[CCLab21秋]この幸せが本物であることをたしかなものにする強度、それだけあればいい。

徳井直生研究室のX-IDOLチームは今学期、ルンバにおける身体と精神の動的乖離を基に、私たちの世界の多層性について議論と制作を進めた。

背景

ルンバを開発したiRobot社は今のように多くの人に家庭用ロボットカンパニーとして認知されるようになる以前、「火星での探索活動用ロボット」や「原子力関連施設の清掃用ロボット」、「カエル型玩具ロボット」など、幅広く多様なロボットを開発してきた。

1997年には陸地の地雷探査・除去ロボット「Fetch(フェッチ)」を開発した。紛争地域で同じ場所を何度も行き来して地雷の見落としを防ぐアルゴリズムを用い、これが後にルンバのアルゴリズムのプロトタイプとなった。

地雷探査・除去ロボット「Fetch(フェッチ)」
地雷探査・除去ロボット「Fetch(フェッチ)」

私たちはルンバがほこりを掃除するために使用されているアルゴリズムが元々は地雷を探査するためのアルゴリズムである点から、ルンバには身体(ハードウェア)と精神(ソフトウェア)の動的乖離が起きているのではないかと考えた。彼らは今でも地雷を探しているつもりで平らな部屋を動き回っているのではないか、ということだ。

制作

今学期は、この「ルンバにおけるハードとソフトの動的乖離」をベースに「人間においても身体と精神の動的乖離が起きているのではないか?」という問いを加え、今後の作品制作の指針となるコンセプトムービーを制作した。この映像は絵コンテからナレーション、3DCG映像の製作まで私が担当したこともあり、ここからはその説明をメインに進めようと思う。

まず、映像冒頭ではルンバに使用されているアルゴリズムが地雷探査・除去のために開発されたものであるということを説明する。

次に、ルンバが部屋の中を動き回って掃除する主観映像を見せ、

そのルンバが見ている光景が、戦場に変わる。実写映像の方でぶつかった白いドアは、彼が見ている景色では地雷の警告標識として映る。

実写映像に映る部屋と同じ広さの野原を動き回る主観映像が続き、その後実写映像とCG映像の間隔が短くなるにつれて部屋と戦場がリンクし、ルンバがいる場所と見ている景色が異なっている様子を見せる。

ここから映像は人間の話に移る。戦場から帰還した軍人が部屋でVRゴーグルを着け、The Walking Deadをプレイする。身体が実写の部屋に置かれ、精神がCGの戦場を見ているという構造が、ルンバと人間とでリンクする。

彼の目には、部屋には存在しない敵とフィールドが映る。

私たちがVRゴーグルを着けてゲームをするとき、身体と精神は動的に乖離しているのではないか。現状ではVR空間の解像度や完成度が低いため、没入感がありつつも現実空間と仮想空間の境目ははっきりとしている。しかし、仮想空間が現実空間に限りなく近づいたとき ーーー そう私たちが認識するようになったとき ーーー 身体と精神は乖離し始める。

最後にルンバの映像に戻し、締めくくる。

「私たちは今日も、戦場へ出かける。

フィールドは広大だ。

きっとすぐに地雷/ほこりは見つかるだろう。」

私たちは今日も狩りへと出かける

サファリパークは広大だ

きっとすぐに獲物は見つかるだろう

- 佐藤遼太郎『Monkey Magic』

--

--