ブロックチェーンというか、”銀行”が世界を変える

~ブロックチェーンで世界を変えるための第10歩~

フィンテックが金融仲介や決済などの銀行機能を代替し、ディスラプト(破壊)してるようでしていないような、一部の人にとって非常に居心地悪い時代が訪れています。気付いてしまった銀行員は強烈な危機感を抱き、新技術を理解し、手で触って、訪れる変化に準備を始めています。フィンテックの本命(!?)、エンタープライズ・ブロックチェーンが創り出す新しいエコシステムが業界の枠を超えて世界を変えようとしていますが、最終的にはその一歩を踏み出す銀行次第なのでは、と一人思考の迷路に迷い込んでいます。


銀行ビジネスの基本路線

さて、銀行が世界をどう変えていくかを議論する前に、まずはそもそもの銀行ビジネスについて理解を合わせましょう。銀行の収益は、金利収入と非金利収入に大別されます。前者は、低金利で預金を集めて、高金利で貸出し、利ザヤで稼ぐ、という分かりやすいモデルです。マイナス金利の昨今(というかずっと)、このモデルは厳しさが増しており、”金余り”と呼ばれる状況が続いています。一方、後者は、手数料ビジネスであり、決済とそれに伴う金融サービスを対価に収益を受け取るビジネスです。例えば、シンジケートローンの組成手数料などが代表例です。こちらの方は、マイナス金利に関係なく銀行は力を入れていけば良さそうですが、フィンテックな人たちがいます。この人たちとの付き合い方を考えなければいけません。いずれにせよ、金利・非金利を問わず、銀行は顧客よりも多くの情報と知識を持ち、その非対称性(情報格差)をテコに金融ニーズを捉え商売する、というのが基本路線です。


インターネットが銀行への期待値を変えた

コーポレート・バンキングの世界では、銀行員一人ひとりがより多くの知識と情報を持ち、銀行の顧客である事業会社に対してアドバイス出来る良き相談相手になることが求められます。顧客が課題に直面した際に最初に電話する相手になる、これが銀行員の目標です。

”Be the first call!”と鼓舞します。 Photo by Jim Reardan on Unsplash

例えば、”業務の範囲内”で会計・税務の知識を生かした 節税を提言したり、顧客の経営状況に基づき資金調達やM&Aを提案したり、現場を調査・ヒアリングして事業立案のアイデア出しまで”雑談出来る”経営コンサルタント的動きが顧客から期待されます。中小企業診断士の資格保有を高らかに謳っている銀行員もいれば、毎日Financial Timesを読んで海外の情報を顧客に提供する銀行員もいます。しかし、知識や情報を多く持つことが優位性に繋がる時代は終わりつつあります。インターネットのおかげで、情報やアドバイスはリアルタイムかつほぼ無料で提供されています(とは言え、日本では英語の壁が高いため、Financial Timesの情報を日本語で提供する基本動作は非常に喜ばれます)。


銀行はディスラプトされていない

1994年にビル・ゲイツが「銀行機能はいるが、銀行はいらいない」と言ってしまってから25年、この予言が実現するように、インターネットが情報の非対称性をフラット化し、銀行機能のアンバンドリングを進めています。銀行ビジネスを侵食するフィンテック企業が台頭してきた時期、よく”ディスラプト(破壊)”という言葉が使われていました。しかし、蓋を開けてみると実際に銀行がディスラプトされることはなく、また銀行がこのようなフィンテック企業を潰しにかかるのでもなく、想定外に両者は仲良しになってしまいました。銀行はフィンテック企業に”ちょっと”投資し、又は業務提携し、銀行単体では開発出来ない商品・サービスを、銀行の付加サービスとして提供し始めました。差別化を図ろうとする動きですが、似たような銀行機能が名前を変えて提供されているだけのようにも見えます。静かに銀行機能がフィンテックに代替され続けている事実は、「結局銀行に何が残るのか?」といった銀行の役割に対する根源的な疑問を投げかけます。

「銀行の役割」とは何か? Image by Anemone123 from Pixabay

そこにエンタープライズ・ブロックチェーンという次の波が来ています。これは個別に差別化を図る動きではなく、業界横断で協働してエコシステムを創ろうとする動きです。ここで銀行はどのように振舞うべきでしょうか。


新しい時代の新しい期待値

知識や情報が無料で手に入るインターネットの時代であっても、事業会社はまだ銀行にアドバイスを求めています。もちろんインターネットで拾ってきた情報ではなく、「生の声」であり「経験談」です。このデジタル・トランスフォーメーションの時代(DX時代)では、AI、IoT、RPAに自動運転、そしてブロックチェーンといった第4次産業革命に関する新技術について普通に意見を求められることもあります。この難易度が高い…実際、事業会社の人は専門外の技術トレンドを良く調べていて、技術の提供側であるシステム会社よりも詳しかったりします(インターネットで調べただけの情報で知ったかぶりすると刺されます)。

幸い、銀行自体は情報処理産業であり、最近になって急にデジタル化を始めた訳ではありません。自らがお手本となってデジタル化を推進し、その経験をもとに新たなビジネスの在り方を事業会社に提示する、最近ではこのようなアドバイスが求められます。

アイデア溢れる銀行員はiPad使ってますよね Image by Gerd Altmann from Pixabay

銀行にとって悩ましいのは、このようなアドバイスをしても、銀行の基本路線である融資や決済が取れる訳ではなく、でもアドバイスしないとやはり取れない。顧客からの信頼を勝ち取るためにアドバイスは必要ですが、そのアドバイスを元に別の銀行と取引してもらっても困ります。でもしないと、アドバイスしてくる他の銀行になびいてしまう……事業会社からの期待値と銀行の役割の狭間で葛藤があるのです。


”悩ましい”貿易金融×ブロックチェーン

さて、ともかく銀行自体がビジネスモデルを変革してお客様にそのお手本を示す必要のあるDX時代、期待されている技術がブロックチェーンであり、その中でも貿易金融(トレードファイナンス)が注目されています。アジア開発銀行の見積もりによると、約150兆円ものトレードギャップ(輸出者/輸入者が必要としているが、銀行が提供出来ていない金融ニーズの金額)があると言われており、最もニーズの高いユースケースとも言えます。

貿易といえばコンテナ船。本牧ふ頭。 Image by Rudy and Peter Skitterians from Pixabay

貿易金融は、決済方法により大きく分けて、信用状取引とオープンカウント取引があります。共に端的には「貿易取引を電子化しましょう」という、恐ろしいほど地味なテーマです。紙の書類を出来るだけデータ化することで、電子的なマッチングを可能とし、チェック作業の効率化、取引のリスク軽減を目的にしています。あくまでこれまで企業が進めてきた電子化の歴史の延長にある取組みです(当面は)。第三者からすれば、「早くやってしまえば?」と考えてしまうのですが、貿易金融×ブロックチェーンは、銀行にとってまたもや葛藤ある悩ましい世界を実現出来てしまうのです。一言でいうと”マルチ・バンク・ソリューション”の世界です。


もはや囲い込みの時代ではない

そもそもB2Bの世界における基本戦略は、業界を問わず”囲い込み”です。例えば、最初に低価格で商品・サービスを一気に拡販し、”それなしでは生きれない”戦略であったり、もしくは技術的なスイッチング・コストを上げて、”乗り換えるとこれまでの努力が水の泡”戦略だったり、顧客のメリットを際立たせ、デメリットを伏せて気付かれないように囲い込みします。

私が長年専門としてきた大規模システム開発の仕事でも、一つのプロジェクトを無事完了した後、後続フェーズを継続受注出来るかが問われます。ここでの決め手は、先行フェーズの実績、蓄積したプロジェクト管理ノウハウ、ご提案金額も重要ですが、最終的には”顧客との信頼関係”に尽きます。顧客にご満足頂ける成果を出せれば次があり、出せなければなしです。

お客様から握手を求められたいですね(^^♪ Image by Gerd Altmann from Pixabay

銀行に限らず顧客にサービス・商品を提供する立場の人間は、顧客本位の観点で真にメリットあるご提案をしなければなりません(コンサル魂)。顧客本位でのご提案は時として自社の利益にならないこともあります。囲い込みはしたい、でも顧客本位で行くと儲からない、だからやはり囲い込みで行くしかない…しかし囲い込み戦略のデメリットは、顧客が「囲い込まれている」とすぐに気付く点です。これでは顧客の信頼を得られません。


プルダウンで銀行を選ぶ時代

さて、貿易金融において、世界を舞台に活躍する事業会社は、世界中の銀行と取引があり、そこに口座を持っています。貿易取引にファイナンスを付ける場合であっても、1社の銀行だけがすべての貿易金融取引に関わる訳ではありません。銀行は、取引の都度座組を整えて、迅速に貿易取引を捌いていかなければなりませんが、これが紙ベースだととても非効率です。もしくは個別の銀行が提供する集中型サービスを利用しようとすると、それ毎に顧客はポータルを使い分ける必要があり(いわゆる多画面問題)、事業会社の目線ではデータが散在してしまいます。とはいえ、「新規にAPIで繋ぎましょう!」なんて言ってしまうと、世界中の銀行と事業会社を個別に接続しないといけない、そんな時間もお金もありません。

エンタープライズ・ブロックチェーンは、インターネット上に情報だけでなく、価値交換を可能なレイヤーを追加します。つまり画面上で取引の最初から最後までを完結させてしまいます。導入も簡単で、各社毎にノード建て、貿易金融アプリとCorda(^^)/をインストールして、認証局に”自社が自社である証明”を登録すれば、すぐにでも事業会社は銀行にファイナンスの依頼をかけられます。後は画面からプルダウンで銀行を選ぶだけです

「画面だけで取引が完結する世界」Image by Gerd Altmann from Pixabay

事業会社にとってメリットのある”マルチ・バンク・ソリューション”の完成です。でも、銀行は「早速取り掛かろう!」とはならないのです。なぜならそう、銀行がプルダウンで選べてしまうからです。


銀行に問われる選択

貿易金融は、貿易に関わる複数のプレイヤーが維持する個別システムのサイロ化を解消する、ブロックチェーンにとっては”完璧なユースケース”です。実現するエコシステムは、事業会社が銀行を比較検討出来るオープンな取引環境です。銀行にとっては価格競争を招きかねない破壊的ソリューションです。だから銀行は選択を迫られます。これまで通り、囲い込み戦略を固辞し、最新テクノロジーを活用した貿易金融を提案しない(教えない)か、それとも顧客の利益を考え、もしかして取引量が減ってしまう可能性を含めつつ、新しいエコシステムを提示するか。これが問われているのです。

ちなみに、事業会社はこのエコシステムが技術的に可能なのことを知っています

顧客はなぜその銀行を選ぶか?

とはいえ、銀行と事業会社は、本当にプルダウンで選ぶだけの関係ではありません。手数料の大小だけで決まるほど単純な関係でもありません。これまでの信頼関係と、これからどんな世界を見せてくれるか、その期待値に対する割引キャッシュ・フローの方が重要です。英大手Lloyds BankのAntonio CEOによると、

なのです。このextraordinaryを見せるには、これまで提供してきた知識や情報だけでは足りません。自らのデジタルトランスフォーメーションの経験を踏まえて、顧客本位でメリットあるアイデアを、他社に先行をして顧客に提案する必要があるのです。グローバルに活躍する革新的銀行は既に始めています。

異なる銀行同士で貿易金融の未来を語り合ってます at CordaCon 2019。

銀行は顧客に先進性を見せられるか?

銀行はこれまで他行と大して差のない社内システム、顧客向けソリューションを開発してきました。銀行のコア・ビジネスを支える仕組みですので、他行とシェアする訳にはいきません。これがあるから顧客を囲い込み出来る(と信じている)のです。しかし、業界全体で考えれば多重投資とも言えます。個別行毎に嵩む開発コストは、その銀行の商品・サービスの手数料に転嫁されています。複数の銀行と付き合うグローバル企業にとっては嬉しいものではありません。顧客の論理で作られていないからです。

エンタープライズ・ブロックチェーンを活用すれば、業界横断で使えるエコシステムが簡単に構築出来ます。一つのアプリを複数の事業会社、銀行が共有し、でも共有したくないデータは個別のデータベースで別々に持てば良いのです(つまり分散台帳)。

Cordaですねこれは(^^)/

このエコシステムは、銀行にとってより競争の厳しい環境ですが、同時に新しい顧客を掴むチャンスでもあります。だから、早く事業会社に提案して、リーダーポジションを獲得した方が賢い戦略です。


顧客のために銀行の役割を超える

事業会社が銀行に求めているのはその先の世界です。DX時代の技術を使って、銀行がどのような新しい商品・サービスを見せてくれるか。例えば、「どうすればGAFAに対抗できるか?」、そのアイデアが求められています。おそらく銀行だけでは達成できず、パートナーが必要となるでしょう。パートナーにはフィンテック企業やシステム・インテグレーターだけでなく、競合する他行、顧客と競合する事業会社も含まれるかもしれません。そうなると、もはや銀行単体で実現出来る世界ではありません。しかし、銀行の役割を超え、パートナーを巻き込み、顧客本位で”エコシステムの創出”に動き出した銀行(員)は他と違って見えるでしょう。結果、選ばれます。ここまで来ると、たとえプルダウンがあったとしても、事業会社は銀行を選ぶ必要はないかもしれません。

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Cordaで世界を変えよう

山田 宗俊 (Munetoshi Yamada)

Written by

エンタープライズ・ブロックチェーン企業R3とSBIの合弁会社SBI R3 Japanでビジネス開発しています。Corda推。

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