トレーサビリティ・サービスSHIMENAWAとは~第三回~

YuIku
Corda japan
Published in
Feb 28, 2022

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第一回 金融領域・実業領域のブロックチェーン
第二回 NFTとトレーサビリティの違い
第三回 SHIMENAWAの目指すところ

前々回、前回と、弊社(SBIトレーサビリティ株式会社)の考えるトレーサビリティの意義について弊社インターンの池口から記事を出させていただきました。

今回はその最終回です。SHIMENAWAの目指すところを弊社CTOである私からお示しさせていただければと思います。

アジェンダは次の通りです。
1. 紐付けの壁、規制の壁
2. Why not Blockchain?
3. トレースフォワード、トレースバック、そしてバーティカルトレース
4. まとめ

ではさっそく始めていきましょう。

1.紐付けの壁、規制の壁

前回のブログでトレーサビリティを商用するには2種類の壁があることをお話ししました。

・実際のものと情報をいかに紐付けするのかという「紐付けの壁」

・商用化するにあたって超えなければいけない「規制の壁」

の二つです。

私がお客様からよく質問される内容に

「書かれたデータが正しいことをブロックチェーンはどうやって証明するのでしょうか?」

というものがあります。もちろん答えは

「そんなことできません」

となります。ブロックチェーンは魔法の杖ではありません。確かにブロックチェーンに書き込まれたデータはサーバや国の垣根を超えて改ざんできないことを保証できますし、このネットワーク越しの保証を通じて価値の移転も実現できます。
しかし、書き込まれるデータが正しいことを証明することは不可能です。ブロックチェーンの上に「1+1=3」と書けば1+1は3になるでしょうか? 書き込むデータそのものの真正性はブロックチェーンに担保できる話ではありません。

NFTの課題もここにあります。Code Is Lawだと言い切って、ピカソの絵をデジタルコピーしてNFT発行したとして。その所有権はおろか著作権を主張することはできません。できたら困るはずのこの大前提を忘れるべきではないと考えます。

これは技術課題ではなく、ビジネス課題です。ビジネス課題はあくまでビジネス的に解決しましょう。例えば、所有権を主張するなら裁判所の署名を手に入れる。著作権なら特許庁の署名を手に入れる。これが正攻法だと私は考えます。(国を跨ぐのであれば国際的な金融機関や国際的な組織が必要になります、これがいわゆる貿易金融・貿易決済の分野で、プライベートブロックチェーンがいち早く浸透している分野でもあります)

ブロックチェーンに載せたデータの正しさは、それだけでは証明できない。もちろん、現物との紐付けも同じです。だからこそ、いろいろな形で「補強」する必要があります。こうした補強を提供するために必要な取り組みが二つあります。

一つは「国や業界団体を巻き込むこと」

一つは「IoT連携を目指すこと」

です。

国や業界団体は、トレーサビリティを取ることで商品価値を上げる取り組みに対する強いインセンティブを持ちます。例えば米国では農産物を海外から輸入する際にトレーサビリティ情報を即時(24時間以内)に提示できる体制を整えること、という規制が存在します。当然、農産物輸出に力を入れる国では、そのトレーサビリティ規制に対応することは喫緊の課題となります。後述しますが、トレーサビリティを取るにあたってはさまざまなビジネス上の課題があります。そのため、ともすれば「総論賛成、各論反対」という状況に陥りやすい。総論を引っ張ることのできる国や業界団体とのコミニュケーションを通じて、弊社ビジネスをドライブさせるのはもちろんのこと、情報の「補強」をいかに実現するかという課題に対しても非常に有意義な知見が得られるというふうに弊社では考えています。

次にIoTですが、IoTとは「Internet of Things」の略。つまり、”もの(things)”をインターネットと接続していくための技術です。トレーサビリティは特定の”もの”の履歴をシステム上に記録するビジネスなので、そもそも非常に相性がいい。また、IoT機器は”もの”の情報をリアルタイムに自動取得できることが多く、リアルタイムに採られる情報は(相対的に)正しい情報です。「補強」のためにも、IoT連係は必要だと考えています。

こうした国、業界団体、IoTなど、様々なパートナーと一緒により正しい情報を提供することが弊社の考えるトレーサビリティサービスになります。こうした目標に向けて、弊社ではトレーサビリティサービスを顧客それぞれが管理、運用する以下のようなアーキテクチャを将来像として掲げています。

2. Why BlockchainからWhy not Blockchainへ

さて、こうした取り組みを展開する上で非常によく聞かれる質問が

「Blockchain必要ですか?高いのに・・・」

という質問です。

もちろん、Blockchain技術は高い。専門知識を持ったエンジニアも必要です。そしてまた、今我々の手元にあるMVPソリューションをBlockchainなしに実現できないのですか?と聞かれれば実現可能ですとお答えすることになります。

では、なぜ今Blockchain技術を導入しているのか?それは、Blockchain無しには実現できないビジネスが見えているかです。

初回のブログで紹介した通り、金融の世界ではいち早く基盤のBlockchain化が進んでいます。こうした基盤が遠くない将来当たり前になってきた時に、実際の”もの”に紐づくITシステムがBlockchain化していなければ、間違いなくそのITシステムは時代遅れであるとみなされるようになります。

もちろん、既にあるシステムをBlockchain化する場合、非常に技術的、ビジネス的な困難を伴います。それなりに癖のある技術であるBlockchainの特性に合わせたビジネスプロセスの再構築はハードルの高いものかもしれません。しかし、トレーサビリティはビジネスの再構築ではありません。新規ビジネス。新規サービスです。そんな

トレーサビリティにおいては、”Why Blockchain”ではなく”Why not Blockchain”

(なぜブロックチェーン技術を使わないのか?)という質問こそが適切です。はっきりした答えがないなら使っておくべきです。

もちろん、トレーサビリティサービスにとって、ブロックチェーンであるべき理由ももちろん存在します。それはこのブログの最後に紹介します。

3. トレースフォワード、トレースバック、そしてバーティカルトレース

続いて、トレーサビリティに関する3つの方向性について説明したいと思います。トレーサビリティには3つの方向性があります。

  1. トレースバック
  2. トレースフォワード
  3. トレースバーティカル

の3つです。それぞれどんなものか、簡単に説明していきましょう。

トレースバック

トレースバックとは、手元に届いたある商品に対する情報を遡って探すことを意味します。その商品がどこで組み立てられたのか?どんなパーツで構成されているのか?さらに、そのパーツはどこで作られたのか?そして原材料はなにか?原材料の産地は・・・一つの商品に対して遡及していく(できる)ことがトレースバックです。トレースバック実現には大きく分けると二つの課題があります。

・卸問屋など、仲介業者のビジネスのあり方を大きく阻害する。
・トレースに必要な情報は商流の途中に存在する各社ごとに異なる管理をしており、それを整理するアーキテクチャが必要になる。

こうした課題に対して、弊社では

・Cordaの使用によるビジネスプライバシーの確保

・GS1/EPICS等が定める物流管理アーキテクチャをベースにしたトレーサビリティ情報に対する独自の管理手法の構築(設計中)

などによって技術/ビジネス上の課題を克服しようとしています。

トレースフォワード

トレースフォワードとは、例えば特定の部品にリコールがかかった場合に、当該部品を使用した商品をサプライチェーン上で特定し、その商品を生産・販売・保有する主体にその問題を通知する機能です。あるロットのタイヤにパンクの危険性があるならば、そのタイヤを使ったすべての自動車に対して緊急連絡する必要がある。といったお話です。(悪い例にタイヤを使っていることに何の他意もありません。ご容赦ください)

トレースフォワード実現には以下のような課題があります。

・トレースフォワードを実現するためには、ある部品がサプライチェーン上のどこを流れたのかについてその部品の生産者が知る必要がある。

弊社では、まだこの課題に対して最適なアーキテクチャを構成できておりません。やり方としては

・リコール情報を一元管理・展開する主体を用意する。

・スマートコントラクトに情報展開義務を負わせる。

・サプライチェーンに参加している企業にリコール情報の展開責任を負わせる。

などがあり、個人的には3つ目が適切だと考えていますが、まだまだ検討中です。(一つ目は商流の全てを把握する主体を仮定していて非現実的。二つ目はプライバシー要件を無視するので非現実的。)

バーティカルトレース

最後に、バーティカルトレースという概念を紹介します。こちらの言葉は私の造語です。ググってみたけれど出てこなかった・・

トレースバーティカルとは、自分の手元にある商品と同じ商品が、いったいどこの誰に届いているのかを示すトレーサビリティ機能の一つです。

トレースバーティカルは、トレーサビリティにおいてブロックチェーンを用いる価値を示しやすい一つの例になります。どういうことでしょう?

端的に言えば「信頼できる口コミの共有」です。例えば手元にある一本のお酒のボトルのことを考えてみます。自分の手元にある美味しいお酒は、他に誰が持っているのか。既に飲んだ人は美味しいと思っているのか。そもそもこの貴重なボトルは世界にあと何本残っているのか。

こうした情報は従来「口コミ」として流通してきたと考えています。ただ一方でこうした情報は真偽を確かめる術がありません。結果こうした口コミを共有するサイトの信頼性は下がっているのが現状です。”口コミの真偽を確かめるサイト”すら存在する。しかしブロックチェーントレーサビリティサービスがあれば、偽物の口コミを排除できます。生産された酒の総量をブロックチェーン上でトレーサビリティを取る。そうすると、トレーサビリティを取ったお酒が今どこで、誰が持っているのかを管理できます。あたかもお酒がブロックチェーン上のトークンであるかのような考え方です。

そして、本当にお酒を持っている、飲んでいる本人だけが書き込むことのできる口コミをブロックチェーン上に載せていく。この口コミの信憑性は、非常に高いはずです。

世の中にあと5本しか残っていない希少なワインがあったとして。
バーティカルトレースによって、持ち主が集まって一本だけ開けて楽しむなんて世界も作れるかもしれません。

4. まとめ

この記事では弊社(SBIトレーサビリティ)が取り組むトレーサビリティサービスのあり方についてご説明差し上げました。ご興味があればSBI R3 Japan、または弊社へ直接ご連絡いただければ幸いです。

SHIMENAWA(弊社トレーサビリティサービス)は、一社単独で提供できるものではなく、多くの企業・団体様との協業があって初めて実現できるサービスだと考えています。様々な観点を持ち寄って、より良い世界を実現する助けになればいいと思っております。

長くなりましたがご一読ありがとうございました。

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YuIku
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