「意識」について #1

Couger Team
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Published in
Sep 20, 2023

今回より複数回に渡って、バーチャルヒューマンラボ副所長の手記を公開いたします。できるだけ人間に近い処理をするシステムを作り、社会の役に立てたい、そのためにどうすればいいかを考察した記録です。

意識という概念について

・「意識」という概念(言葉)は多様な意味を包含しており、人によって使われ方が違っていたりする。

・最初に「意識」という概念を分解して、どの部分についての議論やアイディアかを明確にするのが非常に大切。

・哲学者のネド・ブロックが「意識」という概念を現象的意識とアクセス意識に分解した。

・哲学者のデヴィッド・チャーマーズは「意識」を現象的意識と機能的側面を分けて論じた。

・これらの構造をベースにアクセス意識の機能的側面を言葉の使われ方に沿ってさらに分解した構造を提案したい。

アクセス意識は現象的意識の一部にフォーカスした気づきを得ている状態というような意味で使われることが多いが、ネド・ブロックによれば、”現象的意識とアクセス意識は必ずしも重ならない”ということなので、現象意識を伴わないアクセス意識が生じうるという解釈ができる、よってここでは無意識も含めた推論・発話など高レベルな行動生成を行うための情報を得ている状態(≒ 意識の機能的側面)という意味で使う。

意識の構造

-現象的意識(Phenomenal Consciousness)

・主観的経験、質的経験、クオリア(自意識)、今まさに我々が感じているコレ。

・哲学の思考実験である「○○とはどのようなことか(What it is like)」もこれを問いとして扱っている。

例)「コウモリであるとはどのようなことか(What it is like to be a bat?)」
コウモリは口から超音波を発して、その反響音で周囲の状態を把握している。しかし、その知識があってもコウモリになったときにどんな感じになるのか想像できない。

主観的経験がどのようなものかは客観的な観察からは辿り着けないということ。

・アクセス意識(Access Consciousness) ≒ 意識の機能的側面

・推論・発話など高レベルな行動生成を行うためのシステムが利用可能な情報を得ている状態

・覚醒的機能
「意識がある」「意識がない」という言葉で表現される機能
機能全体が稼働している状態と稼働していない状態を切り替える機能、または段階的・漸次的に変化させる機能
意識がある状態とは、睡眠・失神・喪失・死亡していない状態

・注意的機能
「意識する」「意識しない」という言葉で表現される機能
機能全体で取り扱っている情報の特定部分にフォーカス(強い関心を持って深く考える)する機能 (選択的注意)
意識している状態とは、認識した情報のある部分に選択的な注意が向けられている状態

・判断的機能
「意識的に」「無意識的に」という言葉で表現される機能
機能全体で取り扱っている情報から状況を認識したり、自身の行動を決定する機能 (状況判断と意思決定)
意識的な行動とは、ある行動を選択・決定・実行している状態を自分自身で認識できてる状態
無意識的な行動とは、ある行動を選択・決定・実行している状態を自分自身で認識できていない状態
※「無意識的機能」もこの階層に入れたい。

意識という言葉の使われ方

・意識という言葉が単独で使われる時、基本的には意識の構造のどこかを指している。「意識はあったが、意識はできてなくて、無意識に動けた」という文章の意味が理解できる。

これは「現象的意識は発生していた(覚醒的機能で稼働状態にあった)が、注意的機能で対象にはフォーカスできておらず、判断的機能で自動的に行動できた」と解釈できる。

これ以外にも場面によっては「自己」「自我」「人格」「性格」「理解」「知能」などといった意味を含んでいることがある。

・意識という言葉が熟語で使われる時、注意的機能の部分で使われる言葉が非常に多い。

美意識: 注意的機能で美しさについて強い関心を持って深く考えている状態

プロ意識:注意的機能でプロフェッショナルとは何かについて強い関心を持って深く考えている状態

仲間意識 :注意的機能で仲間の状態について強い関心を持って深く考えている状態

目的意識 :注意的機能である目的について強い関心を持って深く考えている状態

問題意識 :注意的機能である問題について強い関心を持って深く考えている状態

意識が高い :注意的機能であることに強い関心を持って深く考えている状態 (意識が高い=目的意識+問題意識?)

・その他、「思考」のような意味で使われるものもある
意識調査 :思っていることを調査する (意見?)

意識改革 :考え方・気持ちの持ちようを変える

現象的意識を軸に意識の理論を分類してみる

若干間違っているかもしれないが、整理してみると意識に関する様々な理論がどの部分を扱っているのかがよくわかる。

・現象的意識あるよ派
現象的意識は機能で発生するよ派
計算論的アプローチ — — グローバル・ニューロナル・ワークスペース理論(GNW理論)
現象的意識がどうやって発生するかわからない派(調べたい派)
計算論的アプローチ — — 統合情報理論
量子論的アプローチ — — 量子脳理論

・現象的意識わからない(どうでもいい)派
現象的意識なんてないよ派
そんなもん幻想だよ派(過激派) — — 受動意識仮説
アクセス意識(機能的側面)が重要だよ派
実験的・解剖学的アプローチ
何か2つのシステムがある説 — — 二重過程理論
感情価で意思決定してる説 — — ソマティック・メーカー仮説
計算論的アプローチ — — ベイズ脳理論

意識と無意識

一般的な概念では「無意識」は「意識」とは別の機能と考えられている。

両方とも脳が持つ機能の一部ではあるが、意識と無意識は区別されており、これは二重過程理論の影響でそう考えられてきたと予想される。

しかし、意識全体が稼働していない状態では無意識的機能も動作していないことを考えると、無意識と呼んでいるものは現象的意識が発生していない(または現象的意識に先んじて動作する)判断的機能と言えるので、意識全体の機能の一部にすぎないのではないだろうか。(無意識という名称が良くない)

何が言いたいかというと、無意識は意識と切り離された別の存在ではなく、意識全体の機能の一部なのではないかということ。

「意識」について #2へと続く

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