットは一緒なので、紙で手続する際には複写して提出すること、同一データを磁気媒体で提出することができるが、オンラインで申請する場合二度手間になる。

他にも、税と社会保険料を別々にするのではなく、一つの手続で出来ないか?とする議論がある。その議論の代表的なものは、歳入庁構想である。税の滞納者と社会保険料の滞納者は比較的近いだろうし、どちらも政府に納めるものだから、一つにした方が分かりやすいのでは?という意見がある。簡素化した上で業務フローを構築し直して、オンライン化した方が良い?という議論もあった。ただ、現実問題、税と社会保障は別々の官庁(国税庁と厚労省・日本年金機構)な上に法律体系が異なる。税は脱税した場合、刑事罰が課せられるのに対して、社会保険の場合は延滞金と差し押さえ処分など行政処分で対応する等異なる。このあたりの整合性を取るためには大掛かりな法律の見直しと業務フローの見直しが必要である。

政省令にあわせてシステムを組んで行く必要があり、システムにあわせて政省令が変えて行くわけではない点に非常に難しさがある。とは言え、ロボティクスやAIを導入して行くとなれば、このあたりの大幅な簡素化・規格化が求められるであろう。

おわりにーエストニアは会計士・税理士が消えたのか?

外部連携APIが導入され、社会保険や労働保険は日常で使用している労務管理ソフトウェア等からボタン一つで手続出来るようになれば、社労士は消えるのか?という議論がしばしば話題になった。エストニアの事例等とあわせて議論があった。

世界で一番オンライン化が進んでいるエストニアでは、税務処理や社会保険等の行政手続がオンラインでしかも、簡単に出来るため、会計士・税理士が消えた、という話があった。

この話は、ある面はホントである面は嘘である。正確な話をすれば、行政手続だけで仕事をしていた士業は消えて、コンサルティング業等の専門家が対人でやらなければならない仕事を専門的にやるようになった、とのことである。

社労士が消えるのか?という議論では、行政手続だけを専門としている零細の事業所がなくなり、コンサルティングが得意な事業所がより強くなっていく、ということが結論であった。そのうち、オンラインで行う簡単な手続もロボティクスやAIの分野になって行く。

人でなければならない仕事に専念出来て、より生産性や創造性が高い社会づくりこそが2040年へのビジョンであろう。人手不足に対応した社会をつくって行くことが出来る。

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